All Chapters of 許すとでも?私を15年愛す極上の夫を選ぶわ: Chapter 211 - Chapter 220

288 Chapters

第211話

春海はそれを見逃さず、冷たく鼻で笑った。「あら、二宮社長はさっき約束したばかりなのに、もう気持ちが揺らいでいるのでしょうか?」「そんなことありません!」大地は一瞬ためらったが、斎藤家の莫大な財力とプロジェクトを思い浮かべ、覚悟を決めた。葵を蹴り飛ばすと、声を荒らげて吐き捨てた。「斎藤さん、お約束は守り……」「大地っ!」そばにいた明里がすがりついてきた。「商談も一日あいただけで滞るものよ。葵をずっと家に閉じ込めておくなんて……」母娘からの懇願に、大地はさすがに手を焼いた。沈黙を守っていた凪が、ふと口を開いた。「あらあら、あまり甘やかすのもいかがなものかしらね。明里さん……甘やかされすぎて痛い目を見た弟さんのことを忘れたの?」彼女はうっすらと笑いながら、明里を見た。明里は背筋が凍るような気がした。12億円のことが頭をよぎり、それ以上説得を続けられず呆然と立ち尽くす。そして、目を真っ赤にして泣いている娘を、うつむいて見つめた……真実を暴かれるのが怖くて、凪には逆らえない。しかし、葵が切り捨てられるのを黙って見ているわけにはいかなかった。明里は突然、お腹を押さえて大地の腕の中にふらりと身を寄せ、弱々しい声で呟いた。「大地、お腹が痛いの」「斎藤さんも見てるんだぞ!体調が悪いふりなんてするな!娘をちゃんとしつけないお前も、罰を受けるべきだと言おうとしていたのに……」大地の苛立ちは増すばかりだった。「わ、私、妊娠してるの」明里が、突然そう言った。お腹を押さえて、苦しそうな顔をする。「言いたくなかったけど、先ほど慌ててしまって。少し無理をしたのかも……大地、あなたの子を産んだこの私に免じて、葵を許してあげて」「お母さん!」葵は驚きと心配が入り混じり、泣きながら明里を支え起こした。大地は娘しかおらず、長年跡取りの息子を待ちわびていた。明里の妊娠を聞いた途端、目を丸くした。まなざしも一気に優しくなる。おろおろしながら明里をかばい、お腹の子に障らないかとひやひやしていた。明里は気弱げに付け加えた。「多くは望まないわ。大地、葵に腹を立てないで、お詫びの気持ちだけ伝わればいいから」大地は頷いた。「ああ、もちろんだ。全てお前の言う通りにしよう。葵!何をぼうっとしているんだ?お母さんを休ませるんだ!」「は
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第212話

凪は、明里が妊娠したという話で我に返り、眉を上げた。「何か用でしょうか?」「二宮家みたいなドブの中でよく凪さんみたいな良い子が育ったんですね。まあ、今後はあの家とあなたとは完全に切り離して見させてもらいます。ではまた」春海は傲慢にそう言い捨てると、手を振って迷いもなく立ち去った。凪は、すべてを察したように小さく笑った。春海は昨夜のことについて、自分にお礼を言いに来たのだ。だが、春海の発言は大地に別の意味で響いたようだ。「凪、斎藤さんといつからそんなに親しくなったんだ?先ほど二人一緒に入ってきたじゃないか!「もしかして、明里が俺と結婚したことをいまだに根に持ってやがるのか?だから妹のことも目障りで、他人に仕返しをしかけてこんな騒ぎを起こしたのか?」凪の顔から、笑みは消えなかった。父親の考え方には、心底呆れてしまった。昨夜バーを離れる際、念のために防犯カメラの動画を保存しておいてよかった。「そんなに、葵が斎藤さんに薬を盛った証拠が見たいなら、しっかり見せてあげる」そう言って動画を再生し、スマホを大地に投げた。葵は、まずいと思ったのか、とっさに飛びかかってスマホを奪おうとした。「お父さん、そんな……」「何をそんなに慌てているんだ!?」大地はスマホを受け取り、立ちはだかる葵を力任せに突き飛ばした。葵はソファに転げ落ち、顔を上げると、大地の顔色は見る影もなく変わり、スマホを握る手に青筋が立っていた。動画からは、凪が制止しようとする声が流れていた。「……斎藤さんの評判に傷がつくから」凪の声を聞いて、大地はもう見ていられなくなった。スマホを凪の方へ投げ返すと、葵を指さして怒鳴りだした。「よくも斎藤さんに薬を盛るなんてことができたな!彼女の父親にバレたら、俺だって君を守れないんだぞ!凪が現場にいて、しかも穏便に済ませる方法まで考えてくれたことに感謝しろ!もし警察沙汰になっていたら、大輔さんに取り入るどころか、まともな相手と縁談すら望めないぞ!」そこまで言うと、大地は明里の方へ視線を鋭く向けた。「教育の仕方がどうなってるんだ?もしお前の腹の子が息子だったら、どんな子に育てるか分かったもんじゃないな!」明里は妊娠を盾にして追及を免れたはずだが、怒られてまた肩を震わせて泣き始めた。葵も泣き
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第213話

