All Chapters of 許すとでも?私を15年愛す極上の夫を選ぶわ: Chapter 141 - Chapter 150

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第141話

葵は、驚きに目を見張った。「ちょっと……」「私と一緒に入りたいなら、それでもいいよ。お父さんに今すぐ電話して、本当にあなたを来させたのか聞いてみるから」凪は足を止め、振り返って葵を見た。葵の顔は真っ赤に染まったが、凪に電話させるわけにはいかなかった。大地が同意するはずがないのだ。葵と大輔は正式な婚約関係ではないし、春海こそが大輔の婚約者だ。葵がのこのこやって来れば、ただ恥をかくだけである。お父さんにだけは絶対に知られてはいけない……葵はどうにか凪の弱みを掴もうと頭をフル回転させたが、凪はそんな彼女を鼻で笑った。「あなたがいるべき場所ではないのだから、無駄に恥をさらさないで。家には車なんて山ほどあるんだから、どれでも適当に乗って帰ればいいじゃない?」そう言い残すと、凪は泉を連れて控室へ入って行き、扉を閉めた。春海は、先ほどの凪の毅然とした言葉にとても満足した。すぐに手を振り、警備員に指示して葵をつまみ出させ、薄笑いを浮かべた。「この女はうっとうしいけど、その姉の方は予想外に気が合いそうだわ」「しかし相手は黒崎社長の妻です、となると、この後の入札は……」「仕事は仕事よ。本人のことは好ましいけれど、ビジネスになれば関係ないわ」春海は秘書を冷たい目で一瞥し、静かに警告した。「余計な心配をしないでくれる?」「はい、失礼いたしました」秘書は冷や汗を拭いながら、急いで春海の後に続いた。一方で、控室の端にいた凪は、春海をじっと冷静に見極めていた。春海は裕福な家庭で育っただけのことはあり、いかにも令嬢らしくプライドが高そうだった。……40分後、いよいよ入札会が始まろうとしていた。会場には次々と人々が集まってきた。こうした席の常連ばかりのようで、あちこちで和やかに談笑する姿が見られた。春海も周囲と楽しそうに打ち解けていた。凪はK市での社交の場に慣れておらず、端の方で静かに控えていた。それでも春海は、凪が葵と同じ考えではないことを見抜いており、自ら礼儀正しく話しかけにやってきた。「これから大輔と婚約したら、あなたとも親しくさせてもらえるかしら?」会場の人間の一部は、凪が空の妻であることを知っていた。しかし、ほとんどの人間は、そこまでの事情を知らない。だが春海の今の台詞はどう考え
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第142話

周りの空気が、一瞬で凍りついた。同じ席で競い合う中で、こんな風に偉そうな態度で、堂々と他人の陰口を叩くなんて、このお堅い大物くらいのものだ。中島グループの実力を知る人物が、慌てて間に入ってなだめようとした。「隠し子という生まれは、本人が選んだわけじゃありません。そんなことを持ち出さなくても、お互い顔なじみなのですから」「生まれは選べないとしても、女の尻に敷かれて稼いだのは、自分で選んだ道でしょう?」部屋の隅から、どこの誰とも分からない声が響いた。すると、隣にいた太った男も乗っかるように嘲笑った。「なるほど。女を頼って成り上がった隠し子なんか、我々と同じテーブルに座る資格はありませんな」「若くて顔立ちが良いから、金持ちの女の目を引いたんでしょうな、ふふっ」冷やかす者が増えるにつれて、他の人たちも一斉に便乗して楽しげに笑い始めた。これだけ多くの人からそう言われている以上、単なる冗談じゃない。もはや彼は、みんなの見世物になっているのよ。渉は拳を強く握りしめ、思わず向かいに座る凪を見た。凪はそんな噂話など耳に入っていない様子で、隣の泉と静かに資料を見つめ、話し合っていた。凪はいつも、仕事に入ると驚くほど集中するのだ。過去の思い出が、ふっと胸に蘇ってきた。渉はかつて、凪と肩を並べて起業のために奔走していた時のことを思い出していた。当時は妙なプライドのせいで、他人に頭を下げることがどうしてもできなかった。だが、凪はいつも絶妙なタイミングで相手の顔を立て、並みいる実力者たちの間をうまく渡り歩き、小さなプロジェクトを勝ち取ってきてくれた。かつて凪が支えてくれたあの苦労こそが、今の自分の事業の基盤だったのだ。凪がいなければ、今の自分など存在しなかった。耳に入ってくる嘲笑に対して、渉は、一言も言い返すことができなかった。会議室の上席では、春海とその伯父・斎藤宗介(さいとう そうすけ)が一緒に並んで座っていた。宗介は各社の申請資料に目を通しており、くだらない噂話を、顔も上げずにただ聞き流していた。「二宮グループも中島グループも、芯まで腐りきった存在だ」「どんなに落ちぶれても、そこは大手企業だわ。口だけ達者なこいつらの実績では、中島家や二宮家には及ぶまい」春海は気にも留めていなかった。こんな
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第143話

