仁志には、紬の言葉の裏がすぐに読めた。今回、穂高グループが滞りなく特許ライセンスを手にできたのは、フライテックが仁志に恩を売ったからではない。ただ、かつて紬の力になったことへの、ささやかな返礼に過ぎないのだ。そして、この恩返しは今回限り――これで貸し借りは帳消しになる。仁志は、紬の物静かで、どこか冷ややかな横顔を見つめた。これまで、彼女が表面上礼儀正しく接してきたのは、決して自分を友人として認めていたからではない。その残酷な事実を、仁志は痛いほどはっきりと理解していた。しばらくの沈黙の後、仁志はゆっくりと頷いた。「……分かった」実のところ、最初からわかっていたのだ。紬が自分に対して、ビジネス以上の感情を抱くことなどあり得ないと。慎の友人という立場である以上、何を望んだところで結果は見えている。端的に言えば、たとえ将来、紬との間に何かしらの関係が芽生えたとしても、その関係をうまく築いていけるかどうかすら怪しいのだ。慎とは十数年来の付き合いになる。その友情を手放すことも、長谷川グループと敵対することも、仁志にできるはずがなかった。だが、人間というものは本来、自分でも望み薄な結末だとわかっているのに、一縷の望みをかけ、どうにかなるのではないかと夢を見てしまう、愚かな生き物なのだ。彼らのような世界では、幼い頃から徹底した利益優先のエリート教育を受けて育つ。純粋で一途な思いなど、果たしてどれほどの人間が抱き続けられるだろうか。一人の女のために身を滅ぼし、目の前の利益や地位をすべて投げ出すような者が、本当に存在するのだろうか。魅力的な女性に目を奪われることはある。だが、紬は友人の妻なのだ。それ以上でも、それ以下でもない。そして当然ながら、自分は最初から紬の選択肢に入ることすら許されていなかった。仁志は立ち上がると、紬をじっと見つめ、静かに手を差し伸べた。「温井社長、穂高グループにこの機会を与えてくださり、本当にありがとうございます」仁志の複雑な心中など知る由もなく、紬は軽くその手を握り返した。「こちらこそ」掌に伝わる、華奢でやわらかな感触。仁志はそれを、そっと心に刻み込むように確かめた。さりげなく、ほんの少しだけ力を込め、それから未練を断ち切るように、その手を離す。「芙香にまた何かあれば、相談させて
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