All Chapters of あなたの「愛してる」なんてもういらない: Chapter 281 - Chapter 290

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281話

「ああ、良かった……。これでお祖父様も自宅で安心して治療に専念出来るな」 「ええ、お父様!本当に良かったです」 「明日は私がお祖父様を迎えに行って、自宅まで帰って来るよ。茉莉花は明日、苓くんと店舗の視察だろう?」 お父様の言葉に、私と苓さんは顔を見合わせて頷いた。 「ええ、どうしても明日しか空いていないそうで……」 「こちらの事は気にするな。仕事が終わって、明日お祖父様が戻って来たら皆で夕食にしよう。苓くんも良ければ明日、我が家に夕食を食べに来ないか?」 お父様にそう誘われた苓さんは、嬉しそうに笑みを浮かべて頷いた。 「お誘いありがとうございます。是非ご一緒させてください」 「ああ、そうしよう。そうだ、苓くん。今日は茉莉花を連れて来てくれてありがとう。助かったよ。帰りは茉莉花は私の車に乗せて行くから、君も自宅に帰りなさい。疲れただろう?」 「お気遣いありがとうございます。では、私はここで……。茉莉花さん、また明日」 笑顔の苓さんにそう言われ、私も笑みを浮かべて頷き返した。 「ええ、苓さんまた明日。よろしくお願いしますね」 苓さんに軽く手を振って、私たちはそこで別れた。 お祖父様が明日、戻ってこられるかもしれない──。 いや、きっと問題なく戻ってこれるだろう。 その知らせがとても嬉しくて嬉しくて。 私はお父様とその話をしながら空港を出て、車に乗り込んだ。 ──浮かれすぎていたのかもしれない。 だから、私は空港に来る前に御影さんから聞いていた言葉をすっかり忘れてしまっていた。 涼子が行方をくらませている、なんて事。 頭の中からすっかりと抜け落ちてしまっていた──。 ◇ 翌日。 私は会社に出社し、午前中は社内で仕事をして、午後は苓さんと待ち合わせをして和風庭園カフェの視察に向かう予定だ。 今日、向かうカフェは本格的な庭園カフェ。 ただ、お店のオーナーがカフェ事業にあまり力を入れておらず、開店は気まぐれだった。 お話を伺いたい、と何度か連絡をしていて。 そして、今回やっと実際にお会い出来る事になったのだ。 建築に詳しい苓さんと一緒にお店にお邪魔し、店舗内装やカフェのメニューなどのお話を聞かせてもらえる。 それがとても楽しみで──。 私は、午前中の仕事を速やかに終わらせ、苓さんとの待ち合わせ場所に向かった。 ◇
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282話

「えっ、でも──」 戸惑う苓さんに、私はするりと運転席に乗り込み、シートベルトを装着する。 「苓さん、今日の店舗凄く楽しみにされていましたよね?色々と質問したい事もあると思います。ぜひゆっくり質問内容を考えてください」 私が笑いながらそう言うと、苓さんは迷ったように視線を動かした後、笑って頷いてくれた。 「バレてしまっていたんですね……。確かに本当に楽しみにしていたんです。お言葉に甘えて……行きは茉莉花さんにお任せします。帰りは俺に運転させて下さいね」 「ふふ。じゃあ、帰りはお願いします」 そうして、苓さんも助手席に乗り込み私たちは会社を出発してカフェへ走り出した。 ◇ 郊外にあるカフェに到着したのは、それから約小1時間程車を走らせた後。 目的地に到着した私と苓さんは、目の前にある和風庭園カフェに感嘆のため息を零した。 「凄い……庭園が見事ですね……!」 カフェに入る前から見渡せる和風庭園。 生垣が低く剪定されていて、視界が開けている。 道路からも和風庭園を臨む事が出来て、興味を持った人が入りやすいよう、カフェの外観はありふれた日本家屋の玄関のような造りだった。 玄関の横にはここがカフェだとひと目でわかるようにメニュー表が置かれており、私と苓さんはまずカフェのメニューを見に近付いた。 「軽食から……しっかりとした和膳までありますね……!」 「ええ。甘味も豊富です」 私の言葉に、苓さんも楽しそうに言葉を返す。 私たちがお店の前でメニューを見ていると、私たちが居る事に気付いたのだろう。 お店から1人の女性店員さんが出て来て、出迎えてくれた。 「いらっしゃいませ。もしかして、藤堂さんですか?」 「──は、はいそうです!すみません、素敵なメニュー内容だったのでついつい夢中で見てしまいました!」 「ふふふ、ありがとうございます。どうぞ中にお入りください」 私たちを出迎えてくれた女性は、歳の頃は40代半ばほど、だろうか。 にこりと優しい笑みを浮かべて視察に来た私と苓さんを店内に迎え入れてくれる。 「主人──店主がこの先に。ぜひ色々話を聞いてやってください」 「──ありがとうございます!」 女性──店主の奥様は、私と苓さんをお店の控え室だろうか。 その場所まで案内して下さると、頭を下げてその場を後にした。 私と苓さんは
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283話