さっきまで鼻で笑っていた連中が、すぐに態度を変えて渉に取り入り、媚びを売り始めた。凪は人だかりに囲まれた渉を一瞥もせず、泉を連れてその場を去った。二人はそのままエレベーターに乗り込む。泉が諭すように言った。「社長が下でお待ちです。葵さんがいらしたこともご存じですが、特にお咎めはありませんでした。お祝いの個室もすでに用意されています。今回の入札には相当な自信をお持ちのようです」大地は、葵が入札するつもりもなくただ見学に来ただけだと思ったのだろう。大きなトラブルもなかったので、当然責めるつもりもない。しかし、入札が失敗に終わったと知ればどうなるか?きっと態度を豹変させる。その予想は、寸分違わず的中した。凪が出口に差し掛かると、頬を赤く腫らした葵が泣いていた。「お姉さんは斎藤グループのお嬢様と一緒になって私を馬鹿にしたの。この平手打ちの痕を見て……取引先の人たちに見られて、もう一生、顔向けできないわ!」K市の名士ともなれば、互いの素性は皆が知っていた。大地にしてみれば、凪が人前で葵を晒し者にした。それすなわち自分自身が、この街の笑い者にされたのと同じだった。大地は怒りに顔を真っ赤にして、凪を怒鳴りつけた。「それに、なぜ落札できなかったんだ!由緒ある名家である我々二宮家が、中島グループに劣るわけがないだろう!俺のメンツはどうなるのだ!お祝いの個室まで用意したんだぞ。凪、わざと恥をさらしたいのか!?」理不尽な叱責が次々と浴びせられる。後を追ってきた渉は、この痛ましい叱責をしっかりと耳にしていた。自分の会社の入札が成功しなければ、凪が罵られることもなかったはずだ。渉が一歩前に出る。「大地さん。実は、今回突然に中島グループが落札に割り込んだせいなんです。だから凪は何一つ悪くありません……」がちゃり、と澄んだ音がした。修羅場の只中にある凪は、大地の理不尽な暴言も、庇ってくれる渉の言葉も気にもとめず、静かに車のドアを引いた。「選考は完璧に公正で、自分の実力がなかったからといって逆恨みは見苦しいわ。それに、葵の傷についても、斎藤グループのところへ行って話し合うのが筋でしょ。身内に向かってしか強気になれないわけ?そして渉、落札おめでとう」言い放った凪は涼しい顔で車に乗り込み、さっと走り
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第144話

