All Chapters of あなたの「愛してる」なんてもういらない: Chapter 111 - Chapter 120

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111話

◇ 仕事を終わらせ、自宅に戻ってきた私は、夕飯とお風呂を済ませて、既に自室で休んでいた。 スマホのスピーカーからは、苓さんの優しい声が聞こえる。 「それで、苓さん。今日は予想外の訪問客が来たんです」 苓さんの低くて、甘い声が耳に心地よくて。 行儀が悪いけど、私はころり、とベッドに横になって苓さんに伝える。 「ええ、そうなんです。御影ホールディングスの、御影専務が突然……」 苓さんも戸惑っているようで、声音にはそれが色濃く現れていた。 だけど、私にも理由までは分からない。 「それが、私にも分からないんです。お父様の秘書の上尾さんが一緒に待ってくれたんですけど、彼を見た御影専務が顔を顰めて……2人で話をしたい、と」 「ええ、そうなんです。何だか不気味ですよね?」 苓さんは、考え込むように少しだけ押し黙ったあと、言葉を発した。 「──えっ!?」 「うちの新規事業が、阻まれる可能性があるって事ですか……?」 もし、本当にそうなら。 ぼうっとしている場合じゃない。 お父様や、お祖父様に相談して、御影ホールディングスの妨害を阻止しなくちゃならない。 この事業には、期待しているのだ。 藤堂、小鳥遊、田村の三家は間違いなく成功するだろうとふんでいる。 莫大な利益だって見越している。 それを、妨害されて横から攫われてしまったら。 損失は、計り知れない。 私が真っ青になりながら今後の対応について考えを巡らせていると、苓さんの声が続く。 けど、茉莉花さん。まだ、御影専務が個人的に接触してきただけだから、過剰に反応しないでください。相手の動きを注視していてください。……俺も、できるだけ御影ホールディングスの動きには目を
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112話

「いいえ……、いいえ──!涼子に、話した事なんて、ありません」 苓さんの声音も、真剣さを帯びる。 私の心臓は、何故かどくどくと不安に揺れる。 ただの、俺の考え過ぎだったらいいんですが。 苓さんはそう言うけど、私も何だかそんな嫌な予感を感じる。 私は苓さんの言葉に頷き、そこで時間も遅いから、と通話を終えた。 「苓さんが言ってた……専門知識もないのに、打ち合わせに入ってきた、涼子……」 苓さんは、御影専務が専門知識を学んでいる途中だから同席させたい、と言われたと言っていた。 だけど、涼子が建築関係に興味を持っているなんて、初耳だし、驚いた。 「涼子は……建築に興味なんて……」 中学、高校と。 御影さんと涼子と同じ学校だったから。 だから、あの時の涼子は煌びやかな──服飾関係に興味を持っていたように記憶している。 けど、それを真面目に真剣に学んでいるような様子は見えなかった。 ただ、趣味の範疇のような。そんな風に見えた。 「……大人になって、変わったの?だけど……」 やっぱり納得がいかないような気がする。 もしかしたら、涼子は単純に何らかの興味があって苓さんに近付いたのではないのかしら。 それに、苓さんに私のお母様の事まで聞いてきた、と言っていた。 御影さんは、涼子を溺愛しているけど。 他家のセンシティブな情報を、そう軽々しく口にす
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113話

それからの数日間。 あまりにも呆気なく、何事も起きずに日々が過ぎていた。 あの日、御影さんから連絡があったあとは、再び彼から連絡がくる事はなく、あんな事があった事をすっかり忘れてしまうくらい、日々仕事の忙しさに、時間が目まぐるしく過ぎて行った。 そんな風に過ごしていた、ある日。 その日、私はお母様のお見舞いに行くために会社は午後休を取っていた。 午前中に必要な会議を終え、志木チーム長や矢田主任とのミーティングが終わった頃には既に13時近くになっていた。 会議室で、退出の準備をしながら、矢田主任が世間話のように話しかけてきた。 「本部長、本日は午後お休みですよね?」 「ええ、そうなんです。忙しい時にごめんなさい。タブレットは持っているから、緊急の連絡があれば躊躇わずに連絡してくださいね」 「いえいえ、そんな!お休みの時はしっかり休んでください!」 矢田主任のあとに、部屋を出て行こうとしていた志木チーム長も同調するように頷いてくれた。 「そうです……。俺たちにしっかり休め、と仰るんですから、藤堂本部長が見本を見せて下さらないと」 「私たち、家に仕事を持ち帰る事も普通だったので……それをやめるように、と言ってくださった本部長には本当に感謝しているんです」 志木チーム長に続いて、矢田主任も笑顔のまま話してくれる。 「やる事は膨大にありますが……、非効率的でした。……オンオフが大事なのは分かっていたつもりだったんですが、なかなか踏み出す事ができなくて……ありがとうございます」 「いいえ、そんな事気にしないでいいんです。皆さんが会社のために仕事をして下さっているのは有難い事です。だけど、やっぱり休む時はしっかり休まないといけませんからね」 私は笑みを浮かべつつ、志木チーム長と矢田主任にそう告げ、2人とは別方向に足を向ける。 「では、私はここで。お先に失礼しますね」 「はい。お疲れ様でした、本部長」 「お疲れ様でした」 軽く2人に頭を下げてから、真っ直ぐ本部長室に戻る。 私が去って行く背中を、じいっと焦がれるように見つめる志木チーム長の視線には気付かなかったし、それを揶揄うように肘で小突いている矢田主任にも、気付かなかった──。 ◇ 私は、会社を出て運転手までお母様の入院している病院まで向かってもらう。 病院に着き、入館手続きを
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114話

