「ま、茉莉花さん……?」 「その……。婚約者がいた、事は事実で……。でも、過去の事でもあって……っ!」 どう、説明すればいいのだろう。 どうしたら苓さんに気持ちが伝わる? どうしたら、苓さんに幻滅されないで、私が彼に惹かれている、と分かってもらえる? 頭の中がぐちゃぐちゃで。 でも、私は掴んだ苓さんの手をぎゅっと縋るように握りしめた。 「今はもう、御影さんの事なんて何とも思ってないんです……っ、そのっ、私たちの出会いは、あんな感じでしたけどっ、私は苓さんの優しさに救われていてっ!」 「ま、待って……待って茉莉花さ……」 「だからっ、だから私は……っ」 半ば、パニックになりながら必死に言葉を紡ぐ。 そうしていると、苓さんがそっとその場にしゃがみこみ、私と視線を合わせた。 「待って、茉莉花さん。……その、茉莉花さんの言葉は、俺に都合が良すぎる……。勘違い、しそうです……」 苓さんは、私に握られていない方の手で自分の顔を覆っている。 苓さんの指の隙間から覗く頬と、耳が真っ赤に染まっているのが見えて。 苓さんの言葉に、私は一旦言葉を止めた。 私たちの間には少しの間、無言の時間が流れるけど、その時間は苦じゃなくて。 私も、真っ赤になっているであろう顔をそのままに、苓さんの目を真っ直ぐ見つめ返す。 「勘違い、じゃないです……」 「──え」 「私は、苓さんの気持ちを……大切にしたいです。苓さんの私を好きだ、って言ってくれた言葉を、受け取ってもいいですか……?」 「──っ!?」 私の言葉に、苓さんの目が見開かれる。 そして、見る見るうちに歓喜の色が濃く滲み、苓さんの腕が私に向かって伸びてきた。 ぐっ、と強く引き寄せられ、私はそのまま苓さんに抱き込まれる。 「ひゃあっ!」 「っ、嘘みたいだ……っ、本当に?茉莉花さん、本当に俺の気持ちを受け取ってくれるんですか!?」 ぎゅうぎゅう、と抱きしめられたまま、私の耳元で苓さんの嬉しそうな声が響く。 苓さんに抱きしめられ、私は彼の胸元にそっと額を寄せる。 「はい……。ずっと、拒んでいて、ごめんなさい……待たせてしまって、ごめんなさい」 「謝らないでください、茉莉花さん。俺は、茉莉花さんが気持ちに応えてくれただけで幸せです」
最終更新日 : 2025-11-25 続きを読む