控え室に入ると、先程案内してくれた女性とそう変わらない歳の男性が座っていた椅子から立ち上がった。 「ようこそ。どうぞお座り下さい」 「ありがとうございます。失礼します」 私と苓さんは店主に促されるまま座り、そして仕事の話を始めた──。 ◇ 仕事の話をしていると、時間はあっという間に過ぎた。 午後にこのカフェにやって来たけど、空はもう既に茜色に染まっている──。 「すみません!長くお時間をちょうだいしてしまって……!」 「ああ、いや構いませんよ。色々なお話を聞けて新鮮でした。新規事業……大変かと思いますが頑張ってくださいね」 店主はそう言葉にすると、柔らかな笑みを浮かべて手を差し出してくれる。 最初にお会いした時よりも表情が柔らかく、親しみを持って笑いかけてくれていた。 たった数時間だったけど、色々とお話する内に随分店主の方とも打ち解けられたからだろうか。 特に、庭園については苓さんと店主の男性はとても意気投合していて。 色々と専門的な単語が2人の間で飛び交っていた。 「ありがとうございます!本日は貴重なお話を沢山聞けて実りある1日でした。次回はぜひ一お客として訪問させてください」 「ええ、お待ちしておりますよ!」 私と苓さんは笑顔の店主と奥様に見送られ、カフェを後にした。 私たちが帰る時も、お2人は手を振って見送ってくださっていて。 とても温かなお2人だ、と今日の視察が大成功に終わった事を実感する。 私と苓さんは車に乗り込む。 帰りの運転は苓さんが担当してくれて。 シートベルトを締めつつ、苓さんが楽しそうに言葉を発した。 「お話を聞いている途中、庭園も案内してもらいましたが、素晴らしい庭園でしたね」 「ええ、本当に!やっぱり実際にこの目で庭園を見ると、こんな風に素敵なカフェを早くオープンさせたいって気持ちになりますね!」 帰宅途中、私たちの会話はとても弾んでいた。 苓さんとどんなお店を作りたい、だとか。 こんな風な内装はどうだろう?とか話し合うのも楽しくて。 少しして、私は鞄に入れっぱなしにしていたスマホを思い出す。 そうだ──。 今日は、家に帰ったらもうお祖父様がいらっしゃる。 「──苓さん!今日お祖父様が退院していると思うので、家に寄って行きますか?」 私は鞄からスマホを取り出しつつ、苓さんに話し
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284話

