紫乃のその無邪気な称賛の言葉に、寧音の難解な内容を前にして募っていた焦燥感が、少しだけ洗い流された。「大したことないわ。今日は主に、学びに来ただけですから」紫乃がさらに何かを言いかけたとき、寧音がカメラの角度を変えた拍子に、画面の端に見覚えのある姿が映り込んだ。「紬?」紫乃が驚きを含んだ声を上げる。すぐ隣なのだから、紬の耳にもその声は届いていた。だが彼女は静かに一瞥をくれただけで、何も言わなかった。「なんであの人もここにいるの?」紫乃は紬の無反応な態度にむっとしたのか、寧音に向かって尋ねた。寧音は手元のノートを閉じ、冷ややかに言い放つ。「さあ、知らないわ」その短い言葉の裏には、どんな姑息な手を使って入り込んだのかは知らないが、という明確な侮蔑の色が混じっていた。当然、紬にはすべて聞こえていた。言外に込められた棘の存在も、容易に察しがついた。紬は静かにペンのキャップを閉じた。「私がどうやってここへ来たかは、どうでもいいこと。でも、あなたがどうやって来たか……それなら、私にはよくわかるわ」寧音はすっと目を細め、眉間に険しい皺を刻んだ。先ほどまで顔に貼りついていた余裕の笑みは、もはや見る影もない。紬は自分を嘲笑っているのか?……一体どの口が、私を断じる権利があるというのか。隣で聞いていた承一は、口元をかすかに持ち上げた。実に的確で、痛快極まりない一言だった。紫乃は紬の言葉に込められた皮肉を正確に読み取り、ひときわ不満そうな声を上げた。「なんでそんな勝手な決めつけをするの?寧音さんは元々あなたより優秀だし、立派な入場資格を得たのは実力でしょ。お兄ちゃんに頼ったわけでもないのに。あんたも業界に認められる論文を一本書いて、国際学術会議の入場券にしてみれば?」論文など、書こうと思えば誰でも書ける。だが、その学術的な水準の差は歴然としている。紬のような人間に、そんな大口を叩く権利があるはずがない——紫乃は本気でそう信じていた。寧音は沈黙を守ったが、紫乃の主張こそが揺るぎない事実だと確信していた。中身のない人間の振る舞いというのは、やはりどこか底が浅く、品性を欠くものだ。「紫乃?」最前列に座る慎が、いつの間にか振り返っていた。極めて冷淡な視線を携帯の画面へと向けた。「そんなに海外の生活が気にな
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