凪はすかさず春海の手をつかんだ。「向こうに非があるなら、向こうに弁償させればいいんです。でも斎藤さんが手を出したら、今度はあなたが払う側になってしまいます。それに……少しは周りの目も気にしたほうがいいかと」そう言って、凪は会場の隅にいる大輔へ視線を向けた。婚約者が見てますよ。その意味を察した瞬間、春海は我に返った。ゆっくりと手を下ろし、凪にしか聞こえない声で呟く。「確かにそうですね」凪はそれ以上何も言わず、峰行を呼んで明里に弁償額を請求してもらった。散々な目に遭った挙げ句、結局は自分で弁償する羽目になった明里は、周囲から向けられる冷ややかな視線と囁き声に耐えながら、歯を食いしばって葵を連れ、ひとまず会場を後にした。その後、峰行がスタッフを連れて展示スペースを元どおりに整える一方、凪は春海を連れて着替えに行き、ついでに乱れた髪も整え直した。会場へ戻る途中には、春海も先ほどまでの怒りからすっかり冷静さを取り戻し、いつもの気位の高い令嬢らしい姿に戻っていた。ただ、どこかあどけなさの残る顔で不満そうに唇を尖らせている様子は、少し可愛らしくも見える。「あなたの妹さんが騒ぎを起こすところには何度か居合わせましたけど、そのたびにあなたは公平に対処していました。以前は先入観を持ってあなたを見てしまっていて……本当にすみませんでした」「気にしないでください。それに私は、景山さんがせっかく準備した陶芸展を台無しにしたくなかっただけですから。それと、あなたと大輔さんはもう婚約しているんですし、個人的な揉め事を片づけるにしても、人前でやる必要はありません。ご家族も心配するでしょうし、黒崎家は……」凪はそこで言葉を切ったが、その先は二人とも分かっていた。絶大な力を持つ黒崎家だからこそ、ほかの家以上に世間体を重んじるため、今日のような暴力沙汰が大きくなって外へ広まれば、春海の立場まで危うくなりかねない。春海は感謝のこもった目で凪を見た。「今回は本当にお礼を言わないといけません。ありがとうございました」「お気になさらないでください。以前、婚約パーティーでちゃんとお二人のことを見ていられなかった、その埋め合わせだと思ってもらえればいいですから」凪はそう言って春海の肩を軽く叩いた。春海はむしろ、凪のこうした物事の処理の仕方を気に
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