All Chapters of 許すとでも?私を15年愛す極上の夫を選ぶわ: Chapter 191 - Chapter 200

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第191話

凪は、このプロジェクトを狙うつもりはなかった。凪の慎重な様子を見て、空はなぜかイライラした。今まで何度も助けてやったのに、まだ自分をそんなに恐れるのか?空は、声を低くして言った。「ミツキホールディングスなら、この投資プロジェクトにぴったりだ。挑戦してみるのも悪くないだろう」「コネを使っているということになりませんか?」凪がおそるおそる尋ねた。ミツキホールディングスのためなら、凪もこのプロジェクトに参加したかった。しかし、凪にとって二人はあくまで「信頼できる協力関係」でいてほしかった。だから、空から多くを与えられることには抵抗がある――恩を返しきれなくなるのが怖いのだ。空は即座に首を振った。「いいや。すべての企業は平等に扱われる。この情報は、いずれ君も知ることになる。周囲の目を気にして迷っているうちにこのチャンスを逃すくらいなら、俺が先に知らせておこうと思ったんだ」空は何でもないことのように言い放った。だが、凪はことの重要性を認識できた。このプロジェクトにおいて時間こそが何より重要なのだ。この情報はまだ完全には公表されていない。渉がプロジェクトの存在を知るなりすぐに裏で動こうとしていたことを見れば、競争がどれほど激しいのかは想像に難くない。早く知ることができれば、それだけ準備も早く進められるのだ。「平等」だと言うなら、気が楽だ。「やってみます。ただミツキホールディングスの運営状況を再確認する必要があるから、少しだけ時間をください」「もちろん。期限まで好きにしていい」空は興味なさそうに答えた。実は彼が信じているのはミツキホールディングスではなく、凪だった。その想いを知る由もない凪は、何度も感謝を伝えてから自分の家に戻った。猫を床におろすと、猫はすぐに駆け出し、部屋の隅から凪の様子を窺い始めた。凪は真剣に期限までの時間を計算した。「足りないわ」黒崎グループの投資プロジェクトまでには、確かにまだ少し時間がある。しかしずっと赤字が続いているミツキホールディングスは、本当に持ちこたえられるだろうか?凪は資金についてもっと詳しく調べた。現在の資金だけでは、資金繰りがあまりにも簡単に行き詰まってしまう。しばらく考えた後、凪は明里にメッセージを送った。【早くお金を返
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第192話

明里は、喉が枯れるまで説得を続けた。しかし、凪は耳を貸さなかった。12億円を手に入れない限り、ミツキホールディングスは黒崎グループの投資プロジェクトが始まる前に、資金が底をついてしまう。追い詰められた明里は一旦引き下がり、一度家に帰って別の方法を探そうとしたが、席を立ったところで葵がいきなり飛び出してきてその手を掴んだ。「お母さん!なんで、凪に12億円も借金があるの!?」「どうしてここに!」明里は驚き、葵の話を遮って人目のない場所へ移動した。問い詰める葵に対し、明里は仕方なく、全てを話した。それを聞いた葵は、怒りが込み上げてきた。「その12億円、私たちのせいで消えたわけじゃないでしょう?どうして私たちが穴埋めしなきゃいけないのよ!光生さんの借金を、どうしてお母さんが返さなきゃいけないの?男のくせに格好悪い!今すぐ小林家に行ってくる!」「ちょっと、葵!」明里は彼女を止めることができず、慌てて凪に別れを告げて悔しそうにその場を後にした。凪も帰ろうとした時、大地からの電話が入った。「これから中島グループが打ち合わせで来る。二宮グループに顔を出せ」ツーッ……大地は仕事の話になると、一切の情がない。凪を用済みになったら捨てる道具のように扱っている。凪は表情を暗くしたが、仕事だと思って二宮グループに向かうことにした。……一方その頃。葵は小林家に直行した。家に着くと、そこにはきらびやかなジュエリーを身につけ、友人の婦人たちと優雅にアフタヌーンティーを楽しんでいる祖母の小林睦月(こばやし むつき)がいた。自分の娘と息子の心配など微塵もしていないようだ。葵は部屋に入るなり、ティーテーブルの上にバッグを叩きつけ、ひっくり返ったティーカップの音に驚き立ち上がる婦人たちを鋭い目線で追い払うと、声を荒らげた。「おばあちゃん!光生さんのことがどうでもいいの?12億円も借金して、事故を起こして逮捕までされたのよ!それなのに、なんでこんなところで平然とお茶なんて飲んでいられるの!「その時間があったら、家にあるものを売ってでも助けるべきじゃない?なんで私たちにお金を工面させようとするの?自分の息子を甘やかすのはおばあちゃんの勝手だけど、私のお母さんだって血のつながった実の娘でしょう!?」葵はわがま
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第193話

