佐奈side店を出ると、夜の空気は半年が経ってもまだ私の肌を刺すように冷たかった。ふらふらと歩き出す私の脳裏に、かつて颯が言った言葉がフラッシュバックする。 『俺は佐奈を傷つけないために、あえて嫌われる道を選んだ』 その言葉を聞いた時、私は颯のことを「卑怯者の言い訳」だと切り捨てた。けれど、蓮はどうだろうか。蓮は「いい人」のまま私を捨て涼しい顔で新しい幸せを掴んでいる。「……バカみたい」夜の恵比寿の雑踏の中で、誰にも聞こえないくらい小さな声でポツリと独り言をこぼした。 信じていたものすべてが、砂の城のように崩れ去っていく。 裏切り。嘘。保身。 私が「愛」だと思っていたものの正体は、ただの「体裁」だったのだ。気づけば、夜の冷気にさらされながら、私は震える指で蓮の番号を表示していた。半年間、一度もかけることのなかった番号。迷うことなく着信ボタンを押し、呼び出し音が鳴るたびに心臓が口から飛び出しそうなほど激しく鼓動している。五回、六回流れて留守番電話に切り替わる直前で、ようやく通話がつながった。
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