All Chapters of 愛よりもお金をとるのならどうぞご自由に、さようなら: Chapter 111 - Chapter 120

175 Chapters

111.颯の告白

佐奈side「……佐奈! 待ってくれ!」颯は、颯は肩で呼吸をしながら私の左手首を力強く握っている。ピンクの華やかなネクタイとスーツ姿で、左手には引き出物の紙袋を持ち、先程の女性たちとは対照的に、後悔と焦燥と執着がどろりと混ざり合った瞳で私を見つめている。今の颯には、かつての冷静沈着なエリートの面影はない。「颯……なんでここに?」「友人の結婚式だったんだ。それで佐奈を見つけて。佐奈と話がしたい。頼む、時間を作ってくれないか」「話って何を語るつもりなの? もうあなたと私はとっくに終わっているの、手を離して」掴まれた腕を振り払おうとしたが、颯の指の力は驚くほど強くて離そうとしない。私は、冷たく言い放ち、毅然とした態度を保とうとしているが心臓は大きく脈打っていた。「颯は、私よりも出世やお金を選んだでしょ? 自分の出世のために璃子を選んで、私が邪魔になったから海外に異動させるようにしたんでしょ? それが、今度は私が令嬢だと知ったら復縁したい? ふざけないでよ」今まで胸の奥底の深いところに隠していた、颯の裏切りに対する怒りや絶望を声を荒らげて面と向かってぶつけると、颯の口から信じがたい言葉が飛び出した。「違う! 海外への異動
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112.颯の告白②

佐奈side「信じて欲しい。もし信じてもらえなくても、誤解だけはちゃんと解きたいんだ」海外異動の件を聞かなければ、私は颯の言葉を無視してその場を後にしただろう。しかし今、真摯な瞳で訴える颯を前に、私の足は釘付けになっていた。颯の言葉はあまりにも衝撃的で、颯の語る真相とは何なのかをちゃんと確認しておきたかった。「……そもそも犠牲って何?」話は聞くことにしたけれど、だからと言って颯の言葉を全て信じるわけではないし、信じられない気持ちの方が強い。短く低い声で尋ねたが、それだけでは物足りず胸に溜まっていた感情をぶつけた。「あの選択で、あなたは社長の孫娘と婚約して、私は無茶苦茶な辞令を突き付けられて退職したのよ? 犠牲を被ったのは私で、あなたは何も受けていないじゃない。部屋だって二階建てのアパートから高級マンションに移り住んで、全てあなたの思い通りじゃない。何を被害者ぶっているの!」「違う。あの時、社長に詰め寄られて、俺に拒否権なんてなかった。婚約を承諾するしかなかったんだ。婚約者の存在も伝えたけれど、一切動じなかった。そんな態度を見て、その婚約者が佐奈だと分かったら、佐奈にも俺と同じように圧力をかけてくる。そう思って、佐奈が嫌がらせや圧力を受ける前に承諾したんだ……」「承諾するしかなかった? 何、拒否すれば命を落とす危険でもあったの? どんな状況になれば『するしかない』なんて切羽詰まった状態になるのよ」
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113.颯の告白③

佐奈side「颯は、仕方なく婚約したとか私を守るためとか言っているけれど、真相が分かっても離れないなんて、璃子にしがみつこうとしているようにしか見えないわ。それほどまでに出世や璃子に執着しているの?」私は、鋭い視線で颯を切り捨てた。私を守るためという言ったが、結局は上手くいかなかった場合の保険として璃子と離れられないように見える。また、璃子と離れる気はなく其れよりも私の方が立場が上だと気が付いて乗り換えられたらラッキーと更なる欲をかいているようだった。どちらにしても、『自己利益のための保険』として、どっちつかずの対応をしている颯に、拭い去れない不信感が渦巻いていた。「もし、あの異動が璃子がしたことでも、颯がそのことを知ってもなお璃子と一緒にいるということは、最終的に璃子を選んだということでしょ、違う?」「……璃子のことは選んでいない。詳しいことは、今はまだ言えないけれど、璃子とも結婚しないし、あの会社もいずれ去るつもりだ」「どういうこと?結婚しないで会社を去る?」「ああ、それ以上は言えない。だけど、別れを告げてから俺は、ずっと自分の選択に後悔していた。佐奈を失ったことを悔やんでいた。タイミングが悪かったけれど、佐奈の家系を知ったからやり直したいと言ったわけじゃないんだ。俺は、出世目当てで璃子を選んだわけじゃないし、佐奈が令嬢と知ったから復縁を望んだわけじゃない。それだけは絶対違うって佐奈に伝えたかった」「…&h
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115.俺を縛るモノ