「お母さん!」明里はハッとした。まさか自分の娘の口から、既婚者と不倫したことを言われるとは思いもしなかった。明里は顔をこわばらせ、息を整えている睦月を支えながら、葵を叱りつけた。「ここで騒ぐのはもうやめて!今すぐ二宮家へ帰りなさい。もしおばあさんに何かあったら、許さないわ!」「私はお母さんのためにここに来たのに、どうして私の味方をしてくれないのよ!」葵は頬を押さえ、信じられないという表情で涙をこぼした。彼女はなりふり構わず、慌てて立ち上がり、泣きじゃくりながら駆け出した。明里は胸が痛んだ。追いかけようとしたが、睦月に手を掴まれた。「明里、必ず光生を助けるのよ。実の弟よ!あの子だけは、絶対にあなたを裏切ったりしないから!」「わかっているわ、お母さん。もう休んで」明里は睦月の顔色が悪いのを見て、彼女を部屋で休ませた。小林家の前で、葵はじっと明里の背中を睨みつけた。悔しさがますます込み上げてきた。明里は、思っていたほど自分を愛していないようだ。そう考えると、葵はたまらなくなって、大地に慰めを求めて二宮グループへ駆け込んだ。しかし、エレベーターを降りると、凪とばったり会った。凪は企画書を抱え、葵の頬に赤い手形が残っているのを見て、面白そうに言った。「ビンタされるのが好きなのかしら?叩かれたくて、人に喧嘩を売っているの?」「黙ってられないの?誰もあんたに喋ってなんて頼んでないわ!」葵は怒りで顔を赤くして、泣きながら社長室に飛び込み、大地の胸にすがりついた。「お父さん!お姉さんがいじめるの!」凪は何食わぬ顔で後を追い、デスクに企画書を置くと、軽く肩をすくめた。「私には関係ないわ」「葵の顔がこんなに腫れてるのに、とぼけるな!実の妹に、よくも手を上げることができたな!」大地は凪のことなど信じず、目に映ったものしか見ていなかった。凪とは違って、葵はこれまで大事に育ててきた娘だ。その大切な顔がこんな風に殴られては、大輔を誘惑できなくなる。大地は激怒し、持っていたフォルダーを凪に向かって投げつけた。凪は体をかわして避けた。フォルダーはそのまま社長室の外へ飛んでいき、ドアの向こうから聞き慣れた叫び声が上がった。その後、直美が驚いた様子で胸を押さえながら入ってきた。部屋中の騒ぎを聞きつけた
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第194話

