All Chapters of あなたの「愛してる」なんてもういらない: Chapter 271 - Chapter 280

360 Chapters

271話

◇ それから、数日。 お父様が警察関係は全て対応して下さっているからだろうか。 私は、普段通り会社に出社して、自分の仕事に集中する事が出来た。 報道機関への対応も、お父様を中心にお父様の秘書である上尾さんが対応してくれているからか、記者が私に話を聞きにやってくる事は無かった。 一時、落ちてしまっていた藤堂グループの株価も今では回復の兆しを見せていて、世間の反応も日が経つにつれて変わっている。 最初は懐疑的で、疑いの目を向けていた一般の人達も、もしかしたらお祖父様が故意に傷付けられた可能性がある、と言う情報と、警察が捜査を開始したと言うニュースが報道されると、皆が手のひらを返したようにお祖父様の容態を心配し、無事を祈るようになった。 私は、本部長室でそれらのニュース記事を見つつ、ため息を吐いた。 「──警察機関の協力の有無で、こんな風に世間が味方してくれるなんてね……」 何だか、現金なものだ、と呆れてしまう。 少し前までは準備が疎かだったから、とか。やり方に問題があったのでは、とか。 沢山の人達が藤堂グループを叩いていたと言うのに。 それなのに、今はほとんどの人が擁護し、犯人がいるのなら許さないとまで話している。 ニュース画面を閉じ、パソコンの画面に私が視線を戻した所で。 本部長室の扉がノックされた。 私はハッとして扉に顔を向けた。 「──どうぞ」 「失礼します、藤堂本部長」 扉を開けて入室して来たのは、志木チーム長だった。 彼は、書類を手にしつつ気まずそうに歩いて来る。 「こちら、決算書類です。本部長のサインをお願いします」 「分かりました」 彼から提出された書類に、サインをする。 彼が持ってきたのは、今回の新規事業──カフェ事業に関する施策だ。 今回の事故の件で、会社が慌ただしくなろうとも、仕事は変わらず進む。 だけど、それが逆に今の私には冷静さを保つのにとても良かった。 「──うん、今回の施策はとても良いですね」 「ありがとうございます。チームの皆で考えたので、本部長の言葉を聞いたら喜ぶと思います」 「ふふ、そうだと嬉しいです」 バインダーを閉じて志木チーム長に渡す。 すると、普段はすぐに部屋を出て行って仕事に戻る志木チーム長が、この場を離れようとしなかった。 何か話したい事でもあるのだろうか──
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272話

どうして、彼が藤堂の会社に──。 私は、信じられない気持ちで目の前に居る彼の名前を呼んだ。 「どうして御影専務が、ここに──……?」 私と同様、志木チーム長も突然御影さんがやって来た事に驚いているようで。 戸惑っている。 御影さんは、私と志木チーム長を交互に見た後、志木チーム長に視線を向けて口を開く。 「茉莉花──藤堂さんと話したい事がある。部外者は退出願いたい」 「──部外者って……」 志木チーム長がむっとしたように僅かに眉を顰める。 志木チーム長の反応は尤もだ。 この場所で、1番関係のない──部外者は、御影さんなのだから。 私は御影さんに視線を向け、言葉を返した。 「志木チーム長とは仕事の話をしているんです。それに、不躾に急に来て勝手な事を言われては困ります。御影さんこそ、我が社には関係の無い方。それに、私にはあなたとお話する事はありません。お帰りください」 御影ホールディングスと、藤堂グループはなんの関係も無い。 事業提携を結んでもいないし、これから先もその予定は無かったはず。 どうして御影さんが会社に来たのかは分からないけど、彼と話す事なんて無いのは確か。 だから、私は素っ気なく彼にそう告げたのだけど。 御影さんは私の返答を聞き、ぐっと苦悶の表情を浮かべた。 「──話しておきたい事がある、と言っているだろう。……涼子が消えた。お前の所に来ていないか?」 「──何ですって?」 涼子が消えた──? それで、どうして私の所にわざわざ御影さんが来るの──? 私の考えを読んだのだろう。 御影さんは本部長室に足を進め、私に近付いて来る。 「涼子は昔からお前に対して異常に怖がるような振りをしていただろう。だから、またお前の所に行ってお前に傷付けられたと言って俺に泣き付いてくるかと思ったんだが──……」 「──御影さんも、気付いていたの?」 まさか、涼子の態度に御影さんも気付いていたなんて──。 私が驚いていると、私のすぐ側までやって来た御影さんがふと私に向かって腕を伸ばしてくる。 「つい最近だが、な。今まで俺はあの蛇のような女に騙されて……1番大事な事に気付けなかった……」 「──!?」 御影さんの瞳に、執着のような熱が籠る。 どろり、とした気味の悪い感情が御影さんの瞳に浮かび、私の背筋にぞっとした悪寒が走
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273話