朝ご飯?明里と葵は、そろって息をのんだ。まさか、たった一度食べ損ねた朝食のために、多忙な空が、わざわざここまで来て問いただしたというのか?大地は、冷や汗が止まらなかった。空の中で、凪の存在がこれほど重くなっているとは……彼は急いで愛想笑いを浮かべる。「す、すべては葵が未熟だったせいなんだ。それに、俺が凪を誤解してたから、今まさに葵に厳しい罰を与えて、凪にもきちんと埋め合わせをしようって思ってたところなんだよ」「外出禁止だけで厳しい罰?じゃあ、私への埋め合わせは?」凪はくっと眉を上げた。せっかく空が来てくれたのだ。この機会を使わない手はない。大地は思わず目を見開いた――この小娘、調子に乗りやがって。だが、鋭い視線で自分を見据える空を前に、大地は逆らうことなどできない。「子どもの教育がなっていないのは母親の責任だ。葵は外出禁止だけでなく、生活費も半分に減らす。そして、明里も娘を甘やかした責任を取って外出禁止だ。必要な用事以外では家から出るな。これでもう、凪に迷惑はかけない」その言葉を聞いた瞬間、明里と葵の顔色が変わる。外出禁止?そんなことになってしまったら、明里は光生のための金を工面できなくなってしまう。それに、葵も空に近づくことができないではないか!?二人が呆然としていると、凪が静かに口を開いた。「二人が問題を起こさなくなるだけで、それが私への埋め合わせになると思ってるの?明里さん、私はあなたの娘が刑務所に入らずに済むようにしてあげたんだよ。本当に感謝してるなら、それなりの誠意を見せてくれてもいいんじゃない?」そう言って、明里の目を見ながら、凪は口だけを動かした――弟。それは、明里の心臓を締め付けた。ほとんど反射的に、明里はソファに手をついてゆっくり立ち上がる。「凪、私も本当にお礼をしたいと思っているんだけど、本当にお金がないの……何か他の方法はないかしら……」「社長夫人という立場にいて、二宮グループの株の一つも持っていないのか?」空が不意に口を開いた。その瞬間、明里の膝から力が抜け、崩れ落ちそうになった。凪も少し驚いた。確かに、現金化できるものを引き出したいとは思っていたが、まさか空が明里の持つ株式に目をつけてくれるとは。凪は心の中で空に親指を立てながら、自然と空
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第214話