二宮グループ。「資金がもう底をつきそうです。これら二つのプロジェクトは、現在一時中断されています。発注元からはうちに立て替えるよう言われていますが、現場は資金が出ないと動かない姿勢です。お金が手に入らないと、対応は極めて困難です。さらに、もう一つのプロジェクトですが……」秘書が何度も慌ただしく社長室に駆け込んでくる。大地は、お尻に火がついたようにうろたえていた。本来なら、入札さえ上手くいって資金を回収できれば、二宮グループの資金繰りも良くなるはずだったのだ。それが、落札を逃したばかりか……他のいくつかのプロジェクトまでも立ち行かなくなるとは。問題が次から次へと重なり、最悪の状況だ。大地はどうしていいのか全く分からなくなっていた。彼は社長室の中を行ったり来たりした後、画面に映る株価チャートを睨み、苦渋の決断を下した。「二宮グループの個人投資家向けの持ち株を売りに出してくれ」小口株主を入れて資金を呼び込もう。そうすれば、まだしばらくは持ちこたえられるかもしれない。「分かりました、すぐに手配します」秘書が急いで手配へと向かう。二宮グループの株価は、すぐさま目に見えて揺らぎ始めた。その様子を見ていた凪は、ストップがかかったプロジェクトの一覧に目を向け、視線を落とした。大地が我慢できずに株式を売却しようとしている今こそ、自分が外から買い進める絶好のチャンスだ。そこまで考えると、凪は決断した。彼女は泉を呼び出した。「個人的に手配してほしい仕事がある。ここにある『鈴木』という名義を使って、取引口座を用意しておいたわ。この名義を使って、市場に流れる二宮グループの株式をすべて買い取って。どれだけ損が出ても売らなくていい。必要な金額を計算してくれれば、2時間以内に口座へ振り込むから」泉は目を見張って、一瞬だけ驚きの表情を浮かべた。「ですが、私は二宮グループの社員です」凪は自社の社員に、偽りの名義を使って会社の株を買い占めさせようとしている。もしばれたら大変なことになるのに……凪はふっと微笑み、名義の書類と口座情報を泉の手元へそっと押しやった。「泉は、私の大切で信頼できる仲間よ」「かしこまりました」泉の瞳に決意の光が宿った。無能な大地や葵と比べるまでもない。聡明でやり手な凪
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第145話

「断るよ」凪ははっきりとそう答えると、席を立って帰ろうとした。大地は慌てて立ち上がり、両手をテーブルの端に押し当てた。「凪、待ちなさい!俺たちは親子なんだ。話し合えば分かるはずだ!渉さんの前で、二宮グループのために少し口を添えてくれるだけでいいんだ!間に入ってくれるなら、君のお母さんの好みに合わせた、専用の墓を建てることだって約束する。これでどうだ?」大地の声は、すがりつくかのようだった。あの日、入札が終わった後、渉が凪の車を必死に追いかけていくのを、この目でしっかりと見ていた。渉が凪にまだ未練があるのか、あるいは申し訳なさから埋め合わせをしたいだけなのか、どちらにせよだ。渉の心に少しでも凪がいれば、この交渉はうまくいく。渉を取り込んで、中島グループからの協力を引き出して融資してもらえれば、二宮グループは助かるのだ。凪はぴたっと足を止めた。大地の身勝手な言い草に、言葉を失ってしまった。「お父さんはいつも、私を利用したいときだけそうやって甘い言葉で期待を持たせる。もう騙されないわ」「凪!わかった、墓の話は一旦置いておこう。君が望むものなら何でも言う通りにする!だから渉さんと一度会って食事をしてくれ。そうすれば、何でも約束する!」大地は待ちきれない様子で、テーブルから飛び上がるようにして凪を引き留めた。凪は、そこでようやく、ゆっくりと振り返った。「何でもいい?」「で、できることならな!」大地は歯を食いしばった。少しの沈黙の後、大地の額に焦りの汗が滲み始めた頃、ようやく凪が口を開いた。「ミツキホールディングスがほしい」ミツキホールディングスは二宮グループの子会社だった。そこは凪の亡き母・二宮美月(にのみや みつき)を記念して、その名前をつけられた会社だ。昔、そこは美月のアトリエとして使われていた。その後、普通の会社になって規模が大きくなるにつれ、美月の影は薄れていってしまった。しかし今のミツキホールディングスは業績が落ち込み、倒産寸前になっている。大地の目が、ぱっと輝いた。彼はもともと、適当な口実を作ってミツキホールディングスを整理したいと考えていたのだ。まさか凪がそれを引き取ると言い出すとは思わなかった。これは願ってもない好機だ。「いいだろう。すぐに書類を準備させ
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第146話

