悠真も、あれで諦めたのだろう。踵を返してレストランへ向かおうとしたとき、ちょうど反対側でも、車を降りたばかりの寧音の姿が目に入った。寧音はとっくにこちらに気づいていたらしい。表情一つ変えることなく、紬を冷たく一瞥するだけで、そのまま店内へ入っていった。階段を上がりながら、寧音はかすかに眉をひそめていた。今し方、悠真は紬の車から降りてきた。いつの間に、あの二人があそこまで近しくなったというのか。思わず紬という人間への認識を改めた。悠真と密かに会っているとは……魂胆が透けて見える。紬という女も、ある部分においては、やはりなかなかの策士のようだ。もっとも——望月悠真という男は、そう簡単に心を乱されるような人間ではない。寧音はまっすぐに自分の席へと向かった。咲はすでに退院しており、今日は気分がよくて久しぶりに外へ出てきていた。座るなり、咲は寧音に尋ねた。「明日の慎さんの誕生日、どうやって一緒に過ごすつもりなの?紬が何か邪魔をして、慎さんをあなたから引き離そうとしたりしないかしら」「しないわ」寧音は淡々と言い切った。「紬に、慎に対してそこまでのそんな力なんてないわ」咲はようやく安堵して笑った。「そうよね。せっかくの初めての誕生日なんだから、盛大なパーティーでも開いてあげたら?友人もたくさん招いて、せっかくだから記念に残る形で」寧音は口元をほんの少し緩めた。「後で彼に話してみるわ」……論文の校正が終わると、紬はすぐさま提出した。一分たりとも無駄にはしなかった。その後、東陽へと向かい、江戸川と株式関連の手続きを進めた。ちょうど書類のサインのためにやって来た慎と、エレベーターの中で鉢合わせた。狭い密室の中で、三人で顔を合わせることになった。慎の視線が、静かに紬へと向いた。紬は脇目も振らずに乗り込み、正面を見据えた。「長谷川代表」江戸川は慌てて敬礼し、挨拶した。慎は軽く頷いただけで、声は出さなかった。沈黙が異様に重くなった。江戸川は完全に板挟みになり、胃が痛くなりそうだった。前の社長と現社長、自分はこの二人の間で緩衝材にでもされた気分か。この息の詰まるような空気に耐えかねて、江戸川社長がふと思いついたように口を開いた。「明日は長谷川代表のお誕生日ですよね?温井社長、せっかく
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