春海はそれを見逃さず、冷たく鼻で笑った。「あら、二宮社長はさっき約束したばかりなのに、もう気持ちが揺らいでいるのでしょうか?」「そんなことありません!」大地は一瞬ためらったが、斎藤家の莫大な財力とプロジェクトを思い浮かべ、覚悟を決めた。葵を蹴り飛ばすと、声を荒らげて吐き捨てた。「斎藤さん、お約束は守り……」「大地っ!」そばにいた明里がすがりついてきた。「商談も一日あいただけで滞るものよ。葵をずっと家に閉じ込めておくなんて……」母娘からの懇願に、大地はさすがに手を焼いた。沈黙を守っていた凪が、ふと口を開いた。「あらあら、あまり甘やかすのもいかがなものかしらね。明里さん……甘やかされすぎて痛い目を見た弟さんのことを忘れたの?」彼女はうっすらと笑いながら、明里を見た。明里は背筋が凍るような気がした。12億円のことが頭をよぎり、それ以上説得を続けられず呆然と立ち尽くす。そして、目を真っ赤にして泣いている娘を、うつむいて見つめた……真実を暴かれるのが怖くて、凪には逆らえない。しかし、葵が切り捨てられるのを黙って見ているわけにはいかなかった。明里は突然、お腹を押さえて大地の腕の中にふらりと身を寄せ、弱々しい声で呟いた。「大地、お腹が痛いの」「斎藤さんも見てるんだぞ!体調が悪いふりなんてするな!娘をちゃんとしつけないお前も、罰を受けるべきだと言おうとしていたのに……」大地の苛立ちは増すばかりだった。「わ、私、妊娠してるの」明里が、突然そう言った。お腹を押さえて、苦しそうな顔をする。「言いたくなかったけど、先ほど慌ててしまって。少し無理をしたのかも……大地、あなたの子を産んだこの私に免じて、葵を許してあげて」「お母さん!」葵は驚きと心配が入り混じり、泣きながら明里を支え起こした。大地は娘しかおらず、長年跡取りの息子を待ちわびていた。明里の妊娠を聞いた途端、目を丸くした。まなざしも一気に優しくなる。おろおろしながら明里をかばい、お腹の子に障らないかとひやひやしていた。明里は気弱げに付け加えた。「多くは望まないわ。大地、葵に腹を立てないで、お詫びの気持ちだけ伝わればいいから」大地は頷いた。「ああ、もちろんだ。全てお前の言う通りにしよう。葵!何をぼうっとしているんだ?お母さんを休ませるんだ!」「は
Read more