All Chapters of あなたの「愛してる」なんてもういらない: Chapter 461 - Chapter 470

472 Chapters

461話

「藤堂様」 「──!どうでしたか?」 私の質問に、警備会社の人は表情を緩め、頷いてくれる。 「セキュリティはしっかり作動していますし、施錠もちゃんとされています。母屋より、この家に居た方が暫くは安全でしょう」 「──それは良かったです」 私がほっとして胸を押さえると、苓さんが警備会社の人に話しかける。 「侵入者を検知したとの事でしたが、家の中に入って行くのが分かったのですか?」 苓さんの質問に、警備会社の人は体の向きを変え、苓さんに向き直ると頷いて答えた。 「はい。弊社は防犯カメラを多数設置させていただいております。もちろん裏門にも設置させていただいていて……裏門を乗り越え、藤堂様の母屋に侵入して行く人物を目視で確認しております」 「侵入者は1人、ですか?」 「はい。我々が現場に急行するため、社を出る時までは1人のみです。それ以降、連絡はないので単独犯だと思われます」 「……裕福な家を狙った強盗……、でしょうか?」 苓さんの質問に、警備会社の人は若干言葉に迷いながら答える。 「──いえ、どうもそうは見えなかったのです」 その答えに、私も苓さんも「え?」と疑問の声を上げる。 すると、私たちの疑問に答えてくれた。 「強盗目的ならば、貴金属などを入れる袋や箱を手に持っているはずですし、これほどの敷地に強盗に入るとするなら、単独犯だと考えにくいです」 「なら……我が家に他の目的がある、と考える方が自然ですか?」 「──ええ。それに、侵入者の影は小柄で……恐らく女性だと思います、ので……」 「──!?」 女性、と聞いた私は目を見開く。 苓さんも私と同じ考えに至ったのか、私に顔を向けた。 「茉莉花、もしかしてその侵入者って……!」 「……ええ、もしかしたら速水 涼子、その人かもしれません」 「お2人は、侵入した人物に思い至る人間が?」 警備会社の人に、私が涼子が起こした事件の事を説明しようとした時──。 警備会社の人が持っている無線に知らせが届いた。 「──すみません、少しお待ちください」 手を上げてそう断ると、無線に対応する。 〈侵入者を捕まえた。そちらに連れて行く〉 「分かりました、鍵を開けて待っています」 侵入者捕まった──!? 私と苓さんは勢い良く警備会社の人を見る。 彼はこくり、と頷いてから通信を切
last updateLast Updated : 2026-07-15
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462話

外から、言い合うような騒がしい音が聞こえてくる。 「藤堂様、今から侵入者が入ってきます。絶対に近付かないでくださいね」 「……分かりました。……聞こえてくる声は、女性、ですね……若い女性ですか?」 言い争うような騒がしい声が、外から聞こえる。 男の人の声は、警備会社の人だろう。 そして、叫んでいる声は女性──。 だけど、何て喋っているのか、そこまでは私の耳には分からなかった。 私の問いに、警備会社の人は不思議そうにしつつ、口を開く。 「──いえ、侵入者は若い女性ではなく」 その瞬間、玄関が開いて侵入者を捕らえた警備員が入ってきた。 「40代ほどの、中年の女性でした」 「離しなさい、離しなさいよ……!私を捕まえて、どうなるか分かっているの!?」 警備員の人が答えるのと、捕らえられた女性が入ってきたのは同時だった──。 うちに侵入した中年の女性。 その女性には、ある女性の面影がある──。 私には、その女性に見覚えがあった。 お祖父様の書斎にあった、形見。 藤堂の歴史が書かれた日記。 それらに、書かれていた「速水家」の言葉。 やっぱり、藤堂と速水の間には昔何かあったのだ、と分かった。 だから、今の速水家の事を調べたのだ。 現当主、そして涼子の母親。 速水 朱美(はやみ あけみ)の事は、写真を見たから知っている。 だから、うちに侵入した女性が速水家の写真に映っていた「速水 朱美」だと、私はすぐに気が付いた。 「──どうして、速水家の当主夫人が……っ」 私が呟くと、隣にいた苓さんがさっと顔色を変えた。 「──速水、速水と今言いましたか、茉莉花?」 「え、ええ……。写真とは少し……その、容貌が変わっていますが……間違いありません、速水 朱美さんです」 写真に映っていた女性は、柔らかく微笑んでいて若々しかった。 40代後半にしては若々しく、驚いた覚えがある。 だけど今、目の前にいる女性はとてもじゃないけど写真に映っていた女性と同一人物とは思えない。 それほど、やつれて肌はボロボロになり、髪の毛は艶を失っていた──。 だから、苓さんは目の前にいる女性が速水 朱美だと気が付かなかったのかもしれない。 だけど、涼子の面影がある。 だからこそ、私はこの女性が速水 朱美だと分かったのだ。 「──速水、ですか?」 警
last updateLast Updated : 2026-07-19
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463話