「茉莉花さん!?どうしたんですか!?」 運転をしていた苓さんが、ぎょっとして私の名前を呼ぶ。 だけど、私は苓さんの声も自分の名前を呼ぶのも聞こえていたけど、動けなくて。 電話で言われた言葉が頭の中をぐるぐると回っていて、何も考える事が出来ない。 「──ちょっと待ってて下さい、路肩に寄せます……!」 苓さんはそう言うなり、道路の端に車を寄せるとエンジンを切った。 そしてシートベルトを外して私の顔を見た苓さんの、ひゅっと息を飲む音が聞こえた。 「顔が真っ青だ……。茉莉花さん、何が──」 苓さんが心配そうに私の頬に手を添えてくれた。 そして、私が落としたスマホがまだ通話中な事に気が付いたのだろう。 苓さんは私の足元からスマホを拾い、私に向かって「俺が出ますよ?いいですね?」と聞く。 私は今にも涙が溢れ出してしまいそうで。 じわじわと滲む視界を何とか耐えながら頷く事で精一杯で。 「もしもし、お電話変わりました──」 苓さんが私のスマホを耳に当て、代わりに電話の対応をしてくれる。 私が泣いてしまいそうになっていると、苓さんの優しい腕が伸びて来て。 そっと私を引き寄せてくれた。 車の中だから、少し動きにくいけど。 だけど、苓さんは精一杯私に体を寄せてくれていて。 私も、苓さんに引き寄せられるまま苓さんに抱きついた。 ぎゅうっと苓さんに抱きつくと、苓さんが優しく頭を撫でてくれて。 それまで我慢していた涙が決壊したように、ボロボロと零れ落ちる。 「──はい。はい……っ、分かり、ました……。すぐに向かいます」 苓さんも、話を聞いたのだろう。 声が硬く、動揺するように揺れていた。 私を抱きしめてくれる腕にも力が入る。 「失礼、します……」 最後にそう告げて、電話を切る苓さん。 スマホを持っていた苓さんの腕も、力が抜けたようにぱたりと落ちて。 「茉莉花さん……」 呆然とした苓さんが、私の名前を呟く。 私はその時、声を押し殺す事に必死で。 今、声を漏らしてしまったら叫んでしまいそうだから。 どうしてこんな事になったの、と叫んでしまいそう。 呆然としていた苓さんは、数十秒程経ってからようやく力を取り戻したように両腕で私を抱きしめてくれた。 「茉莉花さん、お祖父様の所に行きましょう……。今は警察病院にいらっしゃる、そうで
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285話

苓さんに半ば抱えられるようにして、走る。 私たちは警察病院にやって来ていた。 慌てた様子で走る苓さんと、苓さんに連れられている私。 私の足からは嘘のように力が抜けてしまっていて。 嘘だと、思いたかった。 そんな事はない、と。 勘違いだと、思いたかった。 それなのに──。 「──小鳥遊、こっちだ!」 「谷島……!」 どこかで刑事の谷島さんの声が聞こえる。 苓さんは谷島さんの声に促され、そちらの方向に向かって行った。 「藤堂さん……。お父様も、先ほど到着されました……。どうぞ、中に……」 「は、はい──」 谷島さんに促された場所。 そこは、病室でも何でもなくて。 部屋に掛けられたプレートには「霊安室」と書かれていた。 ああ、間に合わなかったんだ。 どこかで冷静な私が、そう呟く。 「……茉莉花さん、1人で歩けますか?」 「大丈夫、です……。お祖父様にお会いしてきます……」 ぼろぼろと涙を零しつつ、苓さんに言葉を返す。 部屋に入る寸前まで苓さんが支えてくれていて──。 苓さんの手が離れてしまった瞬間、私の体は力を失ったようにふらふらと揺れてしまう。 だけど、すぐ近くにお父様が居て。 お父様が目元を真っ赤に腫らして、私の名前を呼んだのが分かった。 ◇ 茉莉花さんが部屋に入って行くのを見届けた後。 俺はすぐに傍に立っていた谷島につかつかと詰め寄った。 「谷島……!一体どう言う事だ!!どうして、こんな事に……っ、どうして茉莉花さんのお祖父様が……っ!」 ──命を落とさなければならないのか。 谷島は、俺に胸ぐらを掴まれたまま悔しそうに苦しそうに表情を歪め、謝罪を口にした。 「すまない……。藤堂 帝熾さんが狙われていたのは分かっていた。それなのに、守りきる事が出来なかった……」 「どうしてこうなった……!?お祖父様は今日、茉莉花さんのお父様と一緒に退院する予定だったんだろう!?それなのに、どうして……っ」 そうだ。 社長が、迎えに行くと聞いていた。 それを思い出した俺は、ハッとして背後の霊安室を振り返る。 「──社長は!お怪我は無いのか!?」 社長と会長が一緒の車に乗っていたなら。 【交通事故】に遭った会長が、命を落としてしまった
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286話