走り去って行く涼子の背中を見送りながら、私は首を傾げてしまう。 涼子は、一体何が目的でこの病院に来たのだろうか。 「あの女性……何だったのでしょうか?」 「さぁ……私にもよく分からないわね……」 運転手とも、顔を見合わせてお互い不思議そうに瞳を瞬かせる。 もう、姿が見えなくなってしまった涼子をいつまでも気にしていても仕方ない。 私は、気を取り直して運転手に向き直った。 「今日はお母様のお見舞いに付き合ってくれてありがとう。行きましょうか?」 「とんでもございません。奥様なお会いするのが久しぶりなので、嬉しいです」 運転手は、本当に嬉しそうに破顔する。 運転手は、過去お母様が元気だった頃は送り迎えを頻繁に行っていた。 それが、こんな事になってしまい、寂しさを感じていたのだろう。 久しぶりにお母様のお顔を見れるのを、本当に嬉しそうにしてくれていて。 私は、もっと運転手の彼を伴ってお見舞いにくれば良かった、と後悔した。 運転手を伴い、お母様が入院している病室に向かうため、病院の廊下を歩き始める。 そんな私と、運転手の背中をじっと見つめている人の事なんて、気づかなかった。 ◇ 「あれは、茉莉花と……涼子……?」 中央病院の受付。 御影直寛は、その日自身の健康診断のためにこの病院に来ていた。 遠くから、涼子の姿を見つけた御影は、すぐに涼子のもとに向かうでもなく、じっと涼子を目で追っていた。 今日、診察があるとは涼子から聞いてはいない。 それなのに、どうしてこの病院に。 御影が疑問に思い、涼子の姿を目で追っていると、涼子は真っ直ぐ、まるで向かう先が分かっているようにスタス
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115話

御影は、足早に涼子を追ったがその後ろ姿を見失ってしまった。 「もう、帰ったのか──?」 たまたま、何らかの理由で病院に来る用事があり、たまたま茉莉花を見かけ、怯えたのだろうか。 だが、それにしては自ら近付いて行ったように見えるのがどうにも腑に落ちない──。 そんな事を考えつつ、御影が再度病院に戻ろうか、と踵を返したところで。 聞き慣れた声が、ふと聞こえた。 「ええ……。そうよ、そう。状態は?どうなのよ、ちゃんと調べて!」 普段の可愛らしい声とは真反対の、冷たく叱責するような声。 声には苛立ちが現れており、元より苛立ちを隠すつもりはないのだろう。 電話相手の事を責め、仕事をしろ!と怒鳴る声。 それは、いつも聞いていた愛らしく、甘える声とはかけ離れていた。 「──は、涼子……?」 まさか。 そんなはずは。 御影は、自分の心臓がドクドク、と鼓動を速めるのを感じる。 心臓の音が嫌に耳に響いてきて。 壁面の角からそっと声の主を窺う。 そこには、悪態をつき、醜悪さに顔を歪めた速水涼子が、苛立ちを表すように地面を何度も踏み鳴らして相手に怒鳴り続けていた。 「全部調べ終わるまで帰ってくるな!」 しまいには、舌打ちまでしている姿を見て、御影は呆然とした。 そこからは、どこをどうやって戻ってきたのか──。 いつの間にか、御影は病院内に戻っていて。 呆然としながら、健診の順番が来るのをただ椅子に座って待っていた。 ◇ お母様の病室に着いた私たちは、いつもと変わらず静かに眠り続けるお母様の顔を見て、椅子に腰掛けて暫
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116話

