「こんにちは! さおとめ、いつきです。4さいです!」 元気よく自己紹介した樹は、エドワードの姿を見て不思議そうに首を傾げた。「しらないおじいちゃんがいる」「こら、樹! 失礼でしょ! この方は、智輝さんのおじいさまよ!」 横で結菜が必死で息子をつついている。「おじさんの、おじいちゃん? おじさんのお父さんのお父さん?」 樹はますます首を傾げた。「樹くんは、いい子だね。結菜さんが心優しく育ててくれたのだろう」 エドワードが言うと、樹は嬉しそうに笑った。「うん! ママは、とってもやさしいよ!」◇ エドワードは、画面の中で屈託なく笑うひ孫の姿に目を細めた。(そうか……この人とこの子が、智輝の大事な宝物) 智輝は桐生家の女帝だった母に反旗を翻してまで、戦ってみせた。 孫のそんな姿に、エドワードはかつての自分を思い出す。戦後の日本に単身で渡り、無一文から会社を興した若き日の自分を重ねていた。守るべき血統や家柄など何もない。ただ、未来を信じる情熱だけがあった、あの頃の自分だ。 旧華族の名門・桐生家の娘と結婚したのも、ただ純粋に相手を愛していたからだ。 当時の桐生家は名門の名ばかりで、すっかり没落してしまっていた。だから結婚に特に利益があったわけではない。 エドワードと妻は、戦後の動乱期と会社の成長を二人三脚で乗り切った。信頼と愛情があってことのことだった。 その妻はもういない。十数年前に先立ってしまった。 エドワードの気落ちは激しく、娘の鏡子に全てを任せて隠居生活に入った。 その時の智輝はまだ10代の学生。結果、鏡子に全ての責任がのしかかった。(あの時、隠居するのは早かったかもしれんな。おかげで鏡子に、最後まで苦労をさせてしまった) エドワードは内心で首を振って、過去の後悔を振り払った。 今、孫の智輝が守ろうとしている「未来」そのものが、画面の向こうで輝いている。
Last Updated : 2025-11-24 Read more