All Chapters of 愛よりもお金をとるのならどうぞご自由に、さようなら: Chapter 161 - Chapter 170

175 Chapters

163.颯の今

佐奈side璃子の告白に、私は思わず言葉を失った。「ええ。検査の結果が出るまでの短い期間の約束だった。颯は、あなたとの関係を修復したいからと難色を示して断ったけれど、最終的には承諾してくれた。だけど、思わぬトラブルが重なって、結局、二年以上も婚約者として振る舞わせてしまうことになったわ。私と颯は、本当はずっと前から婚約者でも何でもないの」璃子は、今まで自分たちの身に起きたことを事細かに私に伝えてきた。璃子と玲央が真相を突き止めようとしたところ母親が失踪して話が進まなかったこと、そして結婚も保留となり、颯は何もできずに藻掻いていたそうだ。結婚式場で偶然再会した時の、颯のどこか悲しげな瞳と言葉を思い出す。『事情は話せないけれど、璃子とは結婚しないし、そういう関係じゃない』あの時、玲央と璃子のことをかばうために真実は隠しながらも、必死に何かを伝えようとしていた颯の姿が、この璃子の証言によってようやく一本の線へと繋がっていった。「……じゃあ、婚約破棄された時に颯が私を突き放したのも? あなたを選んだと言ったのは嘘で、海外異動のことを知らなかったと言ったのは本当だったってこと?」「ええ。すべてはあなたを巻き込まないための嘘よ。海外異動を仕組んだのが私だと知ったのは、パーティーであなたに会った日の夜でそれまでは知らなかった」
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164.再会

佐奈side家に帰り、ルームウェアに着替えてから、璃子からもらった颯の名刺をダイニングテーブルの上に置いた。以前とは違う社名とチームリーダーという肩書き。私はそれを眺めながら、深く、長い溜息をついた。今まで私の誤解で、颯を突き放していたかと思うと胸がズキンと疼く。(颯や璃子が言っていたことがすべて本当だったとしても……今はまだ、素直に会う気分にはなれない。それに会ったところで、今さら颯の気持ちに答えられないよ……)キッチンで淹れた温かいミルクティーをマグカップに注ぎ、その白い湯気を見つめながら、私は颯とのことを思い出していた。母に紹介するはずだったあの日。待っていた私を置き去りにして、颯は現れなかった。そしてその翌日、璃子と堂々と婚約を発表したのだ。二十数年の人生の中で、あの時ほどの絶望はない。翌日以降の颯の態度を見て、退職後に再会してからの言葉は、すべて自分を正当化するための言い訳として切り捨ててきた。ようやく蓮と出会い、新しい幸せを掴みかけて立ち直ったと思ったら、今度は颯が執拗に声を掛けてくるようになって、最初はただ困惑したけれど、未練があるような素振りを見せるのも、璃子との関係が上手くいかないから、現実逃避しているだけだと思い込んでいた。そして、私がMURAKIの社長令嬢だと知った途端に「やり直した
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166.本当の守り方

佐奈side「……もう大丈夫。ありがとう、落ち着いた」颯と一定の距離を保ったまま、指先で涙を拭ってからさらにもう一歩離れて顔を上げた。まだ心配そうに眉を寄せている颯に対して、今までの自分の頑なな態度への罪悪感がじわじわとこみ上げてくる。どんなに冷たくあしらわれても、私への想いを捨てずに伝え続けてくれた颯。そんな颯と、今こそ正面から向き合う時だと心の中の私が強く背中を押していた。「……颯。璃子と婚約した時、本当は私を守ろうとしてくれていたんだね。璃子に会って全部聞いた。……何も知らなくて、ずっと突き放すような冷たい態度をとり続けて、ごめんなさい」その言葉を聞いた瞬間、颯は目を丸くして驚きで固まっていた。しばらくすると颯は、照れ臭そうで、少しだけホッとしたようにも見える表情で頭を掻いて俯くと小さな息を吐き出した。そして、眼鏡の奥にある真剣な瞳で私を真っ直ぐに見つめてきた。「いや、佐奈は悪くない。謝るのは、俺の方だ。あの時の俺は、佐奈を守るためだと思ってあの選択をした。だけど、ただの独りよがりで、守り方を完全に間違えたんだ。誰かに何を言われようと、俺は佐奈の隣にいるべきだった。……本当に、本当にごめん」「颯……」「もし誰かが佐奈
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167.玲央の告白

