All Chapters of 愛よりもお金をとるのならどうぞご自由に、さようなら: Chapter 151 - Chapter 160

175 Chapters

151.懐かしい声②

佐奈side「伝えたいこと?」「佐奈、俺、すべて終わらせてきた。璃子との婚約を破棄してきたよ」「え、なんで?」「最後に会った時に、佐奈が言っただろう?『璃子の悪事を知っていながらも、未だに璃子の隣にいるのは璃子のことを想っているからだ。それに、被害者ぶっているけれど颯は何も失っていない』って……」「それはそうだけど……」「そう言われて気づかされたんだ。確かに俺は何も失っていない。それどころか、婚約してすぐに家は1DKのアパートから高級なマンションに変わって、会社のポストも上がった。婚約したままで佐奈のことを想っているなんて伝えても、説得力もないし本気だなんて思えないよなって。佐奈からしてみれば、結婚前にふらふらしている軽い男みたいに俺は映っているかもしれないと思ったんだ」颯の言葉をただただ無言で聞いていた。今言っている言葉は、私があの時感じた心のモヤモヤや苛立ちをしっかりと言語化してくれている。婚約している立場でありながら、声を掛けてくることにも、もしかしたらなびくかもしれないと私自身を軽く見られていたのかと思うと何をふざけた事を言っているのだろうと全く笑えなかった。「あの時、事情があって婚約者のフリをしていたんだ。でも、もうする必要がなくなった。だから璃子との婚約を正式に解消したよ。俺は、もう璃子とは関
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152.懐かしい声③

佐奈side「婚約破棄したとか言ってるけれど、璃子に捨てられただけじゃないの? それで、会社にも居づらくなって困って私のところに縋ってきたんじゃないの?」蓮から連絡が来ないことの苛立ちを颯にぶつけるように、自分でも質が悪いと思いながらも、つい意地悪な言葉を投げかけてしまっている。「違う。決してそんなんじゃない。だけど、佐奈が俺のことを信用できなくなっても仕方ないとも思っている。俺は、その失った信用を回復するところから始めたいんだ。……佐奈は、もう結婚するのか? まだ、今からでも俺が入り込む余地はあるかな?」颯の声から弱々しさが消えた。璃子と一緒にいた時の顔色を伺うような情けない颯ではない。少し強引で力強く話しかける颯に思わず言葉が詰まる。「……まだ入籍はしていないけれど、そのうち結婚するわ。だから、もう無理なの。遅すぎるわ」「そうか。……それなら、まだ佐奈のことを想っていてもいいかな?」「そんなこと、私に聞かないで! もう電話切るから」これ以上、颯の言葉を聞いている余裕なんてない。電話を切ろうとしたその時、颯が焦ったような早口で尋ねてきた。「待って! ネットニュースで見たんだ&hell
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153.隙間

佐奈side「連絡、遅くなってごめん。少し仕事が立て込んでいて……」そう蓮から連絡が来たのは、私が連絡してから三日後の深夜二時だった。そんな時間に起きているはずもなく、朝、温かい布団にくるまれながら手を伸ばしてスマホを取りメッセージを呼んだが、すぐに返事をする気になれなかった。アプリを閉じて、まだ眠い目をこすりながら伸びをして仕事のために仕方なく布団を出た。顔を洗いメイクをして身支度を整えてから、通勤電車を待っている間に再びスマホを取り出して蓮へと返事を打った。「遅くまで大変だったね、お疲れさま。あと二日でお休みだし頑張ろうね」普段と変わらないありきたりな返事をしてから、蓮のことは一旦忘れようと自分に喝を入れてぎゅうぎゅうに人が乗っている電車に吸い込まれるように足を踏み入れた。無心になって最寄り駅まで揺られているこの時間が、今日はなんだか心地がいい。仕事は経営部門で直接的な関わりはないため、目の前の数字を追うことだけに集中をした。しかし、それでも休憩室や遠くから聞こえてくる役員たちの話の中で支店の新たな人事や対応策についての話が聞こえてきて、まだこの問題が解決されていないことを思い知らされる。(電話やメールじゃなくて、蓮と直接話がしたいな……)昼休み、昼食を食べに出掛ける前に、蓮に『週末に会えない?』とメ
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154.亀裂

