翌日の午後、智輝は結菜の姿を探していた。(彼女と話をしなければ。彼女自身の口から、本当の話を聞かなければ……) 智輝はようやく過去と向き合う覚悟を決めていた。たとえ彼の罪が明らかになる結果であろうとも、もう逃げ続けるのはできない。 ところが、いつも彼女がいるカウンターに行っても姿が見えなかった。「すみません。早乙女結菜さんを探しているのですが」 カウンターの同僚に彼女の所在を尋ねる。「早乙女さんでしたら、郷土資料室の書庫で整理作業をしていますよ。ご用事でしたら、呼んできましょうか?」「いえ。こちらから向かいます」 郷土資料室は普段は職員以外立ち入らない、静まり返った書庫エリアだ。館内の案内図を見て、智輝はそこへ向かった。 彼のまとう空気は、いつもの冷たく近寄りがたいものではない。覚悟を決めた男の真剣なものだった。 郷土資料室の奥、高い書架が迷路のように並ぶ通路の向こうに、結菜の背中はあった。一人で黙々と古い資料を整理している。 智輝は足音を殺して、ゆっくりと彼女が作業する通路へと入っていく。一歩、また一歩と距離を詰めた。 不意に、結菜の肩が小さく震えた。彼の気配に気づいたのだ。彼女は振り返ることなく、その場で動きを止める。 智輝は、彼女のすぐ背後で立ち止まった。初めて結菜にまっすぐに向き合う。 その瞳には後悔と、これまで見せたことのない切実な色が浮かんでいた。◇ 書庫の整理をしていた結菜は、彼の足音に気づいいた。強い緊張に襲われる。 彼女の頭には、鏡子からの書状の冷たい文面が焼き付いている。(来た。お母様からの使いとして、あの手紙の続きを言いに来たの……?) DNA鑑定をして血の繋がりが確認できれば、親権の協議を。 それが最もあり得る可能性だ。しかし結菜の脳裏に、樹と笑い合っていた智輝の穏やかな顔が蘇る。(でも……ううん、違うかもしれない。
最終更新日 : 2025-10-23 続きを読む