「しかし、危うさも感じます」 鏡子はティーカップを持ち上げ、一口だけ紅茶を含んだ。「あなたの理念は素晴らしい。対話を重視する読み聞かせ。それは現場の子供たちにとって最高の体験になるでしょう。ですが、ボランティアの個人の熱意や善意に依存しすぎるシステムは、決して長続きしません」「善意に、依存……ですか?」 結菜が問い返すると、鏡子は静かに頷いた。「ええ。全国の施設を支援するということは、数百、数千のボランティアを束ねるということです。中には、熱意があっても技術が伴わない者、時間が取れずに離脱する者も出てくるでしょう。そのたびに代表であるあなたが現場に出向いて指導するわけにはいきません」 鏡子の指摘は、鋭く結菜の不安の核心を突いていた。 先日ミーティングをした田中代表の「現場は手一杯だ」という言葉が蘇る。「では、どうすれば……」「システム化し、マニュアル化するのです」 鏡子はテーブルの上の企画書を指先で叩いた。「佐藤くんが開発しているオンライン掲示板。これを単なる雑談の場にしてはいけません。優良な読み聞かせの事例や、子供の反応が良かった対話のパターンをデータベース化し、誰もが検索できるようにするのです。初心者のボランティアでも、そのデータベースを参照すれば一定のクオリティを保てるように仕組みを作る。それが、組織を運営するということです」「それは……!」 結菜は目を見張った。 ボランティアの自発的な情報共有に任せるのではなく、財団側から意図的に「成功パターンのデータベース」として構築する。 そうすれば、属人的なスキルへの依存を減らすことができる。 そうした仕組みがあれば、新しくボランティアを始める人の助けにもなるだろう。 経営者として数々の事業を成功させてきた鏡子ならではの、徹底して合理的な視点だった。「おっしゃる通りです。ボランティアの方々の負担を減らすためにも、知見を共有しやすい仕組みは絶対に必要ですね」
Zuletzt aktualisiert : 2026-06-09 Mehr lesen