凪はかなり上機嫌だった。母の形見の陶磁器を手に入れ、葵と明里の悔しそうな顔まで見られたからだ。お腹が空いてきた凪の横で、空は手際よくスープを取り分けてくれていた。「ありがとうございます」凪は明るい笑顔を見せた。忍の前では仲の良い夫婦を演じなければならないと、凪はよく分かっていた。「気に入ってくれたならよかった」空はその笑顔を見つめ、一瞬だけ指先を震わせた。しかしすぐに何事もなかったかのように手を引き、今度は凪の好きそうなおかずを取り分けてあげた。忍は満足そうにうなずいた。夫婦とはこうあるべきだと思ったのだ。しかし、そのやり取りを見ていた大輔の目には、どす黒い憎悪が宿っていた。……夕食が済んだ。空は、今日の発表会を終えた後の、投資配分の件で会社に戻らなければなかった。それでも彼はわざわざ遠回りをして、凪をブリーズ・ガーデンズの入り口まで送り届けてから、ようやく車を走らせた。凪は夜風に吹かれながら、入り口へと歩いていった。「凪」聞き慣れた声が聞こえてきた。凪は振り返ると、暗がりに渉が立っていた。焦りを滲ませた表情で、こちらへ歩いてくる。「凪、一緒にY市に帰ろう。親から早く結婚しろってせかされているんだ。でも、俺の相手は凪しか考えられない。戻ったら、凪が望んでいた通りにしよう。婚姻届を出して、そっちの好みの式を挙げる。株も返すし、家も新しく買い直すよ……もし直美が邪魔なら、海外へ行かせてもいい」そのとき、暗がりの方でカサッと音がした。凪は我に返った。渉が突然こんな一方的な要求をしてきたので、頭が追いつかなかったのだ。いきなり一体、何を言っているのだろう?すると物陰から、直美が信じられないといった様子でふらふらと歩み出てきた。「渉さん……会社で残業って言っていたのに。本当は、ここで凪さんを待ち伏せしていたのね。その上、凪さんを引き戻すために、私を海外へ追い出すつもりなの?最近、私の喘息がひどいのは知っているでしょ。いつも死にそうになるのに、海外に一人で放り出されたら、どうやって生きていけばいいの?」直美は、自分がコンビニへ何か買いに出たところで、偶然その言葉を聞いてしまうとは思ってもみなかった。渉はぎょっとして瞳を細めた。直美がこのタイミングで出てくるとは思っていなかったのだ
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