◇ 御影ホールディングス、専務取締役室。 御影 直寛はそこで電話をしていた。 「──ああ。先程振り込んだ。今後も頼むぞ」 上機嫌だった表情と声音は、だが向こう側にいる相手が発した言葉に一瞬で強ばる。 「なに?……辞めた?今、辞めたと言っているのか?」 へらへらと軽薄な態度で話す相手に、御影は声を荒らげる。 「勝手に辞めるなど、ふざけるな!今までの報酬は今後も俺に情報を持ってくる事を条件に提示した金額だ!勝手に反故にするならば、今まで払った金額をそっくりそのまま返却しろ!」 電話向こうにいる相手が何やら騒いでいるが、それをものともせずに一方的に電話を切る。 そして苛立ったままスマホを床に投げ付ける。 「──くそっ、余計な真似を……!これだから庶民は嫌なんだ。身の丈に合わない金を手に入れると態度が大きくなる」 苛立ち、ネクタイを緩める。 「あの男、どうしてやろうか──」 御影が呟いた瞬間、専務室に慌ただしく近付く気配がした。 御影が不思議に思い、扉に顔を向けたのと、扉が開くのは同時だった。 ◇ 「お、お待ちください……!約束がなければ、専務のお部屋にお通しできません……!」 私と苓さんは今、御影ホールディングスにやって来ていた。 もちろん、私たちは御影専務に約束など取っていない。 だけど、私と苓さんの身分を知っている受付の人からしたら私たちを強く止める事は出来ない。 申し訳ないとは思うけど、このまま御影専務の部屋まで向かわせてもらう。 「お、お待ちください……っ」 悲痛な面持ちで私たちを止めようとする受付を押しのけ、苓さんが専務取締役室の扉を開けた。 「──失礼します、御影専務」 「……お前、小鳥遊?それに……」 御影さんは突然扉が開いた事に驚いた様子だった。 苓さんの影に私が居る事に気がついた御影さんは、面白そうに眉を上げる。 「茉莉花か。良い、2人を通せ」 「か、かしこまりました……。失礼します」 受付の人間は御影専務にそう言われると、頭を下げて退がる。 扉が閉まる音がして、部屋には今私たち3人しかいない。 室内には、妙な緊張感が漂っている。 ぴりぴりとした緊迫感。 だけど、その中でも御影専務は何故かとても余裕そうに笑った。 「随分不躾だな。約束もなく突然やって来るなんて」 「あら……御影専務
最終更新日 : 2026-06-19 続きを読む