結菜は目を上げた。見上げる智輝の銀灰色の瞳は、真剣な輝きを帯びている。 樹と同じ色の瞳。同じ色の輝き。(嘘じゃない。この人は心から、そう思っている) 彼の瞳にいつかの日と同じ光を見つけて、結菜はそっと目を伏せた。(それなら、私も気持ちを返したい。そのためには……)「樹のDNA鑑定。受けます」「え?」 急な言葉に、智輝は目を見開く。「あの子のために、客観的な事実を明らかにしたい。桐生家のお母様は、引き下がるつもりはなさそうでした。これ以上、誤魔化すことはできません。鑑定結果という事実があれば、あなたも……智輝さんも、安心できるでしょう?」 5年ぶりに呼んだ、智輝の名前。 彼は言葉を失って、それから目に涙を浮かべる。くしゃりと泣き笑いをした。「ありがとう……結菜」 智輝もまた、彼女を名で呼んだ。「鑑定はあくまで手段だ。母や桐生家を納得させるための、ただの形式だよ。その結果があれば、より確実に君たちを守れる……」「はい。お願いします」 微笑んだ結菜の瞳からも、涙がこぼれ落ちる。 智輝は結菜に腕を伸ばしかけて、止めた。今はまだ、触れるのを許される時ではない。「今日はもう、帰るよ。樹くんによろしく伝えてくれ」「ええ。また来てください。あの子もあなたが好きですから」 玄関を出て、結菜は智輝を見送った。 彼の背中が廊下の角を曲がって消えるまで、消えてからも、長いことその先を見つめ続けていた。 ◇ DNA鑑定の準備が進む数日間、智輝は東京の本社には戻らず、この海辺の町に留まっていた。プロジェクトの指揮という名目はあったが、本当は結菜と樹のそばを離れたくなかった。 彼はこれまで以上に仕事に没頭した。それは以前のような、現実から逃避するための無機質な集中ではない。この町と、そこに住む親子との未来を、自らの手で築き上げるための熱のこもった仕事ぶりだった。 夕方、仕事の区切りがつくと、彼は決まって保
Last Updated : 2025-11-14 Read more