◇ 「お祖父様……?」 「茉莉花……」 私は、部屋に入りお祖父様を呼ぶ。 足に力が入らなくて。 すぐ近くからお父様の声が聞こえて、私は声が聞こえた方に顔を向けた。 すると、私のすぐ近くにお父様は立っていた。 まるで壁に寄りかかるようにして、力なく立ち尽くしていたお父様は、私がふらふらとしていると、慌てて私の体を支えてくれた。 「すまない、茉莉花……私が……私が迎えに行けていれば……」 お父様は目を真っ赤にしていて。 目元は赤く腫れている。 泣き腫らしたような跡に見える。 そんなお父様を見て、私は支えられたままお祖父様の方を見る。 お父様がこんな風になるって事は、やっぱりこれは現実で。 「嘘、でしょう……?どうしてお祖父様が……だって、病院の方が車を手配してくれた、のに……」 「すまない茉莉花。全部私が悪い……っ、私が仕事を優先せずにお祖父様の迎えに行っていれば……」 「お父様、お父様……っ、どうしてお祖父様が死ななきゃいけないんですか……っ!どうしてお祖父様がこんな目に遭わなきゃいけないんですか!」 もう、めちゃくちゃだ。 私自身、自分が何を言いたいのか分からない。 頭の中がぐちゃぐちゃになってしまって。 お父様が必死に私を支えてくれているけど、私の視界はぐらぐらと揺れていて。 「お祖父様……、お祖父様のお顔が見たい……っ」 「茉莉花……、私が支えるから……、1人で歩くな……っ」 お父様に支えられながらお祖父様の元に向かう。 足元がぐにゃぐにゃで、ちゃんと床を歩いているのかどうかすら分からない。 簡素なベッドに横になっている人──。 白い布が掛けられていて、顔は分からない。 それなのに、何となく分かってしまう。 目の前で、冷たいベッドに寝かされているのはお祖父様だって──。 「お祖父様……っ」 私は泣きながらお祖父様のお顔にかかっている白い布を取った。 交通事故に遭ってしまったからだろうか。 お祖父様のお顔には所々擦り傷があるのが分かって。 目は瞑っているけど、だけどその怪我以外では大きな外傷があるようには見えなかった。 ただ眠っているだけで、少ししたら目を覚まして動き出しそうな程、綺麗な寝顔で──。 「──っ、つめたいっ」 お祖父様のお顔に手を触れた瞬間。 体温を感じなかった。 どれだ
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287話

◇ 「──?」 頭がぼんやりとしている。 だけど頭がズキズキと痛くて。 私はゆっくりと目を開けた。 「……?」 だけど、視界に映るのは真っ白な何か。 次第に焦点が合ってくると、真っ白な何かは天井だというのが分かった。 そして、次に見えたのは私の腕から伸びている点滴のチューブ。 「あれ、私……」 ぽつり、と零した声が驚く程掠れていて。 思わず噎せてしまった。 「──茉莉花さん!?良かった、目が覚めましたか!?」 「苓さん……?」 「はい。俺はここに居ますよ」 ふ、と視界に苓さんの顔が映った。 疲労感たっぷりの苓さんの顔に、私は驚いてしまう。 寝てもいないのだろうか。 目の下にはくっきりと黒い隈が刻まれていて──。 「水を……飲めますか?」 「お水……飲みたいです……」 起き上がろうとしたけど、上手く体に力が入らなくて。 そんな私の状態を見て、苓さんは「無理をして起きなくていいですよ」と言ってくれた。 水差しを私の口元に差し出してくれて、それに口を付けて飲もうとしたんだけど、上手く喉を通らなくて再び噎せてしまう。 「けほっ、けほっ!」 「すみません、茉莉花さん!大丈夫ですか!?」 「大丈夫、です……、ごめんなさい」 水さえまともに飲めないなんて。 私が噎せていると、苓さんがペットボトルの水の蓋を開けて、それを口に含んだ。 病院のベッドに手を着いた苓さん。ぎしり、とベッドが音を立てて──。 え、と思っていると苓さんの唇が私のそれに重なった。 「──んっ」 ゆっくり、何度もその行動を繰り返して苓さんが私に水を飲ませてくれる。 ペットボトルの水を3分の1ほど飲んだ頃、ようやくちゃんと声を出す事も出来るようになった。 「苓さん、ありがとうございます……」 「良かった、声の掠れも大分ましになりましたね」 ほっと安堵したような苓さんの表情。 水を飲み、頭もはっきりとしてきた。 そこで私ははっとする。 そうだ。 私はお祖父様のお顔を見て──。 そこで取り乱して、気を失ってしまったのだろう。 「れ、苓さん……!お父様は、お祖父様は……っ」 私の言葉に、苓さんは悲しそうに眉を寄せて、私が倒れた後の事を説明してくれた。 「茉莉花さんが倒れた後……。茉莉花さんのお父様は、今回の交通事故はお祖父様を狙っ
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288話

