紬の固い決意が、慎の目に見えないはずがなかった。彼女の中には、少しでも俺に寄り添おうとする気など、どこにも残っていなかった。俺との子を手放すという拒絶の行動は、どんな言葉よりも残酷に事実を物語っていた。慎は、ふと考えた。紬は俺を、一体どこまで嫌悪しているのか。あの頃、たしかにふたりの間に穏やかで良い時間があった。あれは責任感から来るものだったのか、それとも……本当に互いを愛していた瞬間が、わずかでもあったのだろうか。だが、今となっては。ふたりの絆であった子が消えた。紬の心が今どこにあるのか、その答えがはっきりと出た。どうしても、割り切ることはできなかった。柊との婚約がこじれたことの当てつけ以外に、彼女がこんなにも急いで子を手放した納得できる理由が見つからなかった。自分を欺き続けることすら、今の彼にはもう力が湧かなかった。紬は今、慎に向けてどんな顔を作ればいいのかわからなかった。今日自分の身に起きた恐ろしい事故のことも、慎のあの絶望に満ちた誤解の眼差しも、どちらも重すぎてうまく向き合えない。心身ともに限界まで磨り減っていて、弁明の言葉を発する気力すら残っていなかった。やがて慎は静かに立ち上がり,重い喉仏を動かして言った。「……お前の体が回復して、基地の仕事がすべて片づいたら。その後は、お前が望む形に……俺は従う」氷のように冷たい宣告。それだけを残して、彼は振り返ることなく病室を出て行った。今はこれ以上、彼女の顔を見ていられなかったのだ。今年で三十歳になる。物心ついてから一度も、これほど心を抉られるような深い痛みを覚えたことはなかった。怒りも、自分自身が足元から崩れかけるような感覚も、今は確かにあった。それでも同時にわかっていたのだ。彼女を責める資格など、俺のどこにあるというのかと。自分を愛していないことは、決して罪ではないのだから。紬は彼を引き留めなかった。必死に説明したところで、一体何を言えるというのか。今の慎の痛みに満ちた状態では、彼の中ですでに結論が出てしまっている。それに、こんな世界的に有名な病院の中で、見知らぬ医師に危害を加えられたなどと、どうやって彼に証明すればいい?確固たる証拠も何もないのだ。紬はそっと、自分の平らになった腹の上に手を当てた。親子の縁というのは、かくも不思議なもの
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