志木チーム長に自分の手を掴まれた御影さんは、不愉快そうに眉を寄せ、志木チーム長を睨み付けた。 「──お前、まだ居たのか?」 「まだ藤堂本部長と仕事の話が終わっておりませんので……」 「これは俺と茉莉花の問題だ。お前には関係ない」 御影さんと志木チーム長がお互い睨み合う。 2人は暫し睨み合っていたけど、御影さんが不意に志木チーム長から視線を逸らして呟いた。 「茉莉花の今の婚約者は、確かに小鳥遊だが……。小鳥遊より前に茉莉花と婚約を結んでいたのは、俺だ。それに、俺は茉莉花を幼少の頃から知っている。……共通の知り合いの事で大事な話をしている。邪魔をしないでくれ」 「──っ、藤堂本部長と御影専務が婚約を……!?」 驚く志木チーム長に、私は咄嗟に口を開いた。 「御影専務との婚約は、家が決めた婚約だったんです。今の私と小鳥遊さんのような関係ではありません」 「──お互い、恋愛感情が無かったと言う事ですか……?」 私の言葉に、志木チーム長がそう問う。 私は気まずさを感じたけど、正直に答えた。 「……昔は、恋愛感情があったとしても、今はもう私とは何の関係もありません。御影専務の言う通り、確かに幼少の頃からある程度の交流はありましたが、それだけです」 「……だそうですが、御影専務。……藤堂本部長とお話が必要なのであれば、婚約者の小鳥遊部長を交えてお話をした方がいいと思います。それに、こうしていきなり会社にやって来て、アポもなく本部長に会いに来るのは……」 【非常識ではないか】そう、言いたいのだろう。 だけど、流石にそんな事は志木チーム長も言えず、言葉を濁した。 だけど御影さんは志木チーム長の言いたい言葉を察したのだろう。 屈辱に塗れたような顔で、私から顔を逸らす。 「志木チーム長の提案の通りですね。……速水涼子さんは、私の所に来ていません。それに、今は仕事中ですから……彼女について話したい事がまだあるのでしたら、仕事が終わったら。苓さんを交えてお話を聞きます。それでいいですか、御影専務?」 私が真っ直ぐ御影さんを見上げると、御影さんは少し不服そうにしていたけど、渋々といった体で頷いた。 ◇ 御影さんが部屋から出て行ったあと。 私は志木チーム長にお礼を伝えて、彼と少し仕事の打ち合わせをした。 そして、志木チーム長も本部長室から出て行っ
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274話

