紬は重い体をなんとか支えながら起き上がった。「どういう状況なの?」瑞季の表情は険しい。「取締役会に動きがありました。光貴さんが今日、緊急の会議を招集したようで……この機に乗じて、実権を握ろうとしているのかもしれません」紬はわずかに眉をひそめた。慎の身に何かあれば、あの連中が大人しくしているはずはないと見てはいた。特に、分家の者たちが帰国して以来、社内のあちこちで不穏な空気が漂っていたのだ。「取締役会には、もともと派閥が存在します。光貴さんたちは数年前に海外へ追いやられたとはいえ、国内にまったく手を打っていないはずがありません。内部に息のかかった者もいるでしょうし、いざとなれば対立構造を作り上げることなど、彼らにとっては造作もない。今回、光貴さんが突破口に選んだのは、例の政府の大型プロジェクトです。代表はまだ意識が戻っておらず、ご自身で対処できる状況にない。そこを、まんまとつけ込まれてしまった形です」瑞季は言葉を選びながら、紬の顔色をうかがった。事態は明らかにこじれ始めている。ここでうまく手を打てなければ——光貴たちが、本当に権力の中枢へと返り咲いてしまう。もはや明白だった。これは間違いなく、慎から実権を奪い取るためのクーデターだ。紬の体調は優れず、下がったはずの熱も再び上がり始めていた。それでも彼女は高ぶる思考を抑え込み、静かな声で告げた。「まず、具体的な話を聞かせて。それから、このプロジェクトに関する資料をすべて見せてちょうだい。目を通しておきたいから」瑞季は、常に持ち歩いているノートパソコンを開き、紬に差し出した。「このプロジェクトは向こう五年間を見据えた計画で、テクノロジー分野における大きな転換点になると見込まれています。本社の取締役全員が並々ならぬ関心を寄せている案件ですが……現在の情報によれば、先方の担当者が慎さんに対して難色を示しているらしく、承認の決裁がいっこうに下りない状況です。慎さんが昏睡状態にある今、光貴さん陣営は遅延の責任をすべて慎さん側に押しつけようとしている。ですが、当の慎さんは反論する場にすら出られません」このままでは、向こうに好き勝手されるのを黙って見ているしかない。決裁が下りなければ、プロジェクトは延期されるか、最悪の場合は交渉決裂だ。いずれにしても、
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