玲央side「祐実も見つかったことだし、ひとまず宿に行こう。……話をしなくてはいけないことが、山ほどある」父が璃子の母親を「祐実」と名前で呼ぶと、彼女は子供のように無邪気に小さく頷いた。そして、吸い寄せられるように父の手に自らの手を重ね、引っ張られるままに歩き出した。その背中を、璃子は幽霊でも見るかのような虚ろな目で見つめていた。最愛の母の瞳に自分が映っていないという事実は、彼女の心を粉々に打ち砕くに十分だった。「玲央、運転を代わるよ。お前は璃子ちゃんと後ろに乗って、様子を見てやってくれ」父に言われるがまま、僕と璃子は後部座席に座った。車が走り出すと、璃子は糸が切れた人形のように僕の肩に深くもたれかかった。海風に当たり氷のように冷たくなった彼女の身体を温めるように手を握ると、極限の緊張から解放されたせいか、璃子は微かな寝息を立てて眠り始めた。バックミラー越しに見える運転席の父と助手席の祐実さんは、一言の言葉も交わさない。時折、祐実さんが熱っぽい視線を父に送るが、父は一切それに応えることなく、ただ険しい表情で前方の闇だけを凝視していた。車内は、湿り気を帯びた不穏で重苦しい空気に支配され、エンジンの音だけが不気味に響いていた。十五分ほど車を走らせ、予約していた奥伊豆の古い料亭宿に到着すると、仲居さんが手際よく、隣同士の二部屋を用意してくれる。襖を開けると、い草の香りが漂う静かな和室が広がっていた。「今日こそは、ちゃんと話をしよう
Read more