私は苓さんに軽く事情を説明する文章を打ち、送信した。 それから暫く苓さんから連絡は来なかった。 彼も、私と同様暫く会社に出社出来ていなかったからやらなくてはいけない仕事が大量にあるのだろう。 だけど、数時間もしたら苓さんからメールの返信が返ってきて。 夕方、御影さんと会う時に苓さんも同席してくれる事になった。 ◇ 「──茉莉花さん!」 「苓さん。忙しいのにごめんなさい」 夜。 仕事終わりに駐車場に向かう。 すると、迎えに来てくれていた苓さんが車の外で待っていてくれていた。 私がエレベーターから降りてくると、苓さんが軽く手を上げて私に声をかけてくれる。 私が苓さんに駆け寄りながらそう言葉をかけると、苓さんは笑顔のまま助手席のドアを開けてくれた。 「気にしないでください。茉莉花さんと会うだけで俺の疲れが吹き飛ぶので」 そんな風に冗談めかして笑う苓さんに、私もくすくすと笑ってしまう。 「もう……苓さんはそんな冗談ばかり」 「本当ですよ?1日の終わりに茉莉花さんと会えて話せれば、その日の疲れなんてなくなりますから」 「ふふふっ、それでしたら今日は家に泊まりますか?」 「本当ですか!?是非!」 嬉しそうに笑う苓さん。 私がシートベルトをしめると、苓さんは車のエンジンをかけてアクセルを踏んだ。 御影さんとの待ち合わせは、高級料亭だった。 都内でも評判が良く、味も保証されていて何より完全個室。 防音完備もしっかりしていて、良く商談や一部の噂では政府関係者も利用している、と聞いた事がある。 つまるところ──。 「この店か……。密談にぴったりだ」 私の隣にいる苓さんが不意に呟く声が聞こえる。 苓さんの言う通りだ。 密談をするのにも、密会をするのにも。とても適した場所──。 そんな場所に私と苓さんを呼び出すなんて。 御影さんも、あまり外に漏らしたくない話をしたい、と言う事なのだろう。 私たちは御影さんの名前を出すと、店の者に案内された。 「お連れ様がこちらのお部屋でお待ちです」 「ありがとうございます」 部屋の前まで案内してくれた店の店員にお礼を伝え、部屋の扉を開く。 すると、そこには既に御影さんが座って待っていて。 私たちが来た事に気付き、顔を上げると私の顔を見た後、苓さんに視線を移してあからさまに不機嫌そう
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275話

御影さんの向かい側に座った私と苓さん。 彼はコース料理を予約していたのだろう、私たちが席に着いて少し。 すぐに前菜が運ばれて来た。 「食事をしながら、話をしよう」 「……分かりました」 御影さんの言葉に、私と苓さんはお互い顔を見合せてから答えた。 静かな部屋に、落ち着いた御影さんの声がぽつりと落ちた。 「藤堂会長の容態が回復して来ている、とニュースで見た。回復して良かったな」 「──ありがとうございます。先日は、わざわざ病院までお見舞いに来て下さりありがとうございました。後日、改めて藤堂 帝熾よりお礼状をお送りさせていただきますね」 「ははっ、随分と他人事だ……」 御影さんは、私の返答に乾いた笑いを零し、じっとこちら──私を見つめる。 その瞳には、先日と同じような熱が籠っており、私は居心地の悪さを感じて身動ぎする。 「……御影専務。それで、速水 涼子さんが姿を見せない、とは一体どう言う事でしょうか?」 私が居心地の悪さを感じていると、すかさず苓さんが彼に話しかける。 御影さんは冷たい目を苓さんに向けると、口を開いた。 「あの日。病院の駐車場で別れた日だ。あの後、俺と涼子はそのまま新幹線に乗り、戻ってきた」 御影さんは、ワイングラスに注がれたワインをぐっと嚥下した後、グラスをテーブルに置き私たちを見る。 「その後からだ。涼子はいつも……俺の会社に来ていた。……毎日のように」 「ええ、それで?」 「それが、あの日を境にぱたりと来なくなった。連絡を送っても返信は翌日など、だ。本人は忙しくて、と言っているが……」 「涼子が忙しいと言っているなら、それは本当なのではないでしょうか?」 私の言葉に、御影さんは納得いっていないように首を横に振った。 そして御影さんは苓さんに顔を向けた。 「小鳥遊は、1度うちの会社で涼子を見ているだろう?打ち合わせに参加したあの日から、涼子は本格的に建築の勉強を始めて……正式に御影ホールディングスに入社した」 苓さんが以前、御影さんの会社で涼子と会った事は聞いていた。 だけど、その後御影さんが涼子を正式雇用し、涼子が御影ホールディングスに勤めていた事は知らなかった事実だ。 「じゃあ……涼子は無断欠勤している、と言う事ですか?」 私の問いに、御影さんは深く頷く。 「ああ。タイミングがタイミン
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276話

