院試の合格発表を待つ間も、紬が一瞬たりとも時間を無駄にすることはなかった。アロー・フロンティアが新エネルギー分野への参入を狙っていると知ったときから、いずれ衝突は避けられないと覚悟していた。ならば、布石はすべて打っておく。新素材の調査、各社との交渉――やるべきことは山積みだった。国際貿易センター周辺の有力な企業は、すでにほとんど回り終えている。午前九時を過ぎた頃。紬はフライテックを後にし、ベイサイド・テクノロジーの近くにある企業へと向かった。この辺りに足を運ぶのは初めてだ。そびえ立つビルを見上げながら、先日、悠真がフライテックを訪れた時のことを思い出す。正当な評価と検討を経て、新エネルギープロジェクトをベイサイド・テクノロジーの技術と融合させることができれば、それは理想的な形になるはずだ。そんな思案を巡らせながら立ち止まった、その時だった。一台の車が目の前に滑り込んできた。降り立った寧音の視線が、紬の視線と真っ向からぶつかる。その瞳には冷徹な光が宿り、隠しきれない棘と嘲笑が滲んでいた。それでも、紬は眉ひとつ動かさない。母の粟野咲が転院を余儀なくされたこと――それが彼女たち母娘にとってどれほどの屈辱であったかは想像に難くない。心穏やかでいられないのも当然だろう。寧音のような、生まれながらの「女王」を自負する人間にとって、これほど顔に泥を塗られた経験は耐えがたいはずだ。慎が転院を決めたのは二人の身を案じてのことであっても、紬の前で面目を潰されたという事実に変わりはない。恨みを買うのも無理はなかった。「望月さんのアシスタントに連絡して。着いたと伝えてちょうだい」寧音は紬から冷然と視線を外すと、まるでそこには誰もいないかのように、傍らのアシスタントへ短く命じた。そしてハイヒールの乾いた音を響かせ、悠然とビルの中へ消えていった。紬は特に驚きもしなかった。国防用品大手のベイサイド・テクノロジーが相手なら、アロー・フロンティアが動くのは必然だ。おそらく悠真に会いに来たのだろう。紬はさして気にとめることもなく踵を返し、自分の用件を片付けることにした。ドローンの機体に採用するカーボンファイバー複合材について、ある社長と商談を進める必要があったからだ。相手も話のわかる人物で、三十分もしないう
Mehr lesen