「わ、渉さん?」直美は驚いたように顔を上げた。だが、手首を思いきり振り払われた。渉は冷たい目つきで言い放った。「家にいてゆっくり休んでろと言っただろ?仕事のことに首を突っ込むなと言ったはずだ。なぜ俺の言うことが聞けない?」「ごめんなさい……渉さんのために、少しでも力になりたくて。それなのに、凪さんは私を……」凪は鼻で笑い、直美の言葉を遮った。「ちょっと言い返しただけなのに、勝手に倒れてきて。渉は全部見ていたはずよ。下手な演技をやめたら?」「足がもつれて、転びそうになっただけで……」直美は渉の顔色をうかがいながら、悔しそうに唇を噛んでうつむいた。わざと倒れようとしたことくらい、誰が見ても明らかだった。凪は呆れて、彼女を相手にしなくなった。ところが、渉は本気にしたようで、心配そうに凪をのぞき込んだ。「凪、怪我はないか?」凪はため息をつき、彼と話を続ける気はなかった。「企画書は届けたわ。では」凪は踵を返して歩き出した。後ろでは、渉の態度を察した大地が慌ててすり寄った。「中島社長、凪も忙しいです。プロジェクトについては、我々でしっかり話し合いましょう。女の子同士のことは俺たちが介入するもんじゃありません。代わりに、プロジェクトで出た利益で凪にプレゼントでも買って、機嫌を取るのが得策ですよ」渉は、凪のためにプレゼントを買うという提案に乗っかり、ようやく席に着いた。そして、部下に直美を家まで送り届けさせた。直美は歯を食いしばって、悔しそうに呟いた。「どうして私はダメで、あの女はビジネスをやっていいの!私のどこがあの女に劣っているっていうのよ!」「山下さんは、ちっとも劣っていないわ」後ろから、葵の声が響いた。直美が振り向くと、そこには凪によく似た面影を持つ葵が立っていた。ただ、その冷ややかな眼差しは、どこか自分に似ているように感じられた。二人は顔を見合わせ、お互いの思惑を察し、人気のない場所へと移った。葵が先に口を開いた。「凪なんて、運が良かっただけなのよ。本当は私たちと同じ立場に立つ資格すらないんだから」「その通りね、あの女はただ運があるだけです」直美も頷き、葵の頬にある痣に気づいて、凪の仕業だと思い込んだ。「可哀想に……せっかく綺麗な顔がこんなことになって。あの女は好き
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第195話

「お母さんを助けたいの。お願い、チャンスをちょうだい!電話じゃ長くなるし、何から話せばいいのか分からないの。ねえ、お店で会って話さない?お願い、一度だけでいいから!」葵の声は、ひどく切迫していた。凪は顔を上げ、パソコンの光が顔を照らした。今は、その12億円がどうしても必要だった。もしこの話がうまくいけば、ピンチから抜け出すことができる。ミツキホールディングスの未来のため、凪は悩んだ末、葵の申し出を受け入れた。「場所と時間は?」「夜の7時に仕事が終わるから、その後青山亭で会おう」葵は丁寧に応えると、仕事に呼ばれたようで、慌ただしく電話を切った。青山亭は個室を多く備えたレストランで、話が外に漏れる心配がないことから、多くの上流階級の人々が商談や打ち合わせのために訪れていた。しかし、店は入り組んだ路地の奥にあり、隠れ家のような魅力がある一方で、道に迷いやすかった。凪はあまりそんな路地裏にあるような場所に行きたがらなかった。けれど、目先の問題を解決するため、文句は言わず、家を出た。青山亭の扉を開けると、給仕が笑顔で出迎えた。「二宮グループの凪さんでしょうか?葵さんが予約した個室へご案内します」「ええ」凪が頷いた。店内には広さが異なる個室が並び、小さい個室はドアではなく、カーテンで仕切られていて趣があった。凪は案内された個室に腰を下ろした。給仕が丁寧にお茶を入れた。「料理ができあがるまであと20分ほどありますので、少々お待ちください」食事の時間まで決められていたとは。「誰かに頼み事がある時だけ、気が回るのね」と、凪は皮肉げに呟いた。ここへ来るまでの間に喉が渇き、凪は出されたお茶をゴクゴク飲んだ。途端、部屋を急に暑く感じ、コートを脱いだ。まずい。まさか移動中に体が冷えて、風邪でもひいたかしら?帰り道に薬を買わなきゃ、と考えていたその時、再び葵から着信があった。「ごめんなさい!急な残業が入っちゃって。本当に申し訳ないわ、また明日都合をつけるから!ご飯は支払っておいたから、食べてから帰ってね!」凪は少し不満だったが、驚きはしなかった。親子揃って大地に内緒でお金を集めているのだから、行動しにくいはずだ。だが、一人で食事をする気にはなれず、凪は席を立ち、そのまま青山亭を出
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第196話