その笑みは、まるで何かを悔いているような──。 複雑な感情が渦巻いているように感じて、私は食事の手を止めた。 「もう茉莉花も、小鳥遊も分かっているんだろう?」 御影さんがひたり、と私たちを見据える。 「涼子ら昔から茉莉花に対して恨みのような感情を抱いていた事に気付いているはずだ。どうして涼子はあそこまで茉莉花に恨みを募らせている?調べはついているんだろう?それに、もしかしたら今回の事故も──」 御影さんが堰を切ったように言葉を紡ぐ。 彼も、長年涼子の演技に騙されていたと気づいたのかもしれない。 僅かな違和感から、御影さんが自分自身でその事に気付いたのだとしたら。 最近、私への態度が軟化した事も頷ける。 だけど、涼子に騙されていたとは言っても。 過去は無くならない。 御影さんが私に対してずっと冷たい態度を取っていた事は紛れもない事実だ。 御影さんが悔やんでいたとしても、それはもう過ぎ去った過去でしかないのだから。 ──ピリリリ と、御影さんが最後まで言葉を紡ぐ前に。 テーブルに置いてあった苓さんのスマホが電話の着信を知らせた。 「──っ」 電話の着信音によって御影さんの言葉は止まり、苓さんはスマホを手に取る。 そして、画面を見た苓さんはそこに表示されている名前を見て驚いたように目を見開いた。 「茉莉花さん」 「えっ?──っ!?」 苓さんがスマホの画面を私に見せる。 すると、そこには見知った名前が表示されていて──。 【谷島 隼人】 その人からの着信を知らせていた。 「すみません、御影専務。我々は少しだけ席を外します」 苓さんはそう言うなり、私の腕を取って個室を出る。 「お、おい──!」 後ろで御影さんの呼び止めるような声が聞こえたけど、苓さんは構わずにそのまま歩いて行く。 廊下を歩きながら苓さんは着信に応答し、スマホを耳に当てた。 「もしもし、少しだけ待ってくれ。場所を移動する」 言葉少なにそれだけを言うと、苓さんは廊下の先に店員を見つけて手近の個室を数分だけ利用したい、と告げた。 すぐに了承を得て、苓さんと一緒に他の個室に入ると、苓さんは私にも聞こえるように手招きをしつつ、谷島さんの電話に応答した。 「すまない、今外にいて。場所を移動したからもう大丈夫だ。何か分かったか?」 〈ああ。もしかして藤
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277話

「身柄を引き取りに行くのか!?」 苓さんの驚いたような言葉に、私はびっくりして彼を見上げる。 苓さんは申し訳なさそうに苦笑すると、電話の向こうにいる谷島さんに「少し待っててくれ」と断ってから私に説明してくれた。 「茉莉花さん。あのリストに載っていた人物が空港に現れたようです。海外に渡航しようとしてたみたいで……身柄を拘束したらしいので、今から谷島達がその人を引き取りに行くみたいです」 「本当に海外に行こうとしてた人が……!?」 「ええ。お祖父様の事故からそんなに日も経っていないのに国内から出て行こうとするなんて、あからさまに怪しいです。その人物を知っているかどうか……顔を見て欲しいと谷島から伝言です」 顔を──。 苓さんの言葉に、確かに顔の確認は必要だと頷いた。 「……では、谷島さんの待つ空港に向かわないといけませんね。御影さんに帰る事を伝えに行きましょう、苓さん」 私が苓さんの手を取って歩き出すと、苓さんも「そうしましょう」と言って私に続いて一時的に借りていた部屋を出た──。 私と苓さんが御影さんの待つ個室にやって来ると、御影さんは待ちくたびれたような様子だった。 私たちが戻ってくると、若干苛立ちを滲ませつつ声をかけてくる。 「随分長い電話だったな」 「ええ、大事な連絡が入っていたんです。……御影さん。私と苓さんは大事な用事が出来てしまいました。なので、申し訳ないですが私たち2人はここで失礼します」 「──何だと?」 私たちが帰り支度をしていると、御影さんが慌てたように席を立ち、私に近付いて来る。 「涼子の件はまだ終わっていないだろう?何をそんなに急いで帰ろうとしている?」 「──涼子の件より、今は大事な用事があるんです。もし、彼女の足取りが掴めたら知らせます。今日は、すみません」 行きましょう、苓さん。 私がそう言って苓さんの手を取ると、慌てて御影さんが私の腕を掴もうとした。 「──茉莉花!」 「御影専務。本当に大事な用なんです。この事件に関連する用事です。大事な用だと、分かりますよね?」 私を掴もうとした御影さんに苓さんが冷たく言い放つ。 苓さんの言葉を聞いた御影さんは、驚いたように目を見開いた。 「──それは、本当か?」 御影さんは私に答えを求めるように視線を向けた。 だけど、今は急いで空港に向かわなく
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278話