「茉莉花さん、無理をしないで──」 起き上がろうとした私を、心配した苓さんがベッドに戻ろうとさせる。 だけど、今倒れている場合じゃない。 お祖父様があんなに辛い思いをして、そして命を落としたのだ。 ショックだろうと、悲しかろうと、今はのうのうと眠っている場合じゃない。 「いいえ、大丈夫です。お祖父様の無念を晴らすためには、動かないと。考え続けないといけません」 「……茉莉花さん」 「お祖父様は、病院から藤堂の家に帰宅する途中で交通事故に遭ったと……そうでしたよね?」 本来なら、お父様がお祖父様を迎えに行く予定だった。 だけど、お父様は急に工場に行かなくてはならない事案が発生して、お祖父様の迎えに行く事が出来なかった。 そして、お父様は信用できるのは谷島刑事だけだから、と彼にお祖父様の送り迎えをお願いしようとした──。 けど。 谷島刑事が病院に向かった時には、既にお祖父様は退院済で。 自宅に向かう車の中だった。 その帰宅途中、交通事故に遭い、帰らぬ人になってしまった──。 「……まず、お父様が急に工場に行かなくてはいけないような事案が発生した事自体、おかしいです」 「ええ、俺もそう思います。茉莉花さんのお父様もそう考え、調査を開始しました」 「次に、谷島刑事が来る前に退院をさせてしまった病院側の手続きもおかしいですね……。お祖父様の退院手続きを行った者を探さないと……」 「はい。俺たちは、そちらを当たる事になりそうです」 苓さんの言葉に、私は彼を見返して繰り返した。 「俺、たち──?」 「ええ。谷島と茉莉花さんのお父様は既に今回起きた不可解な部分の調査に当たっています。茉莉花さんの目が覚めたら、お祖父様の退院手続きを行った人物を調べて欲しい、と伝言をいただいています」 お父様が苓さんにそう告げたというのなら。 「お父様はもう、病院を後にしているんですね。それで……速水家を谷島刑事と調査しているのでしょうか?」 涼子の実家──速水家。 きっと、決定的な証拠はすぐには手に入らないだろう。 だけど、確実にあの家──いいえ、今回は涼子が深く関わっているのかもしれない。 先日、御影さんはわざわざ涼子の姿が見えない、と私たちに教えに来てくれたのだから。 「……もしかしたら、チャリティー登山でお祖父様を突き落とした犯人を手
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289話

