凪は莉子に、銀行口座の情報を叩きつけた。莉子は呆然と立ち尽くし、いつまでも手元の現金を渡そうとしなかった。だが、ドアの外から陽菜の声がした。「副社長、午後から黒崎グループの投資プロジェクトが始まります。2分後には出発しなければいけません」「すぐに行くわ」凪は即座に立ち上がると、ジャケットを羽織り、莉子の横を通り過ぎた。凪はすれ違いざまに、こう言い放った。「2分間あげるから、自分で選んでください」ヒールの音が響き、だんだん遠ざかっていった。莉子の額から冷や汗が流れ落ち、床にぽたりと落ちた。しばらくして、震える手でスマホを取り出し、誰かに送金の手続きを指示した。刑務所に入るくらいなら、金で解決したほうがマシだ。しかし、自分の口座から数千万円の金が消え、凪の懐に入った事実を目の前にすると、莉子はオフィスの中で泣き叫んだ。「凪、絶対許さないわ!」一方その頃。車中で凪は、入金通知の画面を満足げに眺めていた。この数千万円があれば、ミツキホールディングスの運営はしばらく心配しなくていいだろう。莉子が自分の前に姿を現したのは、タイミング的に悪くない。明里よりよっぽど手っ取り早くお金を送ってくれるもの。凪は陽菜を連れて、黒崎グループの本社へ向かった。今日の投資に関する会議は入札に近い形式で進められるが、最低投資額などの明確な基準は公表されていない。すべては黒崎グループ上層部の判断に委ねられているため、参加者たちは誰一人として自信を持てずにいた。そんな中、凪だけは妙に落ち着いていた。黒崎グループのバックアップを得られれば、それに越したことはない。そうでなければ、即座に方針を変えて別の道を切り拓くだけだ。「凪さん」背後から聞きなれた声が聞こえてきた。凪は面倒臭そうに眉を寄せ、振り返ろうともしなかった。背後で、直美の甘ったるい声が響く。「凪さん、なんで渉さんを無視するの?今日は、凪さんと渉さんが二人で立ち上げた恒業グループのためにわざわざ来たのよ。凪さんの持ち株もあるのに、気にしないの?それにね、今回の投資会合って、応募した企業同士の利害関係を厳しく見ているみたいよ。凪さんは恒業グループの株主でもありながら、ミツキホールディングスの代表もしているでしょ?バレたら、大問題にならないかし
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