佐奈side日曜日の昼前、蓮が家の前まで迎えに来てくれた。せっかくの休みだというのに、今すぐ激しい雨が降りそうな黒く重そうな雨雲をチラリと見て、助手席に乗り込む。木曜日の昼に送った会いたいというメールの返信が届いたのは、金曜日の夜だった。以前なら数時間で返ってきたはずの言葉が、丸一日以上も返ってこないことに蓮の心が離れてしまったような気がしてこのところ溜め息ばかりが続いていて、私の心は今日の空と同じようにどんよりと曇りきっていた。「最近、連絡くれたのに返事遅くなってごめん」車が走り出してすぐ、蓮は前を向いたままそう言った。 (会って早々に謝罪の言葉を口にしてくれたことは嬉しいけれど、できるなら正面から顔を見て言ってほしかったな……)でも、蓮が仕事が忙しいのは分かっているし、理解のある婚約者でいたいと思う私は、自分の中の寂しさを飲み込んで「大丈夫」と短く返事をした。いつもは何かしら話をしているはずだけれど、どんな話をしているか思い出せない。何故だか今日は、沈黙が気まずく感じていた。「佐奈、怒ってる?」信号待ちで不意に尋ねられ、言葉に詰まった。今の気持ちに怒りは一ミリもない。ただ、そう思われたことへの悲しさに似た感情が入り交じっていた
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155.白紙

佐奈side車を走らせているとフロントガラスを叩く雨脚が急激に激しくなってきた。ワイパーを最速にしても視界が白く霞むほどの豪雨に、蓮はハンドルを握る手に力を込め、国道沿いにあるパーキングエリアに車を滑り込ませた。エンジンを切ると、車内には雨がボンネットを叩く激しい音だけが響き、車内の孤独感を際立たせている。何か明るい話題を探そうとしたが、隣に座る蓮の横顔を見て息を呑んだ。何かに耐えているように唇をギュッと閉じる蓮に、思い付きの話をするのは違うと思ったからだ。蓮はハンドルに額を預けるようにすると、長い沈黙のあと、ようやく重い口を開いた。「佐奈、本当のことを話すよ」蓮の声は、雨音に消されそうなほど小さくて低かった。わずかに震える声に私の身体も小さく身震いをする。彼はゆっくりとこちらを向き、今まで避けていた私の瞳を真っ直ぐに見つめた。その瞳には、隠しきれない疲弊と絶望が滲んでいた。「連絡が遅かったのは、仕事のせいじゃない。父さんと母さんを説得しようとして、ずっと話し合っていたんだ」「説得って……私たちの、結婚のこと?」蓮は小さく頷き、深く重い溜息をついた。 「MURAKIの不祥事が公になってから、うちの役員会でも問題になった。うちの両親
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157.愛のカタチ

佐奈side夜十時を過ぎた頃にようやく蓮が私の家に来た。仕事が長引いたのだろうか蓮の顔には隠しきれない疲労が滲んでいる。夕食もまだ食べていないだろうと思い、蓮の好きな野菜をたっぷり入れた温かいシチューを用意していたが、「こんな時間に食べると明日堪えるから」と力なく首を振った。せっかく用意した鍋は一度も温められることなく、静かに冷蔵庫の奥へと押し込まれたのだった。「最近、ご両親とはどう? 話とかしている?」ソファに座り、スマホの操作をしている蓮にお茶を出しながら尋ねると、蓮は一瞬、苦い顔をしたが、すぐに取り繕うように困ったような微笑を浮かべた。「うん、まあ……話はしているよ。どうにか説得できるといいんだけど。心配かけてごめん」「何かキツイこと言われたり困ったことはない? 私にできることがあったら、どんなことでも教えてほしいの」「ありがとう。でも、今は大丈夫だよ。大きな問題はないから心配しないで」そう言って蓮は優しく笑う。けれど、その笑顔が今の私には切なかった。昼間、彼の母親に呼び出され、実際には父親との話し合いが平行線であること、折り合いがつく見込みなどないことを聞かされているからだ。
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159.決断②