株式譲渡契約書を手に入れた。凪は迷うことなく、空と帰路についた。車に乗り込み、凪は空に視線を向ける。「今日は助けてくれて、ありがとうございました」空は答えない。その何も言わない彼の横顔を、車の窓の外を流れるまだらな木漏れ日が、ただ照らしていた。相変わらず、その瞳の奥だけは読み取れない。それに、なぜ空がいつも、絶妙なタイミングで自分を助けてくれるのかも、未だに分からない。言葉がなくても構わない。だが、あの日不安定な様子で去って行った空の背中がふと頭をよぎり、凪は怖くなって、つい距離を詰めた。日に焼けた大きな手と、白く細い手。並ぶと、その違いが際立つ。「私たち、これからも一番の味方ですよね?」おずおずと尋ねる。凪の鼻先が空に触れそうなほど近い距離だった。声はすぐそこから聞こえる。ようやく振り向いた空の目に、凪のあどけない表情が飛び込む。彼女の瞳は、木漏れ日よりもずっと明るく輝いていた。空は思わず見とれてしまい、慌ててまた視線を逸らす。「ああ」「ん?」凪は首をかしげた。味方だっていうなら、どうして目を合わせてくれないのだろう?彼は流れていく木々の向こう、朝日に染まる空を見つめる。唇を軽く結びながら、彼は思う。――朝日が、妙に暖かい。そのせいか、頬まで熱くなっていた。凪も朝日に目を細め、ぽつりとつぶやく。「今日はいい天気ですね」「直接太陽を見るな。目を痛める」空は反射的に手を伸ばし、彼女の目元へ差し込む朝日を遮った。視界は暗くなった。けれど凪の鼓動は、なぜか速くなる。そうだった……彼は自分よりずっと年上で、こんな些細なことまで、いつも自然に気遣ってくれる。まるで、昔から自分を守ることが当たり前だったかのように。車内には、言葉にできない甘く曖昧な空気が流れる。運転席の隆はバックミラーでその様子を見て、今すぐにでも車内に仕切り板を付けたくなった。曖昧な二人なんて、一番たちが悪い!早く堂々と一緒になってくれたらいいのに。いつも自分だけが見せつけられるのはごめんだ。……ブリーズ・ガーデンズ、駐車場。隆は二人を降ろすと、そのまま車で帰っていった。時間がまだあるので、凪は猫の新しいペット用品でも買いに行こうかと考えていた。そのとき、背後から聞き慣れた声が響
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第215話

「野良猫になんて餌をやる価値なんてないでしょう?この高級キャットフードは、凪の家にいる猫のために用意したものですから。凪、君にどうやって届けようかって、電話でもしようかと思っていたところなんだ」渉は一人で話を進めながら凪の前まで歩み寄り、キャットフードが入った二つの袋を足元に置いた。どちらもペットショップで最も高価なキャットフード。凪はちらりとそれを見て言った。「返品してきて。うちの猫は決まった餌しか食べないから」「え?」渉は少し驚いた。管理人から、数日前の夜に最上階の住人が猫を探しに降りてきたと聞き、その時初めて凪が猫を飼っていることを知ったばかりの渉。まだ飼い始めて数日なのに、もう好みまで決まっているのか。「以前、俺が用意したあれか?」空がさりげなく会話に加わり、凪の方を見た。「この前、シャンプーした時、餌皿の横に置いてあるのを見た。前に隆に持って来させたやつだろ?」凪は微笑んでうなずいた。「そうです。あの子は、空さんが持ってきてくれたあのブランドのものが大好きみたいで。ネットで買いだめしようかと思っていたところなんですよ」「買いだめする必要はない。隆にまた持ってこさせるから。そうすれば、品質も保証できる」空は涼しい顔で答えた。二人はごく自然に言葉を交わす。だが、その様子を見ていた渉は、怒りと嫉妬で目を血走らせていた。「黒崎さん、猫のことはよく分かるのに、人の気持ちは分からないんですね」何が言いたいのだ?凪は眉をひそめ、問い返そうとしたが、それより早く空が口を開く。「中島さんこそ、猫の好みすら理解できないのに、人について俺に語るんですか?猫は自分で餌を選びますし、凪も自分で誰を選ぶか決められます。自分の狭い価値観で彼女の見る目を否定しないでいただけますか?彼女は、何が本当に自分にとって良いものか分かっていますので」そう言いながら、一歩前へ出る。自然な動きで、凪を自分の背中へとかばった。渉は眉をしかめる。「自分にとって良いもの?つまり、公にできない愛人にでもするつもりですか?」「その言葉を凪に対して使わないでください」空はわずかに眉を寄せ、一歩踏み出す。革靴が床を打つ重い音が、警告のように駐車場へ響いた。「あなたにそんなことを言う資格はありません」「……」渉が用
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第216話

