All Chapters of 夜明けと共に忘れるはずの恋だった: Chapter 91 - Chapter 100

142 Chapters

91.イルミネーション

美月side「柳さん……。私、柳さんの側にいたいです。柳さんの側で新しい世界を見ながら、あなたを支えたい」世羅は私を抱きしめる力を弱めると、頭をかがめて私の顔を覗き込むように見ている。そんな表情に私も顔を上にあげて少し背伸びをして、世羅の顔に寄せた。引力に導かれたかのように吸い込まれ二つの唇が重なり合うと、磁石のようにぴったりとくっついて離れない。憧れとか、知人の枠を超えて、一人の異性として互いを見て、求め合っていた。世羅の手が頭を撫でて、指が髪をかき分ける。かき分けた先にあるうなじにスッと指を這わすと、甘い電流が全身を駆け巡っていた。冬の冷たい空気の中、二人の熱だけが沸騰しているようだった。唇を離すと、世羅は手を握り、指を絡めて、裏通りから多くの人で賑わう大通りへと入っていった。「酒井さん、行きましょう」夜になって、イルミネーションがライトアップされて煌びやかに光っており、私の心を弾ませた。「綺麗……。イルミネーションを見るのなんて久しぶりです」「ここは、有名なスポットなんですよね?ネットに出てきて、見てみたかったんです。出来れば、酒井さんと気持ちが通じて、同じ気持ちでこの綺麗さや喜びを味わいたかった」世羅は私
last updateLast Updated : 2025-12-03
Read more

92.伝えたい思い

美月side「柳さん、私、あなたと一緒にいたいという気持ちに嘘はありません。でも、アメリカとなると語学の問題もあります。柳さんは、アメリカに渡ったらもう日本には戻ってこない予定でしょうか?」世羅は手を離すと、身体を私の方を向けて真剣な表情で見つめてから口を開いた。イルミネーションの光が彼の真剣な横顔を何色にも照らしている。「短くても数年は向こうにいる予定です。もしかしたら永住するかもしれない。あなたの気持ちや不安も分かります。身の回りのことは家政婦がやるので、日本語を話せる人を雇えば生活に困ることはありません」私を安心させるように世羅が言葉を選びながら話しているのが、痛いほどに伝わってくる。「ただ、言葉を喋れた方が色んな人とコミュニケーションが取れて楽しいとは思います。短くともあと七か月ある。少し考えてみてくれませんか? もし、一緒にいると決断してくれたなら、僕はあなたに感謝して精一杯支えます」身の回りに困らないというのはありがたいが、世羅と家政婦しか周りにいないというのは、不安と行動範囲の狭さも付きまとう。それに、私に気を取られて本来世羅がやりたい研究が出来なくなってしまっては、支えるどころか足枷にさえなってしまう気がした。彼の邪魔にだけはなりたくない。「僕の一方的な希望を伝えてすみません。でも、言わないまま旅立つことは出来なかった。そんなことしたら、僕は一生後悔すると思ったんです」
last updateLast Updated : 2025-12-03
Read more

93.二人で歩く帰り道

美月side「酒井さん、それって……」世羅の声は期待に満ちていたが、次の瞬間、私は恥ずかしさから急いで言葉を続けた。「ごめんなさい。帰ろうと言っているのに、はしたないですよね……。でも、明日、柳さんが帰ってしまって次いつ会えるか分からないかと思うと、このまま帰るのが名残惜しくて」世羅は振り返って私と向き合うとまっすぐと私を見た。しかし、今までよりも視線が少し下で私の瞳ではなく口元を見ている気がする。彼の視線の熱に、再び私の頬が熱くなる。「私も同じことを思っていました。でも、今日の今日でそんなこと言ってあなたに失望されたくなかった」「失望なんてしません。私も引き留めたら柳さんがどんな反応をするか気にして言えずにいました」お互い『まだ一緒にいたい』と心の中では思っているのに、相手の反応が気になって躊躇していることが分かると、照れて少し俯きながら笑いあった。「良かった。寒くなったので戻りましょうか」世羅の隣を歩いていると、日曜日の夜でも大通りは大勢の人や車が飛び交い賑わいを見せている。自分の心に余裕がなかった時は、その賑わいや誰かの笑顔でさえ、自分と対比してしまい切なくなっていた。しかし今は、その賑わいに活力を感じるよ
last updateLast Updated : 2025-12-04
Read more

