立て続けに計画が失敗し、玲香の苛立ちは頂点に達していた。 東京の綾小路家の自室は、彼女のプライドを具現化したような空間である。猫脚のアンティーク調の家具は白と金で統一されているが、その上には有名ブランドのロゴがこれ見よがしに入ったバッグや小物が無造作に散乱している。壁際には、買ったまま開封もしていないオレンジや青の箱が積み上げられている。 部屋全体が高級なショーウィンドウのようでありながら落ち着きがなく、品が良いとは言えなかった。 その部屋の主である玲香は、シルクのガウンを羽織って忌々しげにタブレットをスワイプする。画面には、結菜の発見を称賛する地方の記事が映っていた。「あの女……!」 玲香は低く唸ると、タブレットをソファに叩きつける。ぼすん、と音がしてタブレットは高級なスプリングに跳ねた。 物理的な攻撃も、職場での圧力も通じない。ならば社会的な信用そのものを、根こそぎ奪ってしまえばいい。(そうよ、最初からこうすれば良かったんだわ) 彼女は興信所の番号を呼び出し、スピーカーモードに切り替えた。「私よ。仕事をお願いしたいの」「これは綾小路様」 電話の向こうで、低い男の声が恭しく応じる。「あの町の、女たちが集まる場所……そうね、スーパーや商店街の井戸端会議に紛れ込みなさい。そして、それとなく噂を流すのよ。『図書館の早乙女結菜という女は、東京の資産家を子供を盾に誘惑している』『父親も分からない子供を育てる、素性の知れないシングルマザーだ』とね。証拠は必要ないわ。人々の心に、疑いの種を植え付けられれば、それでいいの」 怒りを押し殺した、ひどく冷たい声だった。◇ 数日後、町に数人のアウトドアウェアを着た男女が姿を現した。観光客を装った、興信所の工作員たちだった。 彼らは商店街のパン屋で世間話をする主婦の輪に加わり、人懐こい笑顔で話しかける。「この町って、子育て支援が手厚いんですねえ。市営住宅も子育て世帯優先。図書館でも、シングルマザーの方
最終更新日 : 2025-10-28 続きを読む