昌雄は齢八十を超えてなお血気盛んで、その声には若々しい張りが満ちていた。その問いかけが投げかけられた瞬間、周囲の空気が凍りついたように静まり返った。四方八方から視線が一斉に集まり、不思議そうに慎の顔へと注がれる。その場の誰もが、隠しきれない驚きに満ちていた。慎は、昌雄からそう尋ねられることを最初から想定していたかのようだった。指先でゆっくりと椅子の背を叩きながら、「……妻のことですか?」と聞き返す。紬もまた、この急展開に驚きを隠せなかった。なぜ昌雄が突然、こんな公の場でそんなことを尋ねるのか見当もつかない。たとえ離婚の秘密保持協定を交わしていなかったとしても、かつての夫婦関係を今更明かしたいなどとは微塵も思っていないのだ。無意識に眉間に皺が寄り、瞳の奥に深い困惑が広がっていく。ちょうど、その時だった。顔を上げた瞬間、慎と視線が絡み合った。慎はさりげなく、こちらへ一瞥をくれた。その冷ややかな一瞥に、紬は思わず指先をぎゅっと握り込んだ。心底虫唾が走るほど、この状況を嫌悪していた。まるで突然、見世物として舞台の上に引きずり出されたような気分だ。しかし慎はそれ以上取り合うことなく、すぐに冷淡に視線を戻した。そして昌雄を見据え、口元に薄い笑みを浮かべ、鷹揚な態度で次の言葉を待った。昌雄は目を細めた。「慎、君は以前、結婚していたんじゃないのかい?」凛太も顔を上げた。その視線が慎へと向かい、この予想外の話題が持つ重みを静かに推し量っている。周囲の来賓たちの間でも、ざわめきが広がり始めた。「長谷川代表、ご結婚されてたんですか?」「初耳ですよ」「では奥様、今日いらしてるんですか?もしかして、私どもがよく存じ上げている方では……」慎はそうした無遠慮な囁きを耳にしながらも、顔色一つ変えなかった。昌雄を見つめ、軽く笑みを浮かべる。「では、その妻が、一体どこにいるというのですか?」この一言は、明らかに冗談めかしていた。いや、明確な「否定」だ。昌雄の表情が、わずかにこわばった。反射的に、遠巻きに見ていた美智子の方へ視線を向けた。美智子の顔色は、最悪だった。情けないとでも言いたげに慎をひと睨みすると、顔を曇らせたまま、忌々しそうに身を翻して、その場を立ち去ってしまった。せっかく彼女が整えた
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