凪の瞳を見つめ、その胸中を察したかのように、空はそっと車の鍵を差し出した。「これからの数日間、隆も俺と一緒に出張するから、送り迎えができなくなるんだ。この車ならあまり目立たない。当分の間、足代わりに使ってくれ」用事ついでに、車の鍵まで届けてくれるなんて。空は本当に頼れるパートナーだ。どんなに細かいことにも、よく気が回る。だから、凪もその好意を素直に受け取ることにした。貰ってばかりでは申し訳ない。凪はげた箱の上に置いてあった、陶器で作られた小さな柿の形をした置物を手に取り、空に手渡した。「これ、前に自分で作った置物なんです。私からのささやかなお礼です。道中、どうぞお気をつけください」置物は、触るとほんのり冷たかった。空はそれを受け取ってポケットにしまい、指先で愛おしそうにそっと撫でた。そうしながらも、彼は念を押すように告げる。「分かった。何か困ったことがあったら、いつでも電話してくれ」「わかりました」凪は笑顔で頷いた。空は背が高く、部屋の前でしきりに心配そうにしている。その様子は、なんだか年上の頼れる恋人のようで、少しこそばゆかった。優しくて気遣いも細やかだけど、ちょっと心配性すぎるくらいだ。それでも、空がこれほど自分を気にかけてくれることが、凪はとても嬉しかった。だが、空が二宮グループの内部にまで踏み込んだ心配を始めそうになったので、凪は苦笑しながら彼を遮った。「空さん、どうしてもダメな時はちゃんと相談しますから。黒崎家や、空さんに迷惑をかけるようなことはしません。それより、フライトの時間、ギリギリなんじゃないですか?」そう言われて、空はハッとした。思わず苦笑し、低い声で、「じゃあ、また」と優しく告げて背を向けた。エレベーターに乗り込むと、ポケットの中にある置物が、手の熱ですっかり温まっていた。凪は見送りながらエレベーターの扉が閉まるのを確認した。それから、ふと、「あれ?」と声を漏らした。「おかしいな。荷物を取りに来たんじゃなかったの?」なぜ、そのまま帰ってしまったのだろう?電話で聞こうとしたが、空のそばには隆がいる。きっと、事前に準備しておいてくれたのだろうと思い直した。向こうの様子も分からないのに今さら連絡したら、忙しい空たちの邪魔をしてしまうかも
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第147話

「どうしたの?」元気いっぱいの声に釣られて、凪も思わず表情を綻ばせる。そのままソファーにくたっと体を預け、クッションを抱きしめた。杏奈は電話越しにたっぷり甘えた後、改まった調子で話し始めた。「今、古い陶磁器の修復作業をしてるんだけど、ちょっとした問題が起きて進まなくなっちゃって。そしたら同僚が、凪のお母さんがそれと同じやり方のシリーズを出してたって教えてくれたの。もしかして今でも残ってないかな?本番の修復で失敗して、とんでもない事故になったら怖いから。完成品じゃなくてもいいの。少しキズがあるやつなんかがあれば、それで予行演習をして感覚を掴みたいの」言い終わると、杏奈は2枚の写真と関連する制作技法の詳細な資料をスマホに送ってきた。こうした分野に関して、凪もある程度専門的な目を持っていた。少しだけ記憶を探ってみる。「少しキズのある試作品なら、形見代わりに今でもお母さんの棚にしまってあるよ。ちょうどこの画像と形がそっくりだから、参考になるはず。良かったらこれから持っていってあげよう?」「本当!?嬉しい!助かるわ!」電話の向こうから、杏奈の浮き立つ声が降ってくる。相手が喜びのあまりに飛び跳ねているあどけない姿が容易に脳裏に描かれて、凪は自然と笑った。思い立ったが吉日という。幸いなことに、こちらもこれっぽっちも眠気などないのだし。凪はまずはスマホでタクシーを手配しようと思ったが、こんな真夜中に郊外の辺りまで行って、果たして帰りもすぐに車が拾えるだろうかと少し渋い顔になる。そのとき不意に目を向けた先の、下駄箱の上に車の鍵があった。「出来過ぎね」つい先ほど空から預かった車の鍵を、まさかこうして使うことになるなんて。夜中に陶磁器を探しに向かうだけなので、おしゃれなんかをする必要はない。凪はリラックスした格好のまま、車の鍵を掴んで地下駐車場へ向かった。地下駐車場のエレベーターの扉が開いた。凪が足を踏み出したその先に、見慣れた二人の人影がこちらへ歩いてくるのが見えた。「またあなたなの?」直美はイライラから態度が一気に露骨になり、まるで喧嘩腰のような物言いを向けた。「随分な深夜に、そのだらしのない格好で一体どちらまで行く気?」まるで彼女が夜中に誰かを誘惑するために家を出た、と言わんばかりの言い草だ
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第148話

