やがて智子からメッセージが届き、明里は余計なことを考えず、試験勉強に専念することにした。研究所の方も、ようやく担当の仕事が終わり、同僚に引き継ぎを済ませると、彼女はその日の午後から借りている部屋に引っ越した。そして、あっという間に時間は過ぎ、明里は試験勉強の傍ら、毎日二時間、化学工場で働いていた。スケジュールはぎっしり詰まっており、感傷に浸る暇などなかった。三連休の前日、明里は玲奈から電話を受け、実家で食事をしないかと誘われた。考えてみれば、もう随分と実家には帰っていなかった。実家の家族が彼女に冷たいわけではない。ただ……もともと、幼い頃から両親は明里にとても優しかったのだ。全てが変わってしまったのは、慎吾の両親が亡くなり、彼が家に住み始めてからのことだった。明里には理解できなかった。自分こそが実の娘であるにもかかわらず、両親はいつでも、どんな時でも慎吾をえこひいきするのだ。玲奈は、慎吾には両親がいないのだから、その分たくさん愛情を注いであげるべきだと明里に説明した。明里とて物分かりが悪いわけではない。彼女もまた、両親を亡くした慎吾を不憫に思っていた。しかし、慎吾という男は、本当に手のかかる厄介者だった。明里が潤と結婚する前、慎吾は喧嘩で相手に重傷を負わせたことがあった。その時、相手側から提示された選択肢は二つ。慎吾を刑務所に入れるか、それとも示談金を払うか。村田家はごく普通の家庭で、そんな大金があるはずもなく、結局は家を売り払って、ようやくこの一件を解決したのだった。明里が潤と結婚した後、彼女の父親の村田哲也(むらた てつや)が病気で手術が必要になった時も、家には手術代すらなく、潤がその費用を支払ってくれた。その後も、明里の知らないうちに、慎吾は潤に家を一軒ねだった。現に数日前にも、また家を買うと言って、潤に金を要求してきたのだ。明里は潤の前で、もともと肩身の狭い思いをしていたのに、慎吾がさらに彼女の足を引っ張るのだ。もし慎吾が実の弟であれば、まだ我慢もできただろう。だが、所詮はいとこ。それに加え、両親は慎吾の言いなりで、明里の心境は複雑だった。だがそれでも、化学工場からの帰り、彼女は直接実家へ向かった。この家は潤が購入したもので、立地、環境、セキュリティ、どれをとっても一
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