颯side璃子の母親がいなくなって、一年半の歳月が過ぎていた。璃子と玲央は兄弟かもしれない――そう母親に告げられて動揺していた璃子だが、真実を知るため、玲央と相談して玲央の父親にも話をすることを決めた。しかし、四人で会うことを約束していた日、璃子の母親は約束の場所には現れなかった。心配して探しに行くと、公園のベンチに座り俯いている母親を見つけた璃子が声を掛けた。すると怯えたように逃亡し、依然として行方が分からないままだ。母親の不可解な失踪を理由に、俺と璃子の結婚は当面延期となっていた。結婚を回避したいと思っていた俺にとっては、結果的に延期は望ましい状況だった。しかし、今は璃子の母親を見つけ出さないことには話が進まず、進展どころか八方塞がり状態だ。璃子の母親は、どちらが父親か分かったら生まれてきた子どものことを愛せないかもしれないと考え、敢えて鑑定はしなかったそうで、玲央の父親にも妊娠した可能性については伏せていた。当然、玲央の父は自分が璃子の父である可能性を考えることもなく、生まれてきた璃子は七條夫妻の子どもだと思っているとのことだった。「愛せないかもしれないって、母は玲央のお父さんとの子どもであって欲しいと願っていたということよね。そこまでして玲央のお父さんと繋がりが欲しかったのかな」玲央と俺と三人で集まった時に、璃子は嘲笑するかのように小さく嘆いていたが、その言葉と表情がとても切なくて俺と玲央は言葉を失っていた。璃子の存在自体が、玲央の父親を思い出
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116.背水の陣

颯side「二人に大切な話がある」俺は、玲央と璃子を呼び出して都内の個室のある店に呼び出していた。四人掛けのテーブルに当たり前のように璃子と玲央が隣同士で座り、俺は二人と向かい合わせの椅子に腰を下ろした。俺たちの関係は、世間一般で考えたら可笑しいかもしれないが三人の中ではそれが普通になっている。注文をして店員がいなくなったのを確認すると、二人をまっすぐに見つめてゆっくりと口を開いた。「本当は最後まで全うするつもりだったけれど、もう婚約者のフリをするのはやめたいんだ。俺が理由でも俺の責任にしてくれても何でもいい。このままの状態が続けば、俺はやっと気がついた大切なものを失ってしまう、そう気が付いたんだ」「でも、この問題が片付くまではいいって言ってくれていたじゃない!」璃子が身を乗り出して反論したが、玲央が璃子の腕を抑えて顔を横に振り咎めるように言った。「璃子、松田さんの話をちゃんと聞こう。それに僕たちが松田さんを巻き込んで付き合わせているんだよ? 」その言葉に、璃子は静かに椅子に座り俺の方を真っ直ぐに見ている。「確かに片付くまでと約束をした。だけど、問題が長期化していつ解決するか分からなくなった今、現状のままの関係を続けていくのは辛いんだ」
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117.背水の陣②

颯side「それでうまくいかなかったらどうするの? 婚約を破棄すれば、最悪の場合、今の地位どころか仕事も失うことになるんだよ?それに破棄したから、木村さんと復縁できるわけじゃない。彼女が婚約したって言うなら尚更、希望は薄いじゃない」璃子の指摘はもっともだった。婚約をやめたからと言って佐奈に償えるわけでも、佐奈の心が戻ってくるわけでもない。だが、二兎を追う者は一兎をも得ず、俺は最初の決断を間違えたあまりにこの数年で何も栄光を手にしていない。得たのは虚しさだけだった。(もう迷わない、俺は佐奈に思いの丈をぶつけると決めたんだ)俺は、璃子と玲央の顔を見て胸の内の決意を言葉にした。「ああ、でも、もう佐奈に誤解されるのは嫌なんだ。それにこのまま璃子たちの話が進んでも、俺はいずれ会社を去ることになるだろう。それなら、全てを清算して自分が思うように生きようと思って。だから、どんな条件でもいい。この婚約を解消してくれ」「颯……」璃子は、俺の決意の強さを悟り、それ以上言及しなかった。静かに玲央の方を向くと、玲央は穏やかな顔で璃子に微笑んでいる。「璃子、いつまでも松田さんに甘えてばかりではいけないと思うんだ。松田さんが不利益を被らないようにみんなで説得方法を考えよう。ここまで引き留めたのは僕たちだ」
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118.ブライダルチェック

佐奈side両親たちが結婚相手を気にするのには理由がある。それは、単なる家柄の問題ではない。名家の出身は、小さい頃から徹底的な教育を受けているためマナーや教養がしっかりしており学歴も高い。将来子どもを授かった時に、実家の援助も受けやすく子育てに専念する環境が出来ることで子どもが優秀になる可能性も高かった。全ては次期後継者を産んで育て、自分たちの家系の事業を確固たるものとして繁栄させるためなのだ。難しく考えると気が重いが、私も結婚したらいずれは子どもを育てていくと思っていた。そしてその相手が、愛も感情もない人ではなく、好きで付き合った蓮となら家のことは深く考えなくても子育ても楽しめると思っていた。絶対に蓮は私を支えてくれるという自信があった。 家に帰ると、先月蓮と受診をしたブライダルチェックの結果が入っている封筒が届いていて、荷物をダイニングの椅子に置いてから、封をハサミで切って中身を出した。(仕事の兼ね合いもあるけれど、結婚したら子育てに専念する期間もできるんだろうな。今まで長期で休んだことはないけれど、一体どんな生活になるんだろう?)仕事中心の生活から家庭中心の生活。未知の領域だったが、成るようになるだろうと気持ちはすぐに明日の仕事へと切り替わった。明日は朝一の会議で早く出社が必要なため、アレクサにいつもより三十分早い時間にアラームを鳴らすように指示を出しながら、三つ折りにされた紙を開くと、予想していなかった文字が私の視界に
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