渉は黙り込んだままだった。ただ、凪の手首を掴む力だけがだんだんと強くなっていく。痛い。凪は眉をひそめ、力任せに自分の手首を引き抜いた。「人の話を聞かない酔っ払いは、さっさと家に帰って」凪は冷たく言い放ち、周りを見回した。空が言っていた「目立たない車」を探した。だが、渉は引き下がれなかった。「こんな時間にここで誰を待っている?まさか、黒崎さんを待っているのか!?あいつがどういう男か知っているはずだろ……」ピッ。凪はもう相手にするのが面倒になり、車の鍵のボタンを押した。すると右側に停まっていた、白いカリナンのヘッドライトが点灯した。空が乗っているものと同じ最新型だが、空の車が黒なのに対して、こちらは純白だった。凪は呆れたように眉を上げた。カリナンが、目立たない?どうやら空の「目立たない」という感覚は、普通とはズレているらしい。凪が真っ直ぐ白いカリナンへと歩いていくのを、渉は呆然と見つめるしかなかった。二宮グループの財力では、実家で冷遇されている娘のために、こんな高級車を買い与えるはずがない。中島グループであっても、足代わりの普段使いにこんな高価な車を買いはしない。いくらなんでも金の無駄だ。この車、もしかして空が凪に贈ったものなのか?そう気付いた瞬間、渉の顔色は見る見るうちに険しくなった。傍らにいた直美は、驚きで目を見張っている。何億もする超高級車だ。凪は、こんな格好のまま乗り込むつもりなの!?二人はその場で、あまりの衝撃に言葉を失った。凪は軽く操作を確かめると、すぐにアクセルを踏み、例の陶磁器を探すために汐見台へ向かった。凪にとって、車などただの移動手段でしかなかった。赤いテールランプは、あっという間に暗闇に消えた。直美がようやく、我に返ったように呟く。「渉さん、凪さんがカリナンを足代わりにしてる。黒崎さんは、本気で凪さんのことが好きなのかな?なんだか急に、私たちとは住む世界が変わっちゃったみたい。私たちが車を見に行った時だって……」「もう黙れ!」渉はズキズキと痛む頭を手で押さえた。アルコールのせいか、それとも直美の声が酷く耳障りだからだろうか?渉は直美の介抱を断り、よろめきながらエレベーターに乗り込んだ。どうしてだろうか……凪が、
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第149話