94.決断と責任

美月side「本当は、酒井さんが決断するまで自分から誘ってはいけないと思っていたんです。誘うことで無理矢理決めさせてしまうことになるかもしれない。だから、返事がもらえるまで一定の距離で静かに待とうと思っていました。……だけど、まだ一緒にいたいと言われて、こうも簡単に心がぐらつくとは、駄目ですね」「色々と考えてくださってありがとうございます。でも、そう思ってくれてくれている時点で無理矢理なんかじゃありません。仮に行く決断をしたのなら、私がそうしたいと思ってのことで自分の意志です」相手を知りたい、一緒にいたいと思うのに、どこまで踏み込んでいいか分からない微妙な距離感が続いている。手を繋いでいるのだから、友人や知人としてではなく異性としてパートナーとして考えてくれているのだろう。しかし、決断をすることで付き合うことになるのなら、決断をしなかったら交際自体もないのだろうか。この手をずっと離さないということは、同時にアメリカ行きも決まり、離すと言うことは決別を意味するのだろうか。そんなことをぼんやりと考えていた。もし、そうなら今はちょうど分岐点だ。「柳さん、決断する前でもまた私に会ってもらえませんか?私はあなたのことをもっと知りたいです。もっと知った上で判断したいです」緊張して声がうわずりながら早口で言う私に、世羅がやさしく微笑み返す。「ええ、もちろんです。さっきあなたは、次いつ会えるか分からないと言いましたがそれは違います。いつでも会える。それに今度名古屋に来
last updateLast Updated : 2025-12-05
Read more

95.夜明けの逃亡

美月side私のことを考えてくれる世羅の誠実で責任感ある考えを尊重したい気持ちとともに、ある思いが胸を駆け巡っていた。そして口にせずにはいられない衝動に駆られていた。「柳さん、私はこの先、どんな選択をしたとしても後悔しないです。だから、アメリカ行きが決まるまでは、私を恋人にしてくれませんか? あなたの邪魔になるようなことはしません。今、この瞬間のお互いの想いを封印したままにしたくないんです」世羅は、一瞬息を呑んだ後、私の頭をそっと撫でた。「もう何があっても知りませんよ。私も本当はあなたを帰したくなかった―――――」冬の夜空の下、私たちは白い息を吐きながら、早く二人きりになりたくてホテルまでの道を急いだ。お互いの気持ちが通じ合っているという確信で、もうそれ以上の言葉は必要なかった。私たちの手は、一度も離れることなく固く握りしめられている。エレベーターの階数が上がっていくたびに、私の胸の高鳴りが大きくなっていく。部屋に入り扉が閉まると、世羅はすぐさま力強く抱きしめてきた。すらりとした印象だったが、腕から感じる力は強く、広い肩幅と長い腕ですっぽりと私を包み込む。世羅の胸板に顔を埋めると、爽やかな柔軟剤の香りと彼自身の温かい匂いがした。「本当は、あなたのことは最初からずっと分かっていました。あなたの過ごした一夜はとても楽しかった。でも、朝起きたらあなたの姿はない。急に姿を消したあなたに、もう一度会いたいと思っていました」「私も。私も柳さんに会いたかった。会えることを願っていました」世羅の腰に手を回し、思いっきり力を込めて抱き返しながら、今まで言えなかった気持ちを口にすると、世羅は驚いて私の顔を覗き込んできた。「では、なんであの日いなくなったのですか?」その問いは、世羅の心にずっと残っていた謎だったのだろう。お互いに元婚約者との決着がついた今、もう何も隠す必要はない。私はごまかすことなく、あの日の『逃亡』の本当の理由を伝えはじめた。
last updateLast Updated : 2025-12-05
Read more

96.あの日の真相

美月side「遠藤のことは話をしましたよね?私は、父の会社を守るため婚約しましたが、生活は酷いものでした。彼は、私のことを『モノ』として扱っていた。私は、彼の指示に黙って従う奴隷のような生活だった。でも、私が拒めば父の会社は存続できなくなる。そんな時にあなたと出逢った。心を失いかけていた私にとってすごく幸せな時間だったんです」言葉を選びながら、私は震える声で続けた。「でも、幸せであればあるほど、遠藤との現実が嫌になってしまうと思ったんです。これ以上、あなたといる幸せを知ったら、日常に絶望を感じて耐えきれないかもしれない。そう、思って何も言わずに出てきました」「そんな……。それなら、あなたは私に飽きたり嫌気がさしたわけではなかったのですね?」私は彼の背中に手を回してから、顔を上げて強く否定した。「私は、本当はあなたから離れたくなかった。出来ることなら、あのままもっとあなたと一緒にいたかったんです」その言葉に、世羅は私の頬を両手で包み込み勢いよく唇を重ね合わせた。彼の腰に手をずらしてより密着して唇を動かすと、彼の舌先が私の唇をなぞる。ゆっくりと口を開けて彼の舌を招き入れると、求め合うかのようにねっとりと舌を絡めて、お互いの熱と感触を確かめ合っていた。漏れる吐息がお互いの熱を更に高めて身体を火照らせる。今までのすれ違いや心の隙間を埋めるように、無我夢中で舌や指を這わせていった。「柳さんっ……」囁くように漏れた声に、世羅は唇を離すと私を抱きかかえてベッドサイドまで運んでいき、ゆっくりと丁寧にコートのボタンを外していった。「怖くないですか?」陸のことを聞いて私を気遣った言葉をかける世羅が愛おしい。私は首を縦にふって頷くと、世羅のコートのボタンにゆっくりと手を伸ばして外していった。コートをソファの背において密着するように抱き合った。ベッドに横になり、一枚ずつゆっくりと服が床へと落とされていく度に、これから始まる出来事に心臓がドクンドクンと大きく音を立てて反応している。恥ずかしいくらいの高揚感と身体
last updateLast Updated : 2025-12-06
Read more

