葵は、驚きに目を見張った。「ちょっと……」「私と一緒に入りたいなら、それでもいいよ。お父さんに今すぐ電話して、本当にあなたを来させたのか聞いてみるから」凪は足を止め、振り返って葵を見た。葵の顔は真っ赤に染まったが、凪に電話させるわけにはいかなかった。大地が同意するはずがないのだ。葵と大輔は正式な婚約関係ではないし、春海こそが大輔の婚約者だ。葵がのこのこやって来れば、ただ恥をかくだけである。お父さんにだけは絶対に知られてはいけない……葵はどうにか凪の弱みを掴もうと頭をフル回転させたが、凪はそんな彼女を鼻で笑った。「あなたがいるべき場所ではないのだから、無駄に恥をさらさないで。家には車なんて山ほどあるんだから、どれでも適当に乗って帰ればいいじゃない?」そう言い残すと、凪は泉を連れて控室へ入って行き、扉を閉めた。春海は、先ほどの凪の毅然とした言葉にとても満足した。すぐに手を振り、警備員に指示して葵をつまみ出させ、薄笑いを浮かべた。「この女はうっとうしいけど、その姉の方は予想外に気が合いそうだわ」「しかし相手は黒崎社長の妻です、となると、この後の入札は……」「仕事は仕事よ。本人のことは好ましいけれど、ビジネスになれば関係ないわ」春海は秘書を冷たい目で一瞥し、静かに警告した。「余計な心配をしないでくれる?」「はい、失礼いたしました」秘書は冷や汗を拭いながら、急いで春海の後に続いた。一方で、控室の端にいた凪は、春海をじっと冷静に見極めていた。春海は裕福な家庭で育っただけのことはあり、いかにも令嬢らしくプライドが高そうだった。……40分後、いよいよ入札会が始まろうとしていた。会場には次々と人々が集まってきた。こうした席の常連ばかりのようで、あちこちで和やかに談笑する姿が見られた。春海も周囲と楽しそうに打ち解けていた。凪はK市での社交の場に慣れておらず、端の方で静かに控えていた。それでも春海は、凪が葵と同じ考えではないことを見抜いており、自ら礼儀正しく話しかけにやってきた。「これから大輔と婚約したら、あなたとも親しくさせてもらえるかしら?」会場の人間の一部は、凪が空の妻であることを知っていた。しかし、ほとんどの人間は、そこまでの事情を知らない。だが春海の今の台詞はどう考え
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