◇ 一方その頃、空港内。 速水 涼子は、自分の視線の先で出国ゲートを通過する寸前に止められ、捕まった男を見て驚きに目を見開いていた。 「嘘でしょう?もう手が回っているの……?」 これじゃあ、海外であの男を始末する事も出来なくなってしまった。 「──警察に捕まって、喋られたら厄介よ……どうしよう……」 涼子は悩み、必死に解決策がないかと考えたがどうにも良い案が浮かばない。 そこで涼子は自分1人で解決するのを諦め、スマホを取り出した。 慣れたように人物の名前を呼び出し、電話をかける。 暫しして電話が繋がり、相手が涼子の名前を呼ぶ。 「もしもし、お母さん?」 〈ええ、どうしたの涼子〉 「ごめん、少ししくっちゃったみたい。空港で例の男が捕まっちゃった。出国は出来なさそう」 〈──焦る事はないわ、大丈夫。警察に知り合いがいるの。どうにかして国外に出せるように手配するわ〉 「本当!?お母さんに警察の知り合いが居たなんて初耳だわ。どうしてもっと早くに教えてくれなかったの?」 〈警察の知り合いがいると知っていたら、もっと杜撰な計画になっていたかもしれないでしょ?奥の手は黙っておいた方が良いと判断したからよ〉 「──もう。お母さんは実の娘ですら信用してくれないんだから……」 涼子の言葉に、彼女の母親は小さく笑い声を返すだけだ。 特に弁解する事もなく、涼子の母親は淡々と続けた。 〈涼子、あなたも早く空港を離れなさい。下手に残って関わりを疑われても面倒だわ〉 「ええ、分かったわ。そうする」 そう告げて電話を切った涼子は、スマホを鞄にしまい歩き始める。 母親の言う通り、あまり長居していたら変に疑われてしまう。 カメラの死角に入って行動はしているが、いくつかのカメラには涼子の姿はきっと映っているだう。 全てのカメラに映らないと言うのは難しい。 涼子は焦らず、ゆっくりと空港を後にする。 わざと人の多い場所を選び、歩いて行く。 すると、涼子の視線の先で警察車両らしき車が到着するのが見えた。 車から降りて来たのは、恐らく刑事だ。 (あの人達は多分刑事……警察関係者ね。見つからないように離れよう) そう判断した涼子は、人並みに隠れつつ空港内を後にした。 ◇ 空港に到着した谷島は、リストに載っている男を拘束している部屋へと向かって走っ
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279話