「彼女を離せ」低く、冷え切った男の声が響いた。凪は目を輝かせ、声を上げようとしたが、チンピラたちに口を塞がれた。もう一人のチンピラは懐からナイフを取り出し、闇の中に立つ影へ突きつけた。「ヒーローごっこがしたいなら、他所でやれ」「……」相手は黙ったままだった。二人のチンピラは薄笑いを浮かべた。相手が怯んで立ち去ると思ったのだ。しかし次の瞬間、男はナイフを蹴り飛ばした。チンピラが反応するよりも素早くその肩を掴み、投げ飛ばした。もう一人のチンピラは凪を抱えたまま逃げ出そうとしたが、一歩踏み出しただけで、男に道を塞がれた。凪は乱暴に地面へ降ろされ、反射的に悲鳴を上げた。しかし痛みを感じることなく、男の胸板にぶつかった。そしてすぐにチンピラの悲鳴が裏路地に響いた。凪が目を凝らすと、チンピラは手首を折られ、蹴り倒されていた。何という容赦のなさ。凪はとっさに逃げようとして、男の足を誤って踏んでしまった。男が漏らした吐息を聞き、思わず顔を見上げた。「すみません……え?」光生が突っ込んできた時、助けてくれた高級車に乗っていた人だ。凪は男の支えから離れようとしたが、足が思うように動かなかった。振り返ると、地面に横たわっているチンピラたちの罵りが聞こえ、背筋に寒気が走った。もしも、誰にも気づかれなかったら……足元に転がっているナイフに目をやり、凪はめまいに襲われた。吐き気を感じて、背を丸めて震えた。「大丈夫か?」男が低く問いかけ、凪にそっと顔を近づけた。凪は見知らぬ人が近づいてくることに身構えたが、命の恩人だったことを思い出した。男の戸惑った表情を受け、凪は壁に背中を預け、うつむいた。「すみません、その……」「ご家族に連絡したほうがいい」男は避けられても怒らず、凪がまだ怯えていることに気づき、一歩距離を置いた。それから警察に通報するためにスマホを取り出した。家族?大地の顔を思い浮かべたけれど、すぐにがっかりした気持ちになった。まだ形式上とはいえ、空も家族よね?凪は汗ばんだ手で空に電話をかけ、頑張って気持ちを落ちつかせながら、ことの顛末を説明した。それでも、声は震えを抑えきれなかった。空は話を聞きながら激しい焦燥に駆られた。しかし、今取り乱せば凪を余計に不安にさせるだけだと自
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第197話

その頃、病室の外。トレンチコートを着た男が、壁に寄りかかって不機嫌な様子で立っていた。「食事の後にこんな騒ぎに巻き込まれるとはね。K市の治安も、他の街と大して変わらないようだな」「このようなことは、菊地様がわざわざお手を煩わせるまでもございません……どうか、ご自身の安全を最優先になさってください」何人ものボディーガードが、彼の周りで心配そうに表情を強張らせていた。「菊地様」と呼ばれた男は、気にせず話を続けた。「せっかく格闘技を学んでいるんだ。こういう時のためにあるんじゃないか?」「凪を助けてくれた方ですか?」角を曲がってきた空の身なりは、いつもとは違って少々乱れていた。彼は早足で病室の前まで駆け寄ると、中を覗き込み凪が無事であることを確認した。そして、数名のボディーガードが周囲を固める男に、まっすぐ視線を向けた。「通りかかっただけです」男は空のほうを向いた。空の目に浮かぶ隠しようもない動揺に気づくと、そのまま手短に会釈をして、ボディーガードたちを引き連れて去っていった。後から駆けつけた隆は、立ち去る一行とすれ違った後、暗い顔をした空の元へ歩み寄った。「社長、さっきの方を調べてみますか?」「いや、まずは……」空はくるりと向きを変え、窓越しに眠る凪を冷ややかな目で見つめた。「一体誰が、こんな真似をしたのか、調べろ」K市で、自分の妻に手を出そうとするとは。周囲の空気はより一層張り詰め、その重苦しさに隆は身震いし、慌てて部下に調査を命じた。ようやく事態が落ち着いた。空は言葉もなく、ベッドの隣で凪を見守った。夜が明け、うっすらと朝の光が差し込む。凪がゆっくりと目を開けると、傍らには空の姿があった。本当に来てくれたのだ。布団の中で、凪はシーツを強く握りしめた。空が来てくれた喜びと、彼がスーツ姿のまま徹夜して見守ってくれたことへの申し訳なさが込み上げてきた……「すみません、貴重な時間をとらせてしまって」凪が目を覚ましたことへの喜びは、その一言で空の胸から一瞬にして消え去った。彼女は、ただ自分の時間をとらせたと思っているだけなのか?空は昨晩、隆が持ってきた現場の写真と、そこに転がっていたナイフを思い出し、表情を暗くした。「いい歳をして、知らない場所で出されたものなんて口に
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第198話

