鏡子の完璧だった計画を、他ならぬ息子が壊してしまったのだ。鏡子としては当然、認めるわけにはいかない。 玲香の醜い嫉妬は承知の上で、あえて手を組んで結菜を遠ざけた。 ところが、結菜を失った智輝はどこかおかしくなってしまった。 鏡子は当時のことを思い出すと、わずかに胸が痛むのを感じる。 智輝は仕事に没頭して、他を顧みなくなった。自分自身を削るように働き続けた。『智輝。自己管理も仕事のうちです。無理をして倒れたらどうするのですか』 母としての心配と管理者としての責務から言えば、智輝は感情が抜け落ちた瞳で答える。『ご心配なく。KIRYUホールディングスをさらに成長させる。母さんの目標は、必ず果たしますから』 ――母さんの目標。 鏡子は息子に必要以上の責任を押し付けてしまったのではないかと、一瞬だけ思った。 だがすぐに、桐生家の当主としての立場がそれを打ち消した。(会社の成長と家の持続は当然の責務。私もそうやって生きてきた) 彼女はそれ以外の生き方を知らない。だから疑問に思わない。 孫の存在を喜ぶよりも、その子をいかに活かすかを考える。 樹という子供を手に入れる。まずは智輝本人を結菜から引き剥がし、東京へ連れ戻さなければならない。会社を人質にすれば、CEOとしての責任感が強いあの息子は、動かざるを得ないだろう。 鏡子は、KIRYUホールディングスの古参役員の一人に電話をかけた。「私です。明朝、緊急の役員会を招集なさい。議題は――」◇ 翌朝、図書館のプロジェクトルームに智輝が出勤すると、PCを立ち上げてすぐに緊急の通知が割り込んできた。『臨時取締役会 オンライン出席要請』 予定にない、しかも「緊急」と銘打たれた招集。智輝は、訝しげに眉をひそめた。(何事だ……?) 彼は指定された会議システムのURLをクリックする。画面が切り替わり、東京本社の役員会議室の光景が映し出された。 長いテーブル
Last Updated : 2025-11-19 Read more