紬は、慎と寧音の幸せな日常など知りたくはなかった。だが、三年間も夫婦として過ごしてきたのだ。いくら諦めたとはいえ、無感情でいられるはずがない。特に慎が、かつて自分が切望しながらも決して得られなかったものを、いとも容易く寧音と共に実現しているという事実が──彼女は、唇の端を自嘲的に引き上げた。胸が詰まるような息苦しさを覚え、ここ数日落ち着いていた腹部がまたずきりと痛み始めた。紬は携帯を置き、下腹部を押さえながら机に突っ伏した。骨張った肩が、微かに震えている。数分後、よろめきながらバッグから薬瓶を取り出し、錠剤を水で流し込んだ。その時にはもう、痛みで冷や汗がびっしょりと滲んでいた。もはや仕事を続ける気力もなく、紬は承一に一言だけ返信する。【彼らの結婚式に、あなたも招待されるかもね】【……それなら、サーカスで猿回しでも見てる方がマシだ】と返信が来た。紬はもう一錠鎮痛剤を飲むと、身体を丸めて眠りについた。年末が近づき、フライテックの第三位株主となった紬は、少なくない額の配当金を手にした。紬は入社してまだ日も浅く、彼女がチームを率いて進めようとしているプロジェクトもまだ計画段階だ。こんな大金を受け取るのは、少し気が引けた。「お前が開発したU.N2は、表向きにはオレの手柄ということになっている。その看板のおかげで、フライテックはU.N2目当ての提携話を山ほど取り付けられたんだ。フライテックが今日あるのは、半分はお前の功績だよ」承一は、そう言った。紬はそれ以上、辞退しなかった。そして、年越しを目前に控えたある日──笑美は全従業員に一日休暇を与えることを決め、フライテックのメンバー全員で年越し旅行をすることにした。遊びの達人である笑美が企画を担当し、選ばれたのは西京で最も有名な、娯楽施設が一体となった高級リゾート地だった。紬は、本来参加するつもりはなかった。今の自分の体力では、とてもみんなについていけない。しかし、笑美の執拗な説得に負け、結局は同行を承諾した。紬はみんなと登山には行かず、リゾート地のホテルでドローンのデータ作業をすることにした。カフェの一角で作業を始めると、気づけば二時間が経っていた。温泉帰りの芙香が偶然紬を見かけ、嬉しそうに駆け寄ってきた。「紬さん!こちらにも遊びに来てたんです
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