「やったー! あたった! おじさん、すごいよ!」 樹が小さい手で目一杯拍手をしている。「良かったな、坊主。この大物を取られちまうなんて、そこの旦那は大した腕だ」 屋台の主人はぬいぐるみを拾い上げて、樹に渡した。 自分よりも大きいくらいのぬいぐるみを、樹は満面の笑みで抱きしめる。「おじさん、ありがとう!」 一点の曇りもない感謝の言葉と笑顔に、智輝は胸を締め付けられるような、言いようのない愛しさを感じた。 ◇ 結菜は図書館からの帰りの道を、息を切らしながら走っていた。(樹、いい子にしているかしら。早く戻らないと……) お祭りの場に戻った結菜が見たのは、大きなぬいぐるみを抱えて飛び跳ねている樹と、傍らに立つ智輝。それから、少し遠巻きに彼らを見守っている友人の親子だった。「桐生さん? あの、一体何を」「いや……」 結菜は、智輝と、大きなぬいぐるみを抱えた樹を見て、驚きと申し訳なさで言葉を失った。 智輝は何かを言おうとするが、言葉にならない。「その方が射的で、見事にぬいぐるみを取ったんですよ」 友人の母親が言った。「すごかったよ! びゅーんってたまが飛んで、ばしって当たったの」「てぃらのくん、ごろっておちたよね」 樹と男の子が交互に言う。「ママが戻ってきてよかったね。じゃ、私たちはこれで」「お世話になりました。本当にありがとうございました」 友人親子が去っていく。「桐生さんも、ありがとうございます。ご迷惑でなければ、射的の料金を払いますが」 結菜は固い声で言うが、智輝は首を振った。「いや、いいよ。俺も楽しかったし、その子が喜んでくれたから」「そうですか……」 結菜は頭を下げた。樹は声を上げる。「ママ! おまつり、もっと見ようよ!」「そんなに大きなぬいぐるみを持って、歩ける?」「歩けるも
Last Updated : 2025-11-09 Read more