真実を知ったとき、確かに怒りはあった。悲しみも、信じたくないという拒絶も。彼女が自分を愛していなかったという事実は、慎の心を深くえぐった。それでも、そのどれひとつとして、紬の前で見せることはなかった。馬鹿げた話だ、と自嘲さえした。問い詰めたところで、ふたりの関係が惨めになるだけだ。それだけは、何としても避けたかった。彼にできたのは、四ヶ月にわたる長期出張を口実に、ロンドンへと逃げるように身を置くことだけだった。執務室には今も、紬とのたった一枚の写真が飾られている。区役所の写真コーナーで撮った、婚姻届を掲げるふたりの記念写真。感情が溢れ出したとき、その写真立てを投げ捨てたこともある。それでも結局、また拾い上げては元の場所へ戻した。自分自身に、長い沈思の時間を与えた。紬が彼と結婚したのは、他人の謀略の結果に過ぎない。彼女自身が望んだわけではなかった。追い詰められでもしない限り、あんな状況を受け入れる女ではないことも分かっていた。柊は須藤家の事業不正によって収監されたが、それもせいぜい三年のことだ。紬が慎との住まいをあのように甲斐甲斐しく整えていたということは――いつかまた柊ときちんとやり直すつもりでいたのだろう。当時は、彼女の心の中に自分がいないことへの怒りに震えた。だが同時に、自覚もしていた。自分が割り込んだせいで、彼女はあらゆる人間に利用される立場に追い込まれてしまったのだと。彼女を手放したくない執着と、愛という名のもとに縛り付けたくないという理性が、ずっと胸の中で綱引きを続けていた。自己矛盾など、何度繰り返したか分からない。紬の性格はよく知っている。いつだって自分を後回しにする女だ。後ろめたさと、須藤家への義理。そんなものを抱えたまま、「これでいいんだ」と自分を納得させ、人生に妥協してしまいかねない。いつだって彼女は、自分より他人を優先してきたのだから。いっそ何も知らないふりをして、一生そばに縛り付けておこうかとさえ考えた。心の中に自分がいないことが忌々しく、柊の境遇が妬ましく――たとえ紬が去ろうとしても、力ずくで引き止める手段はいくらでもあると、一度や二度ではなく本気で思った。それで彼女に恨まれようとも構わない、と。慎には、それほどの度量も器の広さもなかった。だが、現実は容赦なかった。内にも外に
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