彼の声が震えていた。 再会の喜びよりも、なぜ彼女がこんな姿でいるのかという驚きと怒りが、混ざり合っていた。「……どうしたの? 桐島家で何かあった?」 美桜は答えようとしたが、唇がうまく動かなかった。喉が焼けるように痛い。 それでも、途切れ途切れに言葉を絞り出した。「逃げて……来たの。……あの人たちは、私と……この子を……殺そうと……」 そこまで言って、息が途切れた。 一成の表情が一瞬で変わる。 凍りつくような静けさが、彼の中に広がった。「……子?」 その一言に、美桜は弱々しく頷いた。 沈黙。 彼の拳が震える。 胸の奥にある何かが音を立てて崩れていく。「そうか……」 かすれた声。 だがその奥には、計り知れない怒りが潜んでいた。 彼はかつて、東条家が没落する直前――桐島と浅野が裏で結託し、東条の資金を奪った噂を耳にしていた。 恩人である東条の死、そして死んだとされていた娘。実は生きていて、桐島家にいたなんて。 前回行った夜会で、美桜に似た人物を見たと思い、あちこち探したが見つからなかった。 霧島京が連れていた女性が美桜に似ていたから尋ねたのだが、はぐらかされた。 全てが今、目の前で繋がった。 一成は美桜をそっと抱きかかえた。 その腕には、幼い日に絵本を聞きながら眠った少年のぬくもりが、まだ残っているようだった。「もう大丈夫。誰にも君と、この子には触れさせない。僕が守るよ」 だがその瞬間―― 遠くから、聞き慣れたヒールの音が近づいてきた。 屋敷の門を出たばかりの薫子が、風にスカートをなびかせながら歩いてくる。 手には白い手袋、唇には艶やかな紅。 美しいはずのその顔に、冷たい狂気が宿っていた。怒りが顔中に滲んでいるようだ。「まあ。驚いたわ、一成。あなた、そんなところでなにを?」 声は穏やかだったが、瞳の奥にあるのは明確な敵意だった。 一成の背筋が伸びる。 抱いた美桜をかばうようにして、静かに立ち上がった。「姉上……。なぜここに?」「あなたこそ、なぜその女を抱いているの? まさか、助けようとしているの?」「当然だ。この人は――東条先生の娘で、僕の命の恩人なんだ。彼女に危害を加えるのは僕が許さない」 それを聞いた瞬間、薫子の顔色が変わった。 紅の唇がひきつり、笑みに戻
Last Updated : 2025-10-25 Read more