凪は、自分の言葉のどこが悪かったのか分からなかった。すると隆がドアを押し開けて入ってきた。彼は困惑した様子で廊下の方を振り返った。空はあんなに心配そうな面持ちで来たのに、なぜ凪が目覚めた途端に怒って去っていったのか、不思議でならなかった。ともかく、調査報告を持っている自分を空は止めなかったから、恐らく凪に渡せということだろう。隆は真っ直ぐ凪の方へ歩き出し、調査結果をひとつずつ報告した。「あのチンピラ二人組は、山下直美さんが雇ったようです。例の店の給仕については、彼自身も飲み物に異物が混入していたことを知らなかったようでして、現在調査中です」話を聞き終えた凪は眉をひそめた。直美?今日自分を呼び出したのは、間違いなく葵だったはずなのに。自分の見ていないところで、あの二人が手を組んだというわけか?凪の瞳が冷たくなった。「チンピラのことだけど、すぐに警察へ通報しなくてもいいわ。私の方で片付けるから」そう言い終えると、凪は泉に迎えを頼むために電話をかけようとした。しかし凪が通話ボタンを押す前に、隆が彼女を止めた。「通報をしないのは承知しました。ただし、社長のご命令では、全身検査の結果が出るまで、当面の間は退院を禁じるとのことです」凪はスマホを操作する手を止めた。そして信じられないという顔で、隆を見上げた。「もうすっかり良くなったし、検査なら明日にも通院すればいいわ……」「申し訳ありません。『検査報告書が出るまでは病院から一歩も出てはいけない』、とのことでした。たとえ病室を出られたとしても、外にいるボディーガードたちが通しません。どうか、このまま休んでいてください。何か御用があればすぐにお呼びください。ずっと待機していますので」隆は淡々と説明して病室を出て行き、扉の前に立った。ガラス窓の向こうから、凪には隆の肩のシルエットが見えた。まるで軟禁されているようだ。寒気のようなものが背中を這い上がり、凪は観念して布団に潜り込み、目を閉じて独り言を呟いた。「結局、黒崎家の評判と自分のプライドが関われば……互いに尊重し合えるパートナーだとか、夫婦の自由とか……すべてその場の気分で無視されるのね」そう低く文句を洩らし、凪はやるせなさで身を縮めた。ますます、空という人が分からなくな
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第199話