私が発した「警察」と言う言葉。 そして、警備員がどこかに無線で連絡を取り始めた。 その光景を見た涼子の母親は、ぎろっと私を鋭く睨んだ──。 「──藤堂の、クソ女!!」 「──ひっ」 速水 朱美はぎょろりと血走った目で私を睨み、口汚い言葉を叫びながら警備員の腕を振り払って私に向かって駆け出した。 無線での連絡に気を取られてしまったからか、警備員の拘束から抜け出してしまったのだ。 「茉莉花!」 私が速水 朱美が駆け寄って来る事に備えていると、すぐに苓さんが動いた。 私を庇うように前に出て、速水 朱美が突き出した腕を払い、手首を掴んで地面に引き倒した。 「だ、大丈夫ですか藤堂様!」 「茉莉花、怪我は!?」 警備員と苓さんから声をかけられ、私は急いで頷いた。 びっくりしたけど、苓さんがすぐに対応してくれたから私に怪我は一切ない。 地面に縫い付けられた速水 朱美は、拘束を解こうともがいている。 だけど、苓さんから代わった警備会社の人がしっかり速水 朱美を拘束してくれた。 「クソアマ!この野郎!離せ!!」 「おいっ、暴れるな!」 「お前の……っ、お前のせいだ!お前達がいるせいでっ、涼子が……っ、私の娘が!!」 速水 朱美は髪の毛を振り乱し、わけの分からない事を叫び続けている。 その様は尋常じゃない。 気が触れてしまったんじゃないか、と思うくらい彼女の様子は常軌を逸している。 「……茉莉花、離れましょう」 「藤堂様、警察がもうすぐ参ります。……今、このお家に藤堂の方は……」 「あ、私だけ、です……」 私の返答に、警備会社の人間は苓さんにちらりと視線を向ける。 彼が藤堂とは無関係だと思われ、帰らされてしまうかもしれない──。 それを危惧した私は、慌てて口を開いた。 「こちら、小鳥遊 苓さんで、私の婚約者です。今回の事件でも、彼は被害に遭っていますから、部外者ではありません」 私の言葉を聞いた警備会社の人間は「そうですか」と納得したように頷いてくれた。 「警察へ通報して下さったんですよね?」 「ええ、住居侵入の現行犯ですから。それに、指名手配犯の身内です。何か情報を持っているかもしれませんから、警察が来て犯人を引き渡した後は警察に対応を任せます」 その説明に、私は苓さんをちらりと見やった。 「苓さん、警察が来るなら
last updateLast Updated : 2026-07-20
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464話