97.あの日の真相②

美月side部屋のカーテンの隙間から零れる月明かりが、薄暗い部屋の中で世羅を優しく照らしている。世羅の胸の中に埋もれながら頬を撫でると、世羅は唇で指を這わせてから手の甲にキスをした。その仕草が身体も心も甘く、くすぐり私の胸をとろけさせる。腕枕をしている方の肘を曲げて、私の髪を撫でながら世羅は微笑むように告白をした。「私は、ずっと勘違いをしてたんですね。二回目に会った時、あなたの隣には遠藤さんがいた。そして、皮肉にも遠藤さんはあなたを婚約者と紹介して、あなたも私を見て『初めまして』と言ってきましたよね」「ええ……あの時、私もすぐに気が付きました。でも遠藤の手前、言うことはできませんでした。」「あの時、私はあなたに突き放されたと思ったんです。あなたは、最初から一夜限りの遊び相手を求めていて、それがたまたま私だった、と。そして、そのことを婚約者にバレないように敢えて初めましてと言ったのだと思っていました」「それは、それは違います!そんなことは断じて……」世羅は私の口の前で手の平を見せて言葉を制すように話を続けた。「分かっています。今はもう違うことが分かったので大丈夫です。でも、あの時は婚約者がお金目当てで近付いたことが分かり傷心していた時に、心癒される女性、あなたと出逢った。だけど、その人はただの遊びで一夜限りの身体目当てだったと思ったんです。自分に近付いてくる女性はお金や身体などが目当てだと思うと自尊心がひどく傷つけられた。だから、あなたが声を掛けに来てくれましたが、冷たく当たってしまったんです。あの時はすみませんでした」あの時、別人のように避けるようにしていた世羅を思い出す。冷ややかな目で私を見る世羅を見て胸が痛んでいたけれど、そんな風に感じていたなんて考えたこともなかった。「そうだったんですね……私は、あの時あなたに軽蔑されたのかと思っていました。誤解されても仕方がない状況でしたが、何とかして真意を伝えたかった。今、やっと言えました」すれ違った想いを伝えあったことで、最初からお互いを意識していたことに胸が温かくなる。つい、はにかんだ私に世羅はお
last updateLast Updated : 2025-12-06
Read more

98.美月

美月side月曜日の朝、世羅と一緒にホテル一階のラウンジで朝食をとっていた。平日の朝ということもあり、居合わせるのはスーツを着たビジネスマンが多い。この前は、始発の電車が動き出す朝の五時過ぎにはホテルをあとにしたので、こうしてゆっくりと朝を迎えるのは初めてだった。「名古屋ってモーニングが有名なんですよね。今度、食べてみたいと思っていたんです」「そうだったんですか?それなら、次来た時はモーニングにしましょう。駅周辺以外でもモーニングをやっている店は多いので、そっちの方がオススメです。少し離れたところの純喫茶のモーニングとか雰囲気もあっていいですよ」「いいですね、是非案内して欲しいです」「いつでも。いろんなお店、ピックアップしておきますね」この一夜を過ごしたことで、『次』が曖昧なものではなくなった気がする。これからは『次』を待ち侘びなくても来ることに私の胸は高鳴っていた。部屋に戻って荷物をまとめてから、世羅と電話番号以外の連絡先も交換した。世羅のアイコンは、一眼レフで撮ったように細部まで綺麗にくっきりと映った月と湖畔の写真で、その鮮明さに目を惹かれた。「綺麗な写真ですね」アイコンを見ながら言う私に、世羅は優しく微笑んでいる。「この写真、私が撮ったものでとても気に入っているんです。まるであなたのようだ」「え……?」「だって、月が綺麗に映っている。”美月”だと思いませんか?」美月は写真のことを指している。そう分かっているのに、世羅に名前を呼ばれたような気分になっていた。「これからは、美月とお呼びしても?私のことも下の名前で呼んでください」「はい、もちろん。下の名前、”世羅さん”ですか?」「さんもいらないですよ。ねえ、美月?これからは普通に話して」躊躇いがちに名前を口にする私に世羅は小さく微笑んで頭を撫でる。名前の呼び方が変わったことや少しくだけた口調も、何気ない小さなことなのに、何だか距離が近付いたようでときめいてる自分がいた。
last updateLast Updated : 2025-12-07
Read more

