「私、専門用語ばかりでよく分からなくて……先生に見てもらった方がいいかな」凛太が振り向き、穏やかな声で言った。「どんな結果だ?見せてもらえるか?」笑美は凛太の顔を見知っていた。警戒するように眉をひそめながら言いかけた。「あなたが紬の……」「温井さんの主治医です」凛太は笑美を見て、静かに手を差し伸べた。笑美は不安に唇を震わせたが、それでも報告書を凛太の手に渡した。紬も、固唾を呑んで彼を見つめた。「結果は……」凛太は書類にざっと目を通し、顔を上げて紬を見た。その冷静な目に、かすかな驚きが浮かんだ。「……妊娠十一週目です」紬の心臓が、一拍飛んだ。蒼白な頬に驚愕が広がり、言葉にできない複雑な感情が押し寄せて、思考が完全に停止した。笑美が急いで訊いた。「どういうことですか!?紬の今の体で、大丈夫なんですか?」凛太の端整な顔が、少し険しくなった。「率直に言います。温井さんの現在の状態で妊娠すること自体、医学的に簡単ではありません。確率はかなり低い。だから今回は、極めて特殊なケースになります」紬は呼吸をわずかに深くして、どうにか気持ちを落ち着かせてから訊いた。「この子は……」「諦めるしかありません」凛太の冷徹な声に、迷いは一切なかった。紬の中でもすでに答えが出ているはずだと、彼には痛いほど分かっていた。紬の瞳が、かすかに揺れた。凛太は彼女の血の気のない顔を見て、声をわずかに和らげた。「今の状況は、決して楽観できるものではない。もしこの子を産もうとすれば、十ヶ月近く、がんの治療は一切できなくなる。そうなれば子宮だけの問題では済まなくなり、全身への転移のリスクを抱えることになる。この子を手放して初めて……お前が、生きられるんだ」逃れようのない、残酷な現実だった。向き合わなければならない。妊娠中はホルモンバランスなどの影響で、腹の中の小さな命に本能的な深い感情が芽生える。身を切られるような思いを抱くのは当然のことだ。しかし、紬の場合は違う。もう、どこにも退路はないのだ。子どもを残せば、彼女の命をつなぐ治療はそこで完全に止まるしかなかった。笑美は顔から一気に血の気が引いて、紬をきつく抱きしめてから凛太にすがるように訊いた。「他に……他に方法は本当にないんですか?
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