「──小鳥遊、それに藤堂さん!無事だったか、良かった……!」 「谷島」 「谷島さん……!」 藤堂の門を潜り、谷島さんが姿を現すと、現場にいた警察官達にぴりっとした緊張感が走った。 谷島さんは警視庁の人間だ。 エリート中のエリート。 彼の方が身分も上なのだろう。 警察官達が一斉に敬礼をして、谷島さんに報告をしに行く。 速水 朱美は今、住居侵入の現行犯で手錠をかけられ、パトカーの中に居る。 パトカーの方へ顔を向けた谷島さんが警察官と話をした後、私たちの方へ歩いて来てくれた。 「──藤堂さん、災難でしたね。……ですが、速水 涼子の足取りが掴めていない今、彼女の母親を逮捕できた事は捜査の進展に繋がります」 「……良かった、と言うのも変ですが、彼女が侵入したのが今日で逆に良かったです」 私の言葉に、谷島さんは不思議そうに首を傾げる。 そんな彼に、私は説明をした。 今日、家にいるのは私と苓さん。 そして、数人の使用人のみで、お母様は体調を崩してしまい、病院に1日だけ入院している事。 お父様は仕事があり、出張中な事を説明すると、谷島さんは納得したように頷いてくれた。 「──ああ、だからか……なるほど……」 合点がいったようにこくり、と頷いた谷島さんに、今度は私が疑問符を浮かべる。 すると、谷島さんは信じられない事を口にした。 「──驚かないで聞いてくださいね。……どうやら、速水 朱美は藤堂本家の内部……一部の間取りを把握していたようです」 「……一部の間取り……?」 「ええ……。警備員や、彼女をパトカーで取り調べをした警察官がはっきりと聞いています」 「聞いたって……何を……」 何だか嫌な予感を感じて、私の胸は不規則に早鐘を打ち始める。 どうか、私の考えすぎであって欲しい──。 そう願った私だったけど、そんな私の願いは谷島さんが次に放った言葉によって簡単に打ち砕けてしまった。 「……藤堂さん、あなたのお母様……、藤堂 羽累さんの寝室はここじゃなかったの、とずっと呟いているそう、です……」 「──っ!?」 ぞっと、した。 谷島さんが言った言葉。 それを、速水 朱美が言ったのだとしたら。 お母様の寝室に、お部屋に行って、何をするつもりだったの──? 「茉莉花」 私の体が、ふらりとよろめいた。 それをすぐに苓さん
last updateLast Updated : 2026-07-20
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465話

嘘でしょう──。 もし、今日。お母様が家に居たら。 そうしたら、速水 朱美はお母様の部屋に侵入していたって事。 もし、そこでお母様とあの人が鉢合わせをしていたら──。 その場面を想像し、私はぞっとした。 「──茉莉花。今は、中に戻りましょう。家の中はもう安全ですから……それに、今日は一晩中警察が外に控えてくれているそうです」 それに、と苓さんは言葉を続ける。 「護衛も追加で手配しました。だから、家の中の方が安全です」 だから中に入りましょう。 そう促してくれる苓さんに、私は頷いた。 ◇ さっきまで、苓さんと体を繋げていて幸せだったのに。 あの時の幸せとは一変してしまった。 今はもう、怖くてしょうがない。 苓さんがいなかったら、心細くてどうにかなっていたかも──。 そんな時、私を抱きしめてくれていた苓さんが小さく「あっ」と声を出した。 「苓さん?」 私が苓さんに顔を向けると、苓さんはスマホから顔を上げ、画面を私に見せてくれた。 「茉莉花、馨熾さんがすぐに帰って来るそうです」 「──お父様が?だけど、お父様は週明けまで……」 「ええ、出張の予定でしたけど、事情を説明したらすぐに帰ってくると」 苓さんが苦笑いを浮かべているので、どうしたんだろうと思って私が画面を良く見てみると。 そこには信じられない言葉が並んでいた。 「──えっ、チャーター機を……!?」 「……ね。茉莉花と、お母様が心配で文字通り飛んで帰ってくるそうです」 苦笑い混じりに告げる苓さんに、私も苦笑いを返した。 ◇ それから、数時間。 部屋の外が俄に騒がしくなり、私の部屋の扉がノックされたと同時に勢い良く開かれた。 「──茉莉花!!」 「──えっ、お父様!?」 髪の毛を乱し、焦った様子で駆け込んできたお父様に、ソファに座っていた私と苓さんはびっくりしてしまう。 部屋に駆け込んできたお父様は、そのまま私の目の前までやってくると、ソファに座る私の足元にしゃがみ込んで私の手を握った。 「良かった……茉莉花が無事で本当に良かった。苓くんから連絡を貰った時、心臓が止まるかと思った……」 私の無事を確かめるように、お父様は長い溜息を吐き出すと、私の手を額に持って行く。 そして、ぎゅっと私の両手を握り直した後、お父様は苓さんに顔を向けた。 「苓くん
last updateLast Updated : 2026-07-23
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466話