苓さんに手助けをしてもらい、ベッドから起き上がる。 私たちはまず、病院の入退院受付を担う受付に向かう事にした。 【入退院受付】 そう、プレートが掛けられた受付に向かう。 そして、私と苓さんが受付に立つと奥から1人の女性が出て来た。 40代ほどの女性で、私と苓さんの姿を見るとハッ目を見開いた後、瞳に気遣うような色が乗ったのが分かった。 お祖父様が交通事故で運び込まれた時。 結構な騒ぎになっていたらしい。 藤堂グループの会長だ。 しかも、病院側が手配した車が事故に遭い、退院したばかりの人が亡くなってしまった──。 多くの報道陣の対応にも病院側は追われただろう。 だけど、それでも。 受付の女性は、お祖父様を亡くしたばかりの私たち家族に対して気遣うような態度を見せてくれて。 (こんな風に気遣ってくれる方達を疑うのは……心苦しいわね。だけど、はっきりさせないといけない……) 女性は私に向かって顔を向けると、声をかけてくれた。 「藤堂様ですね?どうなさいました?」 「すみません、1つお伺いしたい事がありまして──」 私は、病院側に不信感を抱いているのがバレてしまわないよう、慎重に言葉を選び彼女に質問した。 「事故に遭った際、病院側が手配してくださった運転手の方……その方も大怪我をされたとうかがいました。その方のご家族にも謝罪をしないと……。運転手配会社は、どちらの会社をお使いになっておりますか?」 「そんな……、運転手の方のご家族にまでご配慮いただいて……。申し訳ございません、藤堂様もお辛い中ですのに……」 「いいえ、当然の事です……」 私が力無く笑って見せると、女性は「少々お待ちください」と告げてパソコンを叩いた。 「──あら、おかしいわね……?」 女性は、不思議そうに首を傾げた。 「どうされました?」 私が声をかけると、女性は申し訳なさそうに笑い、もう1度パソコンを叩く。 「申し訳ございません、不備……が……。ああ、なんて事……」 困ったように言葉を紡ぐ女性に、私も苓さんもぐっと受付に近付いた。 「不備、ですか……?パソコンのエラーでも?私が見ましょうか?」 苓さんが女性に向かってそう告げると、顔を上げた女性は申し訳なさそうに答える。 「いえ、パソコンは大丈夫なのです……正常なのですが……申し訳ございません。運
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290話

「ええ、ええ!勿論でございます……!手配した者はまだ勤務中でございますので、ただ今呼んで参ります!お待ちくださいね!」 受付の女性は、慌てて奥に引き返す。 私は苓さんに顔を向け、ほっとして話しかけた。 「良かったです……その女性、まだ勤務中のようですね」 「ええ。当人に確認を取れば、どの会社を使用したのかが分かります。そうすれば会社を調べ上げて、藤堂会長をあんな目に遭わせた人物まで辿り着けるかも……」 苓さんも私の言葉に頷いてくれた。 これで、手配した病院の人が来てくれさえすれば──。 そう考え、私と苓さんの表情が少しだけ明るく、綻ぶ。 だけどそんな私たちを嘲笑うかのように、先程受付をしてくれた女性が血相を変えて戻ってきた。 「も、申し訳ございません藤堂様……!」 ただならぬ様子に、私と苓さんの表情が一瞬にして曇る。 女性の顔色を見る限り、とても良い状態とは言えなさそうで──。 そんな私の考えを肯定するように、女性は口を開いた。 「手配を担当した者が、病院内のどこにもいないんです……!そのっ、もしかしたら既に帰ってしまったかもしれなくて……!」 「──何ですって!?」 それは、一体どう言う事なのか──。 すかさず、苓さんが女性に言葉を返してくれた。 「その女性はこの病院に務めている方なんですよね?連絡先が分かるはずです。今回の一件は、警察の捜査対象になります。女性の連絡先を教えてくれませんか!?」 「そ、そうしたいのは山々なのですが──」 苓さんの言葉に、受付の女性は戸惑うように表情を曇らせた。 「当病院は、元々入れ替わりが激しく……今回の担当者も他病院からヘルプで呼んだ人員で……」 「なら、その病院の連絡先を!」 苓さんの大きな声が響く。 こんな風に声を荒らげる苓さんは見た事が無い。 それだけ、今この状況がとても良くない事だと分かる。 「その病院の連絡先さえ教えてくだされば、後は私たちが調べます……!病院の名前だけでも構いません、教えてください!」 私の言葉に、受付女性の方は、パニックに陥ったように顔色を真っ青に変え、蚊の鳴くような声で謝罪を口にした。 「た、大変申し訳ございません……その資料も……、全て削除されておりました……っ」 「──何ですって!?」 信じられない言葉に、私も苓さんも言葉を失ってし
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