◇ 私と苓さんが空港に到着したのは、それから暫く経ってからだった。 空港のロータリーに車を停め、苓さんは手配していた運転手に車を任せた。 「──茉莉花に、苓くんじゃないか!2人も来たのか!?」 私たちの後ろから、お父様の声が聞こえる。 お父様の背後には、しっかりとボディーガードの姿もある。 「藤堂社長」 「谷島刑事から連絡があってな……。お祖父様に危害を加えた可能性がある人物を空港で拘束した、と……」 「ええ、そうみたいです。私の元にも谷島から連絡がありました。社長もこちらに来る事が出来たのですね」 「うむ。ちょうど仕事が一段落ついてな」 そこで1度言葉を切ったお父様は、私に視線を向けて続ける。 「茉莉花、一緒に来て大丈夫か?もしかしたら、お祖父様をあんな目に遭わせた張本人かもしれん……」 私の心情を心配してそう聞いてくれるお父様。 私はしっかりお父様に視線を向け、強く頷いた。 「はい、大丈夫です。お父様も、苓さんも傍に着いていてくださりますもの。これ程心強い事はありません」 私の言葉に、お父様も苓さんも嬉しそうに顔を綻ばせた。 ◇ 空港内に入った私たち。 谷島さんから言われていた場所に向かっていた。 部屋の外には、以前病院に来て下さった刑事の方も居て。 私たちの顔を見るなり、声を上げてこちらに向かってきてくれた。 「藤堂さんに、小鳥遊さんですね。お待ちしておりました」 ご案内いたします。 そう告げて部屋に入って行く刑事に続く。 部屋はこじんまりとしていて。 その部屋には谷島さんが待っていた。 「藤堂さん……!それに、小鳥遊も……!」 「谷島刑事。連絡をいただきありがとうございます」 「いえ。来ていただいて助かりました。犯人と思われる男を拘束しております。顔を確認出来ますか?」 谷島さんはお父様と私に向かってそう問いかける。 顔を、見る──。 もし、知っている人だったら。 藤堂グループで働いている人だったら。 不安が、私の胸にのしかかる。 そんな私に気付いたお父様が、茉莉花と声をかけてくださった。 「知っている顔があるかもしれない。もしそうだったら、辛いだろう……?不安なら、私1人で──」 「いいえ、お父様。もしそうだとしても、私は藤堂の家の一員です。もし、今捕まっている人が本当に犯人だった
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280話

扉が開き、隣の部屋が見える。 中には、マジックミラーの向こう側に2人の人間が座っていた。 小さなテーブルを挟んでお互い向かい合うように座り、1人は谷島さんと同じようなスーツを着ているから刑事の方だろうか。 そして、その刑事の方の向かいにその人物は居た──。 お世辞にも、綺麗な服とは言えない。 汚れた衣服を見に纏い、無精髭を生やした中年の男性が項垂れるようにパイプ椅子に座っていた。 その顔は、痩せこけていて。 目も窪んでいて。 「──っ」 私には、見覚えのない人物、だ。 私は隣に居るお父様をちらりと見上げた。 お父様は目を細め、暫く無言でいたけどゆっくりと首を横に振り、答えた。 「……見覚えのない男だな。少なくともうちの系列グループに勤めている人間じゃない」 はっきりと答えるお父様。 そして、お父様は私に視線を向けた。 「茉莉花も見覚えはないだろう?」 「ええ、そうですね。私も社内で見た覚えはありません」 私とお父様。 2人の回答を聞いた谷島さんは、少しだけ肩を落としたような様子で「そうですか」と呟く。 「小鳥遊も……見覚えはないだろう?」 そして、苓さんにも声をかけた。 けど、苓さんも谷島さんの問いかけに頷いた。 「ああ。役に立てなくてすまないな、谷島」 「いや、いいんだ。藤堂さんもご協力ありがとうございます。藤堂グループには勤務していないようですね。それでは、複数ある取引会社の中の一員でしょう。個人情報は抑えているので、数日以内に勤務先は割れると思います」 「ありがとうございます。どの勤務先に務めているか分かったらご一報ください」 「ええ、必ず。ご協力ありがとうございました。お帰りいただいて大丈夫ですよ」 確認が済んだからだろう。 谷島さんに促されて私たちは部屋を退出した。 空港内を、お父様や苓さんと一緒に歩いていると、お父様のスマホが着信を知らせる。 「──何だ?こんな時間に一体誰だ?」 お父様は不思議そうに呟きつつ、電話に出た。 いくつか言葉を交わして行くうちに、お父様の表情が見る見るうちに変わって行く。 目は輝き、嬉しそうな表情──。 そんな表情をするお父様を見るのは、凄く久しぶりで──。 「ええ、ありがとうございます。よろしくお願いします」 そう言って電話を切ったお父様は、笑顔を浮か
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