谷島さんから、何か情報を得たのだろうか。 谷島さんはうちに侵入した速水 朱美を署に連行して、取り調べをしているはず。 その取り調べで、彼女が何かを喋ったのだろうか──。 そんな事を考えていると、電話が終わったのだろう。 苓さんは谷島さんとの通話を切り、私とお父様のところに戻ってきた。 だけど──。 苓さんの表情は怒りを必死に抑えているようで。 「苓さん……?谷島さんから何か新しい事を聞いたんですか……?」 私の質問に、苓さんはぐっと眉を寄せ、何か迷っているような表情を浮かべる。 そして1度首を横に振ると、私とお父様に視線を向けて答えた。 「──ええ、少し。……すみません、俺は谷島の方へ合流する事になりました」 「え!?」 「馨熾さんが戻ってきて良かった……馨熾さん、茉莉花をお願いします」 苓さんはそれだけを言うと、私の部屋に置いていた荷物を纏め始めてしまう。 「れ、苓さん……」 まさか、苓さんがこんな時間に行く事になるなんて。 私が苓さんの方へ近付いて行くと、苓さんが振り向く。 「……すみません。本当は明日、お母様を迎えに行く時もご一緒したかったのですが……」 申し訳なさそうに眉を下げ、そう告げる苓さん。 お父様が私の後からやって来て苓さんに向かって話しかける。 「……分かった。谷島刑事が呼んでいるのだろう?彼も、苓くんが必要だと思い呼び出したのだろう。もう遅い。気をつけて行きなさい」 「──ありがとうございます、馨熾さん。用が済んだら戻ってきてもいいですか?」 「ああ、勿論だ。もうこの家は苓くんの家だ。帰ってきなさい」 微笑みつつ頷くお父様。 お父様の言葉を聞いた苓さんは、ほっとしたように笑った。 「ありがとうございます。用事が済んだら戻ります」 「分かった」 簡単に纏めた手荷物を持ち、苓さんが私に顔を向ける。 「すみません、茉莉花。お母様によろしくお伝えください」 「分かりました。外は暗いので、運転気をつけてくださいね?」 「ええ、十分気をつけます」 お父様が部屋にいる手前、苓さんに抱きつく事は出来ないけど、私は苓さんの手を握って言葉をかける。 苓さんも柔らかい笑みを浮かべ、私の手を握り返してくれた。 玄関まで見送ろうとしたのだけど、夜も遅いから、と苓さんはやんわりとそれを断った。 「茉莉花
last updateLast Updated : 2026-07-29
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467話

◇ 茉莉花の部屋を出た途端、俺は自分の表情が抜け落ちたのが分かった。 表情を保つ事すら今は難しい。 それくらい、怒りが胸の中で渦巻いていて。 谷島からの連絡を受けた時、怒りに任せて怒鳴らなかった自分を褒めてやりたい気分だった。 まさか、そんな事までしているとは思わなかったんだ。 茉莉花のスケジュールを把握した、あの時だけだと思っていた。 だが、あの時、あの男が口にした言葉を思えばこうなる事も予測出来たかもしれない──。 あの男──御影 直寛は、茉莉花が手に入らないなら死んでも構わないと言ったのだ。 自分の物にならないなら、そうなってもいい、と。 あの時の事を思い出して、俺は自然と拳を握る。 手に入らないから。 自分の物にならないから、茉莉花を手にかけようと? しかも、その手助けをしようとする……? どんな思考回路をしているんだ。 電話越しに、谷島が話した言葉がぐるぐると頭の中を巡る。 【速水 朱美は、御影家の息子から藤堂家の間取りを買ったそうだ。御影 直寛。あの男が、情報を売った】 あの男は、どれだけ茉莉花を苦しめる。 「──茉莉花を遠ざけたのはお前だろう!?」 速水 涼子に騙され、茉莉花を邪険に扱っていたくせに。 速水 涼子に騙されていた事に気が付き、茉莉花に謝罪するならまだしも、自分の物にしようとして。 そして、それが叶わないなら茉莉花を──。 「傲慢過ぎる……!いい加減にしろ……!」 俺は、乗り込んだ車のハンドルを思い切り殴り付けた。 このままだと、怒りに任せて俺があの男に何かしてしまいそうだ。 車のシートに深く腰掛け、何度も深呼吸をする。 落ち着け、落ち着けと何度も何度も自分に言い聞かせる。 そんな事をしたって、何の解決もしない。 むしろ、俺が手を下せば、茉莉花が悲しむ。 御影 直寛の事を殺してやりたいほど憎いが、怒りに我を忘れたらいけない。 「茉莉花が、悲しむ……」 何度も深呼吸をして感情の昂りを抑える。 ようやく落ち着いて来た頃、俺はシートベルトをしめて車のエンジンをかけた。 ◇ 車を走らせ、向かった先は谷島との待ち合わせをしている警察署。 俺が到着すると、既に谷島は外で捜査班と待機していた。 俺の車が到着するのを見るなり、谷島がこちらに向かって歩いてくる。 窓を軽くノックされ
last updateLast Updated : 2026-07-29
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468話