どうして、御影さんがここに。 いえ、それよりも。 私は、病室の入口で佇む御影さんを真っ直ぐ見据えたまま、口を開く。 「どうしてここに?ここは、藤堂家に関わりのない方には入室して頂きたくありません」 御影さんは、感情の読めない目をお母様に向けていたけど、私の発言を受けて視線を私に戻した。 そして、どこか面白そうに口角を上げて笑う。 「関わりのない……?」 「……ええ。そうでしょう?御影さんとは、何の関わりもございません」 「──はっ。婚約者だっただろう。茉莉花の母君の病室に見舞いに来る事くらい、何ら問題も無い」 御影さんは鼻で笑い、一歩足を踏み出して、病室に入ろうとした。 けど、私はそれがどうしても嫌で。 「入らないでください。……本当に、嫌なんです」 「……どうして母君がここに入院している事を黙っていた。茉莉花、お前が一緒に見舞いに行こうと言えば、俺だってそれくらい……」 今度は、私が笑いたくなってしまう。 私が……黙って、いた? あれだけ、御影さんに説明したのに。 お母様が入院している事も、当時話しているのに。 「私は、何度も御影さんにお話した事があります。婚約時代、お母様のお見舞いにもお誘いしました。御影さんが覚えるつもりが無かっただけです」 「──っ、そんな、はずは……っ」 御影さんは、私の言葉に言い返そうとしたけれど、途中で声が萎んで行く。 思い当たる事があったのだろう。 「もう、いいでしょうか……お帰りください」 「……すまなかった。当時、茉莉花の話をまともに聞いた事はほとんど無い。それは、申し訳なかった」 「──っ!?」 まさか、御影さんが謝罪を口
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117話

御影さんの言葉に、私は彼に視線を向ける。 けど、御影さんはお母様の眠る姿をじっと見つめたまま、言葉を続けた。 「昔は、あんなにお元気そうだったじゃないか……。病気……、か?」 気まずそうにそう問われ、私は首を横に振って答える。 「……いいえ、交通事故です」 「事故……。だが、もう手術は成功しているんだろう?何故、目覚めない?」 「お医者様にも、原因は不明だと言われております。……私たち家族だって、お母様に早く目覚めて欲しいです」 「いったい、いつ事故に……?犯人は捕まっているのか?」 「5年ほど前、です。……もちろん、犯人は捕まっています」 「5年──」 御影さんの眉間がぴくり、と反応した。 忌々しい出来事を思い出したのだろう。 お母様が事故に遭ってしまった日から、暫く。 私と御影さんの婚約のきっかけになった、御影さんの会社の役員が不正を働いたのだから。 当時、今ほどの力をつけていなかった御影さんには会社の窮地を救う力などなく、結果的に藤堂家の手助けを得て、窮地を脱した。 そして、御影さんは望まぬ婚約に従うしかなかったのだ。 御影さんを盗み見る。 御影さんは、ぐっと歯を食いしばり、拳を握りしめている。 あの頃の感情を、思い出しているのかもしれない。 これ以上、御影さんとこの部屋にいるのは息が詰まってしまう。 私は話を変える事にして、ついでに彼に退出を促す事にした。 「……そう言えば、先程この病院で涼子と会いました。涼子も、通院をしているんですね。お大事に、と伝えておいてください」 私がそう話しても、御影さんからは何も返事が返ってこない。 もしかして、私が涼子の名前を出した事に、不快感を覚えているのだろうか。 そう思い、ちらりと御影さんを見やる。 彼は、何とも言えないような。感情を読みにくい顔をしていて。 「──?」 「本心で、そう言ってくれているんだな……」 「……何を当たり前の事を言うんですか?」 「いや、何でも無い」 何故、そんな事を言うのだろう。 「涼子は、茉莉花に何を喋った」 涼子が、私に……? 私が涼子に何かを言ったのを気にするんじゃなくて、私が涼子に何を言われたのかを気にしている……? 意味が分からない。 「特に、何も。名前を呼ばれただけです」 私はそう答えながら、ちらりと腕の時
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118話