佐奈side颯と再会してから一か月が経った。颯は今、新しい環境で必死に戦っているようだった。仕事は私が想像していてた以上に忙しいようで、連日終電まで業務に追われているらしい。時には終電すら逃し、そのまま朝までオフィスで仮眠を取り、始発の電車でシャワーと着替えのためだけに帰宅する。そんな自分を追い込むような生活をしているらしかった。返事が返ってくるのは、深夜かお昼休みのわずかな時間のみで、会う約束をするどころかメールのやり取りさえ一日に数往復できれば良い方だった。そんなもどかしい日々が続いた週末、都内の高級ホテルで経営者たちの懇親パーティーが催された。父の代理として出席した私は、華やかなシャンデリアの光が降り注ぐ会場の片隅で、玲央と璃子の姿を見つけた。「あっ……」視線がぶつかった瞬間、お互いに足を止めた。動揺を隠せない私に、真っ先に迷いのない声を上げたのは、やはり璃子だった。「颯には、会いに行った? あれから一か月も経ったんだから、ヨリを戻すなり何かしらの進展はあったのよね?」「会いには行ってないわ。……颯が一度、会社まで来たけれど、ヨリは戻していない。まだ蓮と別れた心の整理がついていなかったし、今の私には、颯の気持ちを受け取る資格なんてないもの」
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168.お金や地位よりも大切な物

佐奈side待ち合わせ場所に現れた颯は、ライトグレーのカーディガンに細身のパンツというカジュアルな格好をしていた。対して私は、パーティー会場からそのまま飛び出してきたために、淡い光沢のあるドレスを身に纏い、パールのネックレスやパーティー用の大きなピアスをつけている。あまりに不釣り合いな姿に張り詰めていた緊張が解け、思わず噴き出してしまった。「え、今日、パーティーか何かだったの? そうと分かっていたら、もっとしっかりした格好で来たのに……。ごめん」颯が困ったように頭を掻く。その仕草が私の記憶の中にある「大好きだった頃の颯」そのままで自然と笑みが零れた。「ううん、私がパーティー帰りだって伝えなかった私が悪いの。……でも、どうしても顔を見て話したかったから。今日ね、会場で本郷さんと璃子に会ったわ」「二人に? そうか……元気そうだったか?」「さあ、深い話はできていないの。二人とも、私と目が合うなり颯の話をし始めたの。璃子には、颯と再会したけれど、まだ何の関係も進展していないって正直に伝えたら、『一体何をしているのよ! 』って怒られたわ。本郷さんは、出会った頃に略奪者だなんて私に誤解を与えたことを、ずっと気にしていたみたいで……わざわざ頭を下げて謝ってくれたの」「はは、本当にあの二人は対照的だよな……。でも、本郷さんのような
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169.お金や地位よりも大切な物②

佐奈side「颯……。私ね、ひとつだけ、どうしても言わなくちゃいけないことがあるの」腕の中から顔を上げ、私は意を決して震える声で言葉を紡ぐ。もし颯も蓮と同じ気持ちなら、この幸せは今ここで終わってしまうかもしれない。けれど、そのことを隠して一緒になることは出来なかった。「私、子どもができにくい身体かもしれないの。それが結婚できなかった理由の一つでもあるの。だから、もし颯が将来、家族を持つことを夢見ているなら……。私のこの身体のことが嫌なら、今ここで……」私の告白に、颯はそれ以上の言葉を遮るように勢いよく唇を重ねた。拒絶ではなく、私の不安を丸ごと飲み込むような優しい口づけだった。「いいよ、佐奈。……今は、俺だけのことを見て」唇を離した颯の声は、どこまでも落ち着いていて深く静かだ。「佐奈が元気なら、笑って幸せを感じていられたら、俺はそれだけで十分なんだ。これからのことは、ゆっくり二人で考えていこう。もし子どもができなくても、俺は佐奈の隣で二人だけの時間を歩んでいけたら、それだけで人生が完成するくらい幸せなんだよ」その瞬間、張り詰めていた緊張の糸がぷつりと切れ、大粒の涙が止めどなく流れてきた。そんな私を、颯は大きな手で背中を優しくポンポンと叩いてなだめている
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170.結婚報告

颯side二人の結婚式の約一年前――――――。佐奈と再び付き合うことになり、俺は玲央と璃子に報告するために久々に三人で会いたいと連絡を入れた。その連絡をした時点で、鋭い二人は俺が何を話そうとしているのかを即座に察したのだろう。 玲央:日程は松田さんの都合のいい日に任せますが、三人でいいのですか?   璃子:玲央も私も、もう一人増えて四人でも構わないのよ?こんな返事が、ほとんど時間差なく送られてきた。スマホを並べて、ニヤニヤしながら返事を打つ二人の姿が容易に想像できる。「……ったく。この二人、俺を使って楽しんでるな。会ったら、二人は今どんな状況なのか、とことん問い詰めてやらないと」二人の恋を守るため、俺は想定よりも長い時間「婚約者」のふりをやらされることになった。多少の意地悪を言う権利は俺にもあるはずだ。佐奈にも声を掛けたが、彼女は「まだ璃子とのわだかまりが完全に解けていないし、三人の方が気兼ねなく話せるでしょ? 楽しんできて」と、あっさりと笑顔で見送られた。土曜日。玲央が予約してくれた隠れ家のような店を訪れると、既に二人は店に入っていた。一つのメニュー表を二人で覗き込み、肩を寄せ合いながら「これ美味しそうじゃない?」「璃子の好きなデザートがあるよ」なんて楽しそうに笑い
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