最後の一言が落ちた瞬間、渉の胸は鋭く締めつけられた。凪もまた過去から意識を引き戻し、空の隣へ回り込む。「二人とも言いたいことは言ったと思うので、もう家に帰りましょう」凪は空が言い終えるのを待ってから、間に入った。こんな頼もしい味方が代わりに言い返してくれるなんて、これ以上ない。それに、渉のことで時間を無駄にしたくないし、空の時間も無駄にしたくなかった。凪は空を連れて、その場を離れようとする。しかし背を向けた二人へ、渉はなおも声を投げた。「たしかに、以前の俺は駄目だった。でも、こいつが本当に凪の幸せなのか?いい加減目を覚ませ。凪、愛人なんてやめろ。こいつは平気で周りの人間を切り捨てるような冷たい男なんだぞ」渉はそう言い終えると、空を睨みつけ、そのまま立ち去っていった。凪はその背中を見送り、何か言おうとした。その時、エレベーターの到着音が鳴る。空が促す。「上がろう」「ええ」なんて絶妙なタイミング。まるで神様までが、これ以上渉と話す必要はないと言っているようだった。凪は迷わず空に付いてエレベーターへと乗り込んだ。エレベーター内で、空が急に口を開いた。「あいつがあそこまで諦めないなら、俺たちの関係を話してしまえばよかったんじゃないか?」君の目の前を一日中うろつかれるのはご免だ。その言葉だけは飲み込んだ空。凪は正直に打ち明ける。「関係を公表するのは、もう少ししてからって決めましたから、それは誰に対しても同じです。あんな何の関係もない男ひとりのために、私たちの約束を破る必要なんてないでしょう?」空の気分は一気に晴れた。渉は何の関係もない男。そして自分は、凪の正式な夫。その違いくらい、さすがに分かる。胸のつかえが消え、二人とも自然と表情が柔らかくなる。最上階へ着くと、空は子猫の様子でも見に行くという口実を作って、もう少しだけ凪と一緒にいようと考えていた。その時、凪のスマホが鳴った。忍からの電話だ。「おじいさん?」「おじいさんが凪に何の用だ?」まさか何かあったのかと心配になり、二人とも顔を見合わせた。まさか二人が一緒にいると思っていなかった忍は、朗らかに笑った。「なんだ、一緒にいたのか。悪い悪い、この時間まで一緒だったとはなぁ。若いんだから
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第217話

結局のところ、忍が望んでいるのはただ一つ。凪に、一日でも早く黒崎家の一員として馴染んでほしいということだった。忍は本当に凪を大切に思っている。その気持ちが伝わっていたからこそ、凪も断ることなく引き受けた。空は念を押すように言う。「困ったことがあれば、いつでも俺に電話してくれ」「わかりました」うなずき、部屋へ戻ろうと振り返った凪だが、ふと思い出した。今日は空がたくさん猫の餌を届けてくれただけでなく、実家まで来て自分をかばってくれた。彼女はもう一度振り返り、空の前まで歩み寄る。「猫の世話をしたり、大輔さんの婚約式を見に行ったり、あとは朝ご飯も食べないといけないんですけど……」そう言って、凪は少し首をかしげる。「今日は、忙しいですか?」「そこまでじゃない」表情が相変わらず淡々としていた空だが、頭の中では、近くの評判のいい店をいくつも思い浮かべていた。二人はすぐに話がまとまり、気の合う友人同士のように朝食を食べ、そのまま散歩まで楽しんだ。午後。空は車で会社へ向かった。一方の凪は、二宮グループの株を手に入れたことで大地に完全に警戒され、会社では意図的に仕事を一切回してもらえなかった。もっとも、本人はその方が気楽だった。その代わり、大輔の婚約披露宴の準備の進捗を確認することにした。大輔ほどの立場ともなれば、婚約式の準備は当然すべてプロのスタッフが担当する。大道具まで、特注で製作されたものだった。「式まで残り数日ですが、安全性は大丈夫でしょうか?」7、8段の階段を上がった先にある高いステージを見上げ、凪は眉を寄せた。「もちろんです。我が社の者が何度も耐久テストを行っていますから、安心してください」運営スタッフは胸を張って断言した。図面と工期も、全て正直に報告した。凪は一つひとつ丁寧に目を通していった。その背後……ビルの上階から、一人の男がじっと凪を見下ろしていることには気づかなかった。それは、大輔だった。スタッフが大輔に報告した。「凪さんは婚約披露宴をとても大切に考えてくださっていて、設計図も企画書も二度確認されました。どうぞご安心くだ……」「黙れ。消えろ」大輔は振り返り、冷え切った目で言い放った。スタッフは何が気に障ったのか分からなかったが、慌てて頭を下げて部屋を出て行っ
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第218話