谷島の運転する車に乗りこみ、車が走り出して少し。 ハンドルを握ったまま、谷島が口を開く。 「……あまり暴れるなよ。お前を同行させたのは俺の独断だ。問題を起こされると、こちらで対処し切れないからな」 「……なるべく気をつける」 「気をつけるって、お前なぁ……。いや、気持ちは分かる。婚約者の家の情報を、犯罪者に渡されていたんだ。お前の憤りは十分分かる、だからこそ、逮捕する瞬間に立ち会わせるんだ。……頼むからこっちで庇いきれないほどの事をしでかすなよ?」 「……気をつける」 俺の返答を聞き、谷島は呆れたように息を吐き出す。 早まったかもなぁ、とぼやく谷島の声が聞こえたが、俺はその言葉には何も返さず、窓の外をじっと眺めていた。 夜の幹線道路を、何台もの覆面が走り抜ける。 きっと、外を歩いている人からしたら異様な光景だろう。 何台もの覆面が連なり走行する様は異様だと思う。 その中の一台に自分が乗っているなんて、どこか不思議な気分だ。 だが、御影 直寛を警察が逮捕したら。 もしかしたら、逃走している速水 涼子にようやく辿り着けるかもしれない。 速水 涼子さえ逮捕できれば。 そうしたら、もう茉莉花の身に危険が及ぶ事はないのだ、と安心できる。 俺がそんな事を考えていると、谷島が「着いたぞ」と呟いた。 「──小鳥遊、お前は俺たち刑事の一番後ろにいるように」 「……そこまで信用ないのか、俺は?」 「そうだな。今まで出会ってきた人の誰よりも今のお前は信用できないよ。藤堂さんが関わるとそうなる」 「……間違いないな」 ふん、と鼻で笑って、俺は谷島と同時に車を降りた。 御影 直寛は今、実家に居る。 以前まで住んでいたマンションは引き払ったらしい。 「数日、御影 直寛を尾行しこの家に帰宅するのを確認した。間違いなくここに住んでいる」 「それは有難い。間違いないんだな」 「ああ。尾行班が裏を取っているからな、確実だ」 話しながら御影家の大きな門前にやってくる。 そこまで来ると谷島は俺に後方に下がるように告げた。 大人しく俺も後ろに下がる。 ここで下手にごねて、御影 直寛が俺がいる事に気がついて外に出てこなかったら。 そうしたら、警察のせっかくの捜査が無駄になってしまう。 俺は、刑事がインターホンを鳴らすのを黙って見ていた。 ◇
last updateLast Updated : 2026-07-30
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469話

