思いがけず知った事実を前に、紬はしばらく黙って絵を見つめてから言った。「そうなのね。でも……園部寧音に対しては、本当に何もなかったの?人の気持ちは変わるものだと。ふたりが仲睦まじくしているのを、多くの人が見ていた。私が癌だと診断されたあの日も、あなたは彼女のために豪華な花火を上げて誕生日を祝っていたじゃない」あの日は、私の誕生日でもあったのに。「あの日は確かに彼女の誕生日でもあったが、俺たちの結婚記念日でもあったんだ」慎は熱を帯びた瞳で紬を見た。「あのとき、須藤柊の出所が迫っていた。お前もそのことを忘れていると思うが、俺はてっきり、お前がそれをきっかけに俺から離れていくと思い込んでいた」あの日、慎はどうしようもなく意地を張っていた。柊が記念日の翌日には出てくるとわかっていたから。「柊がもうすぐ出所するというだけで、俺には十分すぎるほどの脅威と不安だった。以前はいつも記念日を覚えていてくれたのに、あのときだけ、お前はずっと何も言わなかった。だから俺は、余計なことを考えたんだ」もう取り繕う気力もなかった。胸の奥に深く仕舞い込んでいた、あの嫉妬と見苦しい本音を全部さらけ出した。それで意地を張って振り向いたら、紬は突然、冷酷に離婚を切り出してきたのだ。わからなかったはずがない。ずっと、心のどこかではわかっていた。ずっと紬に対して、自分の不安からひねくれた形でぶつかり続けていた。あの花火だって、本当は寧音などまったく関係がなかった。紬は呆然とした。あのときの自分の絶望的な状態を、思い出していた。そして今、慎があの花火を上げた本当の意味がわかった気がした。華々しいあの花火の裏に、紬へ向けた必死の無声の訴えがあったのだ。記念日を、そして慎自身を、ただ見てほしかったのだ。けれど……「あのころ、私の体の調子はもうかなり悪くなっていた。自分の体調のことで手一杯で、あなたもほとんど家に帰ってこなかったし、記念日を気にする余裕なんてどこにもなかった」柊のことなど、これっぽっちも頭になかった。あのころはすでに病が密かに進んでいて、命の恐怖と苦しみを一人で抱えながら、慎が帰ってこない日が続いていたのだ。ほかに何を考える余地があっただろうか。その一瞬、慎の長い睫毛が、激しく揺れた。そのときの冷たい日々に、また引き戻された。
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