「……承知いたしました」水琴が渋々頷くと、学長は「ではよろしく」と上機嫌で部屋を出て行った。扉が閉まり、相談室の中には水琴と灼也の二人きりになった。沈黙が降り下りる。水琴は彼を無視して、わざとらしく手元の資料に視線を落とした。痛いほどの気まずさが部屋に満ちる。「……静沢先生。カウンセラーなら、まずは患者を気遣うべきじゃないかな?」沈黙を破ったのは灼也だった。彼は面白そうに片眉を少しだけ持ち上げ、甘く低い声で言った。水琴はため息をつき、バタンと音を立てて資料を机に置いた。そして、極めて事務的な、氷のように冷たい声で問い返す。「それで?高遠さんは、一体どのような『心理的問題』を抱えていらっしゃるのでしょうか」灼也の漆黒の瞳が、真っ直ぐに水琴を射抜く。「失恋したんだ」彼は静かに、だが熱を帯びた声で告げた。「毎日、息をするのも苦しいほど胸が痛くてたまらない。……どうすればいい?」水琴の心臓がドクンと跳ねた。しかし、表面上はあくまで完璧な「心理カウンセラー」の仮面を被り、淡々と応じる。「高遠さん。どなたかから聞いたことはありませんか?失恋に伴う苦痛は、人間として極めて正常な『心理現象』であって、治療が必要な『心理的問題』ではありません。もしご自身で耐えられないほどの苦痛を感じていらっしゃるのであれば、当相談室としては『感情発散法』、もしくは『感情昇華法』を用いてご自身で乗り越えることを推奨いたします」一切の感情を排した、冷徹な模範解答だった。灼也は面白そうに水琴を見つめた。氷のように冷たい仮面を被っていても、そうやって毅然と胸を張っている姿こそが、彼女らしい。彼はそんな水琴を、密かに愛おしく思っていた。「へえ。じゃあ、その『感情発散法』と『感情昇華法』というのは、具体的にどうすればいいのかな?」彼はわざとらしく首を傾げ、カウンセリングを受ける素直な患者を演じてみせる。水琴は表情一つ変えずに答えた。「文字通りです。感情発散法は、信頼できる友人や家族に胸の内を打ち明けること。そして感情昇華法は、その悲しみをエネルギーに変えて、仕事や学業に打ち込むこと。私個人としても、この二つの方法を強くお勧めします」コツ、コツ……灼也の長い指先が、デスクの天板をリズミカルに叩く。低く重い音が室内に響く中、
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