その後、2人の様子を眺めていた館長がカメラから顔を上げ、うっとりと呟いた。「……まるで外国映画のワンシーンのようですね。これは、ぜひできあがった写真を、ここへ飾らせていただきたい」「えっ……か、飾るの……ですか?」 美桜の頬が瞬く間に紅潮した。 一成は小さく笑い、館長に向き直る。「光栄です。ただ、彼女は少し照れ屋なんですよ。そこがまたかわいくて。今妊娠していますから、今日はここで写真に残せてよかった」「そ、そんなこと……!」美桜は慌てて首を振る。 しかも妊娠していると他人に告げるとは…まるで自分が父親化のような口ぶりで美桜は困惑した。 「君の美しさは誰もが認めている。現に館長がそうだ」 「はい。奥様や旦那様以上に素敵な夫婦は帝都中探してもおりませんよ」 あまりに褒められたため、かーっと顔が赤くなる。 一成が嬉しそうに頷いた。 「決まりだね。これで“帝都一美しい花嫁”の誕生だ。大いに飾ってみんなに見てもらおうじゃないか。僕だって、世界中に君のことを自慢したいくらいだ」 周囲のスタッフたちが思わず拍手を送る。 美桜は顔を真っ赤にして小さく俯きながらも、一成と過ごせる時間を幸せだと感じていた。 記念館を出ると、空には淡い夕焼けが広がっていた。 桜並木の影が伸びていく。「……今日のこと、一生忘れません」 「僕もだよ」 一成は馬車の中で、そっと美桜の髪を撫でた。 「君の笑顔を見るために、僕は生きてきた気がする」 「もう……そんなこと言って……」 その言葉があまりに真っ直ぐで、美桜はうつむく。 胸の鼓動がうるさい。 馬車の窓の外では、帝都の夜がゆっくりと動き出していた。 提灯を掲げる通りの灯、楽団の音、香る洋酒。 長い間狭い館に閉じこめられていた彼女にとって、帝都で初めて見る「文明の灯火」だった。 ※ 浅野邸に戻ると、食堂はすでに夜の灯りで満たされていた。テーブルには白いクロスと花、磨き上げられた銀器。浅野邸は日本家屋ではなく、モダンな洋館として建築されている。大豪邸で惜しみない金を使い建てられたものだ。この時代から日本に洋館が増えていった。 一成が椅子を引き、美桜を優しくエスコートした。「せっかくの記念日だから、少し贅沢をしたよ」 運ばれてきたのは、洋風のスープに煮込み肉、そして温かいパン。香ば
Last Updated : 2025-11-05 Read more