部屋に再び明かりが灯り、広々としたリビングの一角を照らし出した。誰もいない。いや、おかしい。聞き間違いではないはずだった。そう思った凪は、使用人を呼んですべての部屋の電気をつけさせた。さらに詳しく探そうとしたその時、棚の後ろからガサゴソと音が聞こえてきた。「危ないです!」使用人たちが、咄嗟に凪をかばうように立ちはだかった。すると、棚の隙間から一匹の三毛猫がひょっこり顔を出した。くりくりとした大きな目をぱちくりさせながら、「ニャー、ニャー」と鳴いている。「あら、今日の午後にお庭の手入れをした時、ドアを開けっ放しにしていたからでしょうか?外の野良猫が入ってきちゃったみたいですね。ご安心ください。今すぐ外に出してきますから」使用人たちはほっと胸をなでおろし、猫を捕まえようとした。三毛猫は野良猫の割には人に懐いていて、首根っこを掴まれても鳴くばかりで、爪も立てようとしなかった。凪もようやくほっと息を吐いた。侵入者は猫だったのだ。「ニャー」猫は凪を見つめ、短い足をばたつかせながら、お腹の虫が鳴っている。お腹が空いているらしい。凪は少し考えて言った。「先に何か食べさせてあげて。それからお外に帰して」「わかりました」使用人は頷き、猫に何か食べさせようと下へ連れて行った。凪は邸宅の残りの場所を見て回り、怪しいところがないか確かめた後、陶磁器を手にして1階へ降りた。その時、2階の暗闇のなかで、一つの影が静かに動いたが、それはすぐに消え去った。凪は1階で水を一杯飲むと、杏奈に今からそちらに向かうと連絡を入れてから、荷物を手に家を出た。「ニャー」お腹いっぱいになって口元をミルクまみれにした猫が、凪の足元に体をすり寄せてきた。凪はふと足を止めた。なんて可愛いのだろう。凪は微笑み、かつて渉と一緒にいた頃、犬か猫を飼いたいと話した時のことを思い出した。渉はいつも仕事が忙しくて世話ができないという理由で断り続けた。最初は、まだ起業したばかりで生活に余裕がなく、動物を飼う暇なんてないと言っていた。次には、会社の事業が忙しくなって家にほとんど帰れなくなったと言い訳をした。そして渉は中島グループに戻ると、後継者としての修行が必要で、今は仕事に専念したい、などと言い訳を並べ立て
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第150話

「声が大きいよ」凪は慌てて杏奈の口を塞いだ。こんな夜中に大騒ぎして、近所迷惑で通報されたらどうするの?杏奈は目を丸くして、凪の両手を掴んでぶんぶんと揺さぶった。「ちょっとちょっと!普段使いの車がカリナンだなんておかしいと思ったわよ!凪、いつの間にK市でトップクラスのセレブになっちゃったのよ!ほら、早く返事しなさいよ!」「まずは手を離して」凪は苦笑いしながら自分の手を引き抜いた。スマホの画面を開くと、空からのメッセージはたったの三文字だった。【着いた】本当に事務的な連絡だ。お互いに利用し合うビジネスパートナーとして、実に相応しい態度だ。【わかりました】凪もシンプルに一言だけ返した。杏奈はますます目を見張った。「旦那さんに対して、この一言だけ?」「さっきも同じように返したから大丈夫だよ」「……」杏奈は何か言いかけたが、ふと考え直した。凪が空に対してこんなに冷たい態度を取っているのに、相手はカリナンをあっさりと用意してくれている。夫として、彼女のことをかなり大事にしているのでは?杏奈は内心驚きつつも、仕事を兼ねて歩き出した。少し世間話をしてから、ふと思い出したように聞いた。「そういえば、渉とは結局どうなったの?」さっきは空のことで驚きすぎて、杏奈はそこまで気が回らなかったのだ。親友である自分にも何も言わずに二人が別れていたなんて、本当に予想外だった。凪は少し考えたあと、これまでの経緯をかいつまんで話して聞かせた。琴音と比べると、杏奈は凪と渉の関係をよく知っていた。それだけに、話を聞くうちに激しい怒りが込み上げてきた。「凪があの男の事業を軌道に乗せてあげたから今があるのに、彼は裏でこそこそと女を囲ってK市に乗り込んできたってわけ!?」「少し落ち着いて。語気が荒いわよ」杏奈のあまりの剣幕に、凪は思わず苦笑した。だが、杏奈は怒りを爆発させ、凪を睨みつけた。「落ち着けるわけないでしょ!当初凪があれこれ世話を焼いていなかったら、渉が今の地位になれたと思う?恩知らずな男なんて、修復ツールで切り裂いてから干からびさせて、ミイラにでもしてしまいたいわ!それなのに、よくも愛人を連れて同じビルに住んで、毎日あなたの目の前をちょろちょろできるわね!?」言えば言うほど頭に血
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