光貴も来るというのなら、と紬は腹をくくって、前を歩く慎の背中についていった。慎は紬の目の前で、躊躇いもなく電子錠の暗証番号を入力した。それは以前、新居で見たのと同じ数字の羅列だった。中に入って、紬は思わず息を呑んだ。こちらの内装は、下の自分の部屋とまったく同じだったのだ。床の材質も、テーブルの配置も、椅子の形も。細かな置き物や窓のカーテンの色に至るまで、何もかもが完全に一致していた。まるで、自分の家にそのまま帰ってきたような錯覚に陥った。一瞬、自分がどの階にいるのか分からなくなり、目がおかしくなったかと思ったほどだ。「……いつの間に、こんなことを?」玄関を入ると、慎はすでに靴棚から女性用のスリッパを取り出していた。紬がよく履いているブランドの、見慣れた型だった。片膝をついてそれを静かに彼女の足元に置いてから、慎は顔を上げて紬を見た。「内装の意匠料でも請求するつもりか?」「きちんと払ってくれるなら、口座に振り込んでください」紬はため息混じりに返し、それ以上言い合う気分にはなれなかった。慎は立ち上がって奥のリビングへ向かった。「わかった。振込先は電子マネーでいいか? まずライン追加して番号を送ろうか?」紬は再び押し黙った。そういえば――あの時、怒りに任せて自分が連絡先を消してから、二人はラインで繋がっていない。慎が本気ではないのはわかっていた。それでも、この冷え切ったタイミングでそんなことを持ち出すのは、どこか皮肉めいていて、少しだけ胸の奥に刺さった。中に入り、ソファに腰を下ろそうとして。ふと、正面の飾り棚に置かれた写真立てに気がついた。自分の部屋にあるのと同じデザインの棚に、いくつかの写真がひっそりと並べられていた。一枚は、婚姻届を提出した日に区役所で慎と撮った記念写真だった。二人とも不自然なほど背筋を伸ばして肩を並べ、その表情に際立った喜びの感情はない。あの日、慎は終始まったく笑っていなかったし、きっと楽しくなかったのだろうと、紬はずっと思い込んでいた。だが――今になって改めて見返すと。写真の中でこちらを見据える慎の目の奥に、ほんのかすかな、柔らかい笑みの痕跡が残っていた。そもそも、義務的に撮った役所での記念写真を、わざわざ部屋に飾る夫婦などそうはいないだろう。他の写真は――見覚えが
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