御影さんが去って行った方向を、私は唖然と見つめたまま、呟く。 「いったい、何だったのよ……」 「──お嬢様、お待たせいたしました!お飲み物、を……。あれ、御影専務はもうお帰りに?」 ちょうどその時、運転手が2つのペットボトルを手に戻ってきてくれて。 病室の中に御影さんの姿が無い事に首を傾げていた。 私は苦笑いを浮かべつつ、彼の手から1つだけペットボトルを受け取り、ありがとうと伝えた。 それから、面会の時間いっぱい。 お母様の病室にいた私たちは、夕方頃に病室をあとにした。 ◇ 時間は少し遡り、茉莉花と別れたばかりの御影は、廊下を足早に歩きながら、院内で電波が繋がる場所までやってくると、スマホを取り出した。 自分の秘書に電話をかける。 「──熱愛報道を出した記者と、情報を流した人物を特定しろ。……ああ、藤堂家じゃない。近日中に必ず結果を報告しろ」 それだけを告げると、御影は何かを考え込むように難しい表情で俯いたが、すぐに顔を上げて再び歩き出す。 そして、そのまま病院をあとにした。 ◇ 夜。 恒例となった、苓さんとの電話。 時間を決めているわけじゃないけど、苓さんはいつも夜の10時頃になると電話をかけてきてくれる。 今日も、そうなのだろうと思っていたけど、10時を過ぎても電話が鳴る事がなくて。 5分、10分、と時間は過ぎて行く。 「どうしたのかしら……何かあったのかしら……?」 訳もなく、ちらちらと室内の時計と、自分のスマホを交互に見てしまう。 苓さんから、連絡が来ている訳でもない。 「今まで……遅くなる時
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119話

「ぇ……」 頭の中が、真っ白になる。 どうして、苓さんのすぐ近くから女の人の声が。 それに、苓さんの名前を呼んでいて……。 そう、考えた瞬間、スマホの向こうから恐ろしいほど冷たい苓さんの声が聞こえた。 そんな会話が聞こえ、女性の泣きそうな声が聞こえたが最後、ようやく向こう側が静かになった。 私はさっきまで不安に胸が押し潰されてしまいそうになっていたけど、スマホの向こう側の殺伐とした雰囲気。 それに、苓さんの冷徹な態度にびっくりしてしまい、思考が止まってしまっていた。 いつもの優しい苓さんの声が、聞こえる。 けど、私が無反応で焦ったのだろう。苓さんの声に焦りが滲む。 「だ、大丈夫です苓さん!す、すみません、びっくりしちゃっただけなので……!」 私の声を聞いた瞬間、苓さんがほっとしたような気配が伝わる。 そして、柔らかい苓さんの声がスピーカー越しに聞こえた。 「飲み会……打ち上げ、ですか?」 「ほ、本当ですか!?おめでとうございます、苓さん!」 とても嬉しそうな苓さんの声が聞こえて。 私まで嬉しくなって顔が綻んで行くのが分かる。 そっか、そうだったんだ。 契約が無事に決まったから、だからそのお祝いで飲み会を……。 そして、飲み会で向こうの会社の女性社員に話しかけられたのだろう。 さっきの女性は、苓さんの事を「小鳥遊部長」と
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120話

翌朝。 私は、普段よりも早く目が覚めてしまう。 今日は、苓さんが出張から帰って来る日だ。 夕方に苓さんが迎えに来てくれる。 「今日は、このスーツにしよう……」 いそいそ、とお気に入りのスーツを選び、髪の毛を普段より少し華やかにまとめる。 ドレッサーの前に座った私は、普段よりも念入りにメイクをして、いつもだったら使わない、少しだけ華やかな色を唇に乗せた。 ぱっと鏡に映った自分の姿を見て、思わず頬を染めてしまう。 「な、何だか浮かれてるかしら……」 恥ずかしい。浮かれきっているのが分かってしまう。 苓さんにも気付かれてしまうだろうか。 でも──。 少しでも可愛いって、綺麗だって、思ってもらいたい。 苓さんの隣に立っても、胸を張れるように。 普段より、少しだけメイクと服装を華やかにした私は、足取り軽く出社した。 本部長室に着く。 すると、私が出社するのを待ってたのだろう。 顔見知りの女性社員が小走りで駆け寄ってきた。 「藤堂本部長、おはようございます!何だか今日は一段とお綺麗ですね。……はっ!まさか、誰か大切な方とお約束でも?」 「ふふ、おはよう。うん、ちょっと約束があってね……」 私の頬に微かに赤らむ。恥ずかしいけど、私はその女性社員に肯定するように頷いた。 すると、突然背後で大きな音が響いた。 ──バサバサバサ! ──ガシャンっ! 「えっ、何事……っ!?」 私と女性社員は焦って振り返る。 すると、そこには志木チーム長の姿があった。 彼
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