場の空気を読むのが少し遅れた良平は、隣に立つ慎の横顔をちらりと窺い、出かかった言葉をぐっと呑み込んだ。仁志はほんのわずかに視線を動かし、小さく頷くにとどめる。慎だけが、どこ吹く風とばかりにゆっくりと伏せていた目を上げ、まるで何事もなかったかのような顔をしていた。余計な口出しをすることもない。仁志もまた、気づかないふりをしていた。ちょうど挨拶に訪れた客が現れたのを機に、ようやく紬から視線を外し、そちらへと向き直る。紬はこれ以上、無駄話に付き合うつもりはなかった。蘭子たちを促し、美智子のもとへと連れていく。紬が離れるのを見届けた途端、陸が慎のそばへ駆け寄ってきた。「この空気……まだ仲直りしてないんですか?」「別れることになった」慎は静かに目を伏せた。子どもの一件があって以来、紬の心の中に自分の居場所はもうないのだと、痛いほど思い知らされていた。そう言い残し、踵を返してその場を立ち去る。陸はその場に立ち尽くしたまま、呆然とその後ろ姿を見送っていた。――どういうことだ。慎が、紬を諦められるはずがないのに。一方、紬は蘭子たちを連れて美智子のもとへ向かっていた。そこへ笑美からラインのメッセージが届く。承一と一緒に到着したという知らせだった。入口のほうへ目をやると、すかさず笑美が承一の手を引いて駆け寄ってくるところだった。慎を相変わらず快く思っていない笑美だったが、美智子の祝いとあれば話は別だ。両親もこの宴に列席するのだから。笑美は少し離れた場所に立つ慎をちらりと睨みつけると、紬の腕を引いて声を潜めた。「あんな男、あんたみたいな奥さん、もう二度と見つけられないぞ。表向きはいつも隙なく完璧に振る舞って、十分すぎるくらい面目を立ててやってたじゃないか」慎の態度とは大違いだ。寧音を連れてのうのうと歩き回っていたときは、紬の顔色など一切気にかけなかったくせに。紬はただ黙っていた。今日が、本当に最後なのだ。今日を境に、ふたりは正式に離婚を公表する。「その点については、オレも同意する」承一がふと眉を上げ、笑美を横目で見やりながら同調した。おそらく自分たちの話が聞こえたか、気配に気づいたのだろう。慎がふいにこちらへと目を向けてきた。笑美は腕を組み、冷ややかに鼻を鳴らす。「何だよ、人の顔をじろじろ見て。間
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