ドタドタ、と谷島達刑事の慌ただしい足音が聞こえる。 「息子さんの部屋はどこに!?」 「こ、こちらです」 刑事の厳しく、重い声が廊下に響く。 俺は、刑事達が向かう先をゆっくりとした足取りで追った。 扉が開き、室内に入り込む音。 それに、御影 直寛の怒声。 父親の怒声。 刑事の怒声。 それらを聞きながら、俺は御影の私室であろう部屋の入口からひょい、と顔を覗かせた。 「──こんな事をして……っ、逮捕状は!?許可はあるのか!?」 「もちろんある。これが逮捕状だ。大人しくご同行願おうか」 「──くそっ、くそ……っ」 暴れようとしている御影を、刑事達が呆気なく取り押さえ、谷島が逮捕状を御影の眼前に突きつけた。 それを見た御影は、驚きに目を見開き、食い入るように見つめている。 御影家の当主、父親は唖然としており、騒ぎを聞きつけてやって来た母親は事態を飲み込めないように泣いている。 父親と母親は苦しそうに顔を俯かせ、夫婦で慰め合うように抱き合っている。 「これは何かの間違いだ……!誤解だ……!俺がこんな事をするはずがないだろう!?大丈夫だ、すぐに釈放される……!」 御影は、自分の両親──特に母親の泣き顔に真っ青になり、慌てて言い訳を口にしている。 だが、部屋の出入口に顔を向けた御影は、俺の姿がある事に気が付き、憤怒に顔を真っ赤に染めた。 「──小鳥遊、お前が……!お前のせいだ!」 御影は大声で叫び、俺に向かって走り出そうとしたが、既に彼の手には手錠が嵌められている。 両脇を刑事に固められた御影は、俺の方へ行きたくとも行けない状況で。 悔しそうに顔を歪めている。 「……小鳥遊、署に向かうぞ」 「──ああ、分かっている」 谷島が俺の肩をぽん、と叩き、促す。 茉莉花を危険な目に遭わせた御影に、何か一言言ってやりたい。 だが、ここで騒ぎを起こせば谷島の責任問題になる。 それに、御影の両親もいるのだ。 調べが進めば、自分の息子がどれだけ悪どい事に手を染めたのかは白日のもとに晒される。 今、この場で教えずとも罪は暴かれるのだ。 無理にこの場で両親の前で、話さなくてもいい。 そう判断した俺は、谷島が促すまま素直に頷き、部屋に背を向けて歩き出す。 背後からは御影の怒号が未だに飛んで来ている。 だが、俺は足を止めずにそのまま廊
last updateLast Updated : 2026-08-04
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470話

◇ 翌朝の新聞の一面、そしてニュースは大騒ぎだ。 【御影ホールディングス専務、殺人に加担!?】 【殺人犯の逃走を幇助か!?】 そんな内容のニュースが、朝からどの放送局でも流されており、複数の新聞が報じていた。 ネットもその件で大騒ぎになっており、この騒動はすぐに収まりそうになかった。 ◇ 自宅の食堂でそのニュースを見ていた私は、隣に座っている苓さんを見上げる。 彼──苓さんは、昨夜遅い時間に帰ってきたみたいだった。 私が眠っている内に帰ってきたようで、朝起きたら既に苓さんが私の隣で眠っていた。 御影専務と会った? 彼から何か話を聞けた? どうして涼子の手助けをしたのか聞いた? 聞きたいことは沢山あったけど、疲れた様子で眠っている苓さんを無理矢理起こす事なんてできなくて。 そっとベッドから抜け出して、朝の支度をしている時に苓さんが起きた。 普段、朝が弱い苓さんは中々起きないのに。 私がびっくりしていると、苓さんは私に「眠りが浅い」と教えてくれた。 だから深く寝入っておらず、私が動いた物音で起きてしまったようだった。 それから、私と苓さんは2人揃って食堂に降りてきたのだ。 食堂には既にお父様が居て、お手伝いさんが朝食を用意してくれていた。 お父様から無言で新聞を渡され、私はそれに目を通して隣の苓さんを見上げた。 そして、お父様がテレビをつけたのだ。 新聞の記事、テレビから流れてくる報道。 それらを全て聞き終え、話題が切り替わった所でお父様がテレビを消した。 「──苓くん。昨夜、御影 直寛は無事に逮捕できたんだな」 お父様の言葉に、苓さんは頷いて答えた。 「はい。彼の両親は何も知らない様子でした。御影 直寛、個人の判断で速水 涼子への手助けをしていた模様です」 「そうか……。彼は今、連行され取り調べを?」 「谷島からの連絡を確認すると、今はその最中のようです。速水 涼子の潜伏先も、彼なら知っている可能性があるので、厳しく取り調べをすると」 「……分かった。両親が無関係とは言え……御影ホールディングスは大打撃だな」 「ええ……」 もしかしたら、御影ホールディングスは倒産するかもしれない。 だが、それが彼が招いた結果だ。 犯罪者に手を貸すという事は、自分1人の問題ではなく、会社や家族にまで関わる。 それく
last updateLast Updated : 2026-08-06
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