数日後、婚約披露宴当日。黒崎家も斎藤家もK市屈指の名家であり、婚約披露宴は非公開ながら、多くの名士たちが招かれていた。華やかな会場で、凪は上品なロングドレスをまとい、人々の間を縫うように歩いていた。ここでは、互いの肩書を尋ねるような野暮な真似はしない。この場に招かれたのは、名士か黒崎家に関係する要人ばかりで、誰もが付き合っておくべき相手だった。海外での仕事を終えた萌も、急いで戻り、赤いドレスへ着替えて会場へ現れる。式が滞りなく進んでいるのを確認すると、凪へ近づき、一つの祝儀袋を手渡した。「まあまあね。今回はよくやってくれたわ。まあ、気持ちくらいのものだけど、ありがたく受け取りなさい」今日はめでたい日。家族のわだかまりはひとまず脇へ置く。凪は丁寧に頭を下げた。「ありがとうございます」萌はふんと鼻を鳴らし、手をひらひらと振って去っていった。凪が祝儀袋をしまい、舞台裏へ向かおうとしたその時、後ろから一本の腕がそっと腰へ回された。嫌悪感はない。振り向くと、そこには空の深い瞳があった。「空さんも一段落ついたんですか?」「うん。今、萌さんに何か言われなかったか?」離れた場所にいた空には、二人の会話が聞こえていなかった。凪は受け取った祝儀袋を手に、軽く振ってみせる。大丈夫でしたよ。準備を手伝ったお礼にって、これをくれました。半分ずつ分けましょう「ああ」空は素直にうなずいた。凪がまた裏方へ戻ろうとしたので、空は少し強引に手首をつかむ。「おじいさんが言っていたこと、忘れるなよ」「大丈夫ですよ」凪はうなずき、高いステージを見つめた。「このステージ、安全性のことを考えて、準備段階で一度設計を変えてもらってるんです。でも、万が一のことも考えて、近くで見ていた方が安心かなって思いまして。新郎新婦が転んでしまったら大変ですからね」空は表情を曇らせ、凪の手首をさらに強く引いた。「大輔なら平気だ。自分でこんな高いステージを選んだんだから、落ちても自業自得だ」凪は首をかしげて空を見つめた。「もちろん大輔さんが自分で選んだステージですし、彼はスーツに革靴なので全く心配してません。それに、男の人ですからね。私が心配しているのは、斉藤さんです。彼女が今日履いているヒールはかなり高いので、もしこのステージ
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第219話