佐奈side「ごめん。佐奈や会社の将来のことをずっと考えていたんだ。今すぐの結婚は認められなくても、ほとぼりが冷めてから入籍すればいい。俺たちは事件の当事者じゃないんだから、誰に咎められる筋合いもない。そう言って、何度も父さんを説得しようとしたんだ」蓮は必死に弁明を続けている。けれど、蓮が言葉を重ねれば重ねるほど、私の心に鋭い破片が突き刺さる。もう「別れ」という結末が見えている私たちにとって、弁解や相手への深い愛や想いを吐露することは、傷口を無理やり広げるような残酷な行為でしかない。「だけど、横から母さんが言ったんだ。『そのほとぼりが冷めるまでに一体何年かかると思っているの。あなたももう三十を過ぎている。将来、子供を持つことを考えたら、悠長に待っている時間なんてないのよ』って。その言葉を聞いてから考えれば考えるほど……俺自身の自信がなくなっていったんだ」「私もね……これで正しいのか、本当にこの選択がお互いのためになるのかって、ずっと考えていたよ」私は精一杯、無理をして笑ってみせた。けれど、今の私にそんな心の余裕などあるはずもなく、引き攣った笑顔はすぐに歪んで崩れていく。先程よりも大粒の涙が、次から次へと頬を伝い、床へと音もなく落ちていく。「本当は、答えなんてお互いとっくに出ていたのかもしれないね。ただ、その言葉を口にするのが怖くて、お互いに傷つくのを先延ばしにしてここまで来たのかもしれない」「……ああ、そうかもしれないな」蓮が絞り出すような声で静かに頷くのを見て、私は決心した。クローゼットに行き、震える手で仕事用の鞄を探ってキーケースを取り出してから、蓮のマンションの合鍵を一本だけ抜き取った。「これは、もう返すね。今まで本当にありがとう。……ねえ蓮、最後にもう一つだけ聞いてもいい?」私は涙で霞む視線のまま、彼の瞳を真っ直ぐに見つめた。今、この瞬間にしか聞けない、そして二度と聞いてはいけない質問。「本当は子ども、蓮も欲しかったんだよね? 早く欲しかったし、本当は不妊治療とか積極的に向き合って欲しかったんじゃない?」蓮は一瞬、表情を崩して戸惑った様子を見せた。その仕草は、隠していた本音を突かれた時の動揺した少年のようだった。「それは……もちろん、できたらいいなと考えた時期もあったよ。でも、佐奈の負担になるなら俺は……」「……ありがとう。昨日ね
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160.残酷な真実

佐奈side蓮が消えた日常は、心にポッカリと巨大な穴が空いたようだった。その穴は底が見えないほどに深く、一度落ちると、穴の底で蓮との思い出に浸り、彼がくれた優しさや言葉を思い出しては、呼吸の仕方を忘れるほど絶望する夜もあった。這い上がるまでに途方もない時間を要し、ようやく息を継ぐ。それでも朝が来れば、ロボットのように感情を持たずに起き上がって顔を洗い、着替えをして家を出る。そして、何事もなかったかのように会社で仕事をする。私の世界は色彩を失ったモノクロのようで、ただ淡々と、無慈悲に時間だけが過ぎる。そんな日々を過ごしていた。蓮と別れてから半年が経ったある日――――大学時代の友人たちから久しぶりに集まろうと誘いを受け、私は恵比寿の少し落ち着いたイタリアンの店へと入った。まだ気持ちは落ち込んでいたままだったが、誰かと話していなければ変わるかもしれない。そんな期待も込めていた。「佐奈、久しぶりー元気だった?」店に入ると既にみんな揃っていて、私に気づいた友人の一人が手を振って迎えてくれた。空いている席に座ると、テーブルの真ん中に座る友人の左手薬指に、大粒のダイヤの指輪が光っているのが目に留まった。「ねえ、その指輪ってもしかして……婚約指輪?」
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