一方、その頃。病院でゆっくり休み、疲れと恐怖を拭い去った凪は、退院した後そのまま車で二宮グループへと向かった。会社に着くと、すぐそばの休憩スペースで若い女性二人が話していた。「ねえ、新しく来た副部長って、二宮家の人らしいわよ。拘留所から出てきたばかりでしょ?ミツキホールディングスを追われただけの『飾り物』が、よくもうちの副部長になんてなれたわね。マーケティング部に楽な仕事はないって知ってるのかしら?金を稼ぐことを甘く見てるんじゃないわよ」その会話を耳にして、泉が代わりに説明した。「昨日、丸山さんが出所して、社長室で騒ぎ立てたみたいで、結局、空いていたマーケティング部の副部長の座を手に入れました」「やっぱりね」凪は冷静に視線を戻した。莉子は大地のいとこであり、彼女の母親が若い頃に大地を何度も助けていた恩があったから何度も重役を任せられていた。いとこ同士というが、実際には実の兄妹同士のような存在だった。大地は二宮グループにコネの人間を大勢押し込んでいる。莉子ひとりくらい、遅かれ早かれ入れるだろう。ただの時間の問題だった。本当は気にしたくなかった。でも、オフィスに戻ると、いくつかのプロジェクトチームのメンバーが、ファイルを抱えて泣き出しそうな面持ちで待っていた。「副社長、戻ってくれてよかったです!手掛けている2つのプロジェクトが数日後には開始予定なのに、マーケティング部から突然方針を変えるって言われて。これじゃあ間に合わないしお客様への言い訳が立ちません!」「そうですよ!前もって合意した予算すら今日になって『見直す』と言い出して、会議の時に揉めた挙句、お客様が怒って帰っちゃったんです!」「それどころか、上がってきたマーケティング戦略なんて、どう見てもインターンが作ったものですよ!」凪の瞳が暗くなった。ミツキホールディングスの資金を勝手に使った件についても、まだ責任を追及しきれていないのに。莉子は、二宮グループにやってきて自分に牙を剥くのか?これらのプロジェクトは、全部自分のサインが入っていた。このまま失敗すれば、自分にも確実に火の粉が飛んでくる。「マーケティング部まで案内して」凪が冷ややかな声で言った。凪はチームのメンバーたちと一緒に、マーケティング部へ向かった。扉を開けると、莉子
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第200話

「丸山副部長、正気なのか?副社長がサインしているプロジェクトは全部、二宮グループの長年の得意先だぞ。毎年何億円も売り上げがあるプロジェクトを潰す気か!?今、資金繰りに問題があったらどうなるか分かってるのか!?」マーケティング部の部長は、莉子に向かって声を荒らげた。彼は大地と親戚ではないが、苦楽を共にして会社を築き上げてきた古株であり、莉子と大地の関係よりも遥かに絆は深かった。莉子の指先が震え、マニキュアが爪からはみ出した。「し、資金繰りに問題?そんなに大事ですか?」凪はさっき、そんなことについて何も言わなかったのに。マニキュアのことなど構っていられない。莉子は慌てて書類を開いた――だが、長らく仕事の書類に目を通していなかったせいで、何が書かれているのか全く分からなかった。部長の顔が怒りで真っ赤になった。「二宮グループがいま、どんな状況か分かってるのか?仕事ができないくせに副部長の座に居座りやがって!この取引先を逃せば、年間2億円の損失だ。自分で補うつもりか?社長に告げ口したところで無駄だ。プロジェクトを挽回できなきゃ、社長は君の尻拭いなんてしない。いいか、その時は刑務所行きだ!」部長は大地の性格を一番理解していた。結局、資金が足りなければ、大地は全ての負債を莉子に押し付け、彼女を服役させるはずだ。そうすれば二宮グループが被害を被ることはないのだから。莉子も、内心では分かっていた。「わ、私はただ、凪の鼻をへし折ってやりたかっただけです!あの女があんな大きなプロジェクトを任されているなんて知らなかったんです!」「これは、副社長が宮崎さんを連れて契約してきたプロジェクトだ。誰が任されているかは考えればわかるだろ!今すぐ取引先のところへ行って頭を下げるか、社長に自分で説明するんだ。俺は知らんぞ!」吐き捨てると、部長はドアを叩き閉めて出て行った。莉子が震え出した。そんな大金、どうすればいいのよ?2億円よ?自分の懐から出すなんて絶対に嫌だわ。しかし味方はもういない。誰も手を貸してくれないと悟った莉子は、結局凪のもとを訪ねた。「マーケティング部の戦略を持ってきたわ!今すぐ取引先に届けて!」凪は書類の山から顔を上げた。「取引先は今日、県外出張で、間に合いません」「はぁ!なんでよりによって今日
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