誰かが叫ぶ声が響いた。反射的に足元を見た春海だが、幾重にも重なったドレスの裾しか見えない。しかし、細いヒールを乗せた床だけが、じわじわと沈み込んでいく。足場が崩れる恐怖に、彼女は悲鳴を上げた。「助け……」「大丈夫ですよ!」凪は誰よりも早く裏方から飛び出し、彼女の腕をしっかり支えた。「中にもう一段補強を入れてあります。表面が砕けても下には階段があるので、決して落ちることはありませんから」その凪の落ち着いた声に、春海の青ざめた顔色も少しずつ戻っていく。それでも凪の手を強く握ったまま、足を動かせない。「それでもまだ怖い……」「私に任せて!」そこへ萌が駆け込んできた。周囲からの囁き声に、彼女の胸の鼓動が速まる。息子の婚約披露宴は一生に一度。笑いものにされるわけにはいかない。彼女は急いで春海のドレスの裾を持ち上げ、体を支えながらステージ上へ導いた。一歩踏み出すたび、外側の石膏がパキッ、パキッと砕ける音が響く。萌自身も冷や汗を流した。どうしてこんなことに?海外へ行く前、あれほど念入りに確認するよう指示したはずなのに、どうしてこんなにも脆いのだ?なぜ萌が春海を支えているのかと、周囲からは疑問の声も上がる。しかし今の萌には構っている余裕などなかった。ただ式を無事に終わらせる一心で、歯を食いしばり、春海の手を引いて階段の最上部まで一気に駆け上がった。春海はふらりとよろめき、小さく息をのむ。怖さが抜けず、大輔の顔すらまともに見られない。萌も高いヒールを履いていたため不用意に階段を下りられず、そのまま壇上の端で立ち尽くすしかなかった。妙な空気が会場を包む。「この婚約披露宴、どうなってるんだ?」「姑が出しゃばりすぎじゃないか?」「男側はどうしたんだよ?ずっと黙ったままだけど」会場のざわめきは広がる一方だった。凪は流れが完全に乱れたと判断し、すぐ司会者へ合図を送る。ステージの安全を心配しつつも司会者は、慌てて声を張った。「それでは、黒崎様。婚約の誓いを述べ、婚約指輪をお贈りください」「……」大輔の目に冷たい殺気が宿る。葵……この程度のことすら、まともにできないのか?それに、自分まで笑いものにされてしまった。やはり馬鹿は馬鹿だ。目の前で怯えながら立つ春海を見るたび、ますま
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第220話

萌からの糾弾に対し、凪は恐れることなく、萌の指先が触れんばかりの距離まで真っ直ぐに進み出た。「もう防犯カメラを確認させています。そもそも、この婚約披露宴を壊すことで、私に何の得があるんですか?」「得ならいくらでもあるでしょ?もし大輔に何かあったら、あなたたちは黒崎グループを意のままにできる。春海さんに何かあれば、あなたの鬱陶しい妹を大輔に押し付けられるじゃない?」萌はふんぞり返って言い放ち、その鋭い爪の先が凪の鼻先をかすめ、赤くて細い跡を残した。凪が言い返そうとしたその時、空が静かに入ってきた。その眼差しは氷のように冷たい。「俺が黒崎グループを意のままにしたいなら、こんなに回りくどいことはしない。俺の妻に小細工させる必要があると思う?」空は凪に歩み寄ると彼女の肩を引いて背後に回し、萌の震える瞳を見据え、鼻で笑った。「大輔が夜中に車を飛ばしていた時も、素行の悪い連中と地下バーで遊んでいた時も、萌さんの目が届かない場所で大輔が何かをしていた時も……俺が本気で何もできなかったと思ってるのか?」「……」萌の勢いは瞬時に消え去った。反論できない。空の言っていることに、何ひとつ間違いはないのだから。大輔は家では大人しくても、一歩外へ出れば手がつけられない。数年前、大輔が海外旅行中に失踪した際も、忍の命令で空が人脈を使い、2時間で見つけ出した。結局、半日で大輔は帰国し、外出禁止の罰を受けた。空は確かに大輔を嫌っているかもしれない。だが、危害を加えるようなことは決してしない。それでも先ほどの出来事は大失態だ。斎藤家は簡単には引き下がらないだろう。そして何より、責任者である凪を、責めずにはいられなかった。「空が何もしてなくても、凪さんの妹がずっとうちの大輔を狙っているのを知ってるんだから!」「もし葵の仕業なら、いくら責めていただいても構いません。私たちは異母姉妹というだけで、情も何もないですから」凪は自分の鼻の頭についたひっかき傷を揉みながら、無関心にそう答えた。冤罪さえ晴れれば、それでいい。空は眉をひそめて、凪の手を止めた。「赤くなってる」「じゃあ、もう揉まないです」凪は素直に手を下ろした。凪の態度にひるむ様子がないのを見て、萌は目を細める――まさか、今回の件は本当に凪と無関係なのか?
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