99.座標と軸

美月side年が明けた一月二週目の三連休。この日は理恵と久々に会っていた。喫茶店のテーブルには、温かいコーヒーと甘いワッフルが並んでいる。「そう言えば、涼真とは完璧に終わったの?」「うん。もうやり直すことは出来ないってはっきり言った。連絡もまったく取っていないから会うことはないんじゃないかな。それに、私ね、今、大切な人がいるの」「え?嘘?いつの間に?涼真は、まだ未練があるみたいなことを言っていたけれど、美月にその気がないんじゃ無理か」少し残念そうな顔をする理恵が気になりながらも、私の気持ちはもう世羅に向いていた。本当は付き合っていることもちゃんと言いたいけれど、世羅のことをペラペラと喋るわけにはいかない。世羅は、世間体関係なく一人の人として見て欲しいというけれど、第三者に世羅のことを話す時はそういうわけにはいかない。世羅との交際は、トップシークレット事項だ。「ねえ、話は変わるけど私の強みってなんだろう?何が向いていて、何が出来るのかな?」世羅とのアメリカ行きのことも考えながら、頬杖をついてコーヒーを飲んで溜め息交じり嘆くと、理恵はキョトンとした顔で私を見返している。「え?美月は何でも出来るじゃない。論文とか大学の課題だっていい評価を貰っていたよね?それに美人なところでしょう?でも、美人を武器にしないで、就活と並行して教育実習行って免許とったり頑張り屋なところも好きだよ」指を折り曲げながらスラスラと私のことを褒めてくれるので気恥ずかしくもあり嬉しい。「ふふ、ありがとう。そう言えば小学校の国語の教員免許取ったな。でも、実績とか全くないし」「本当にやりたければ作ればいいじゃない?人より遅いスタートにはなるけれど、美月は誰かと競いたいわけじゃないでしょ?やりたいと思えば、チャレンジしてみればいいと思うけど」「チャレンジか……ありがとう。考えてみる」父の会社のために何かやりたいと思って退職したのに煮詰まってしまい、今度は世羅からアメリカに誘われて、アメリカでやることを探すのは、色んなことが中途半
last updateLast Updated : 2025-12-07
Read more

100.再会

美月side「美月!」新大阪駅は、今日も多くの人で賑わっていて人の波に押しつぶされそうだった。この日、一か月ぶりに世羅のいる大阪へと足を運ぶと、世羅が改札まで迎えに来てくれた。「荷物を持つよ。車を用意してあるから、先に荷物を置きに行く?それとも貴重品がなければそのまま預かって運んでおいてもらうけど」世羅は、私を見つけると小さく手を振って近付くと、手に持っていた泊まり用のバッグを手に持ち、もう片方は私の手を握った。(運んでおいてもらう??)世羅の言っていることがよく分からずに不思議に思っていると、駅を出てすぐのロータリーに、黒の艶が眩しいクラウンが停まっており、黒いスーツを着た男性が誰かを待っているようだった。男性は、こちらに気が付くと丁寧にお辞儀をして駆け寄ってくる。「世羅様、お帰りなさいませ。お連れ様のお荷物をお預かり致します」(え?車って運転手付きだったの?今まで、気にせず話をしていたけれど、やっぱり世羅ってすごい人なんだ)改めて世羅と自分の住む世界の隔たりを痛感しながら車に乗ると、十分ほど走らせて都心に近いタワーマンションが立ち並ぶエリアに入っていき、そのうちの一つのエントランス前で停車させると、先ほどの運転手がすぐさま降りてドアを開けてくれた。マンガの中の世界に自分が入り込んだような気持ちになりながら、地に足がつかないふわふわとした状態で世羅の背中について行く。「どうぞ、入ってください。ここが私の住む部屋です――――」マンションの最上階から見る大阪の景色は、高層ビルがや商業施設が所狭しと立ち並んでいる。そんな景色を上から見下ろすのは不思議な気分だった。「今日は、来てくれてありがとうございます」「いえ、私こそ誘ってもらえて嬉しいです」一か月の間にお互い敬語に戻ってしまっているが、そんな心の距離を縮めるかのように世羅が私の腕を取りそっと引き寄せた。「美月、会いたかった」「私も……、会いたかった」まだ二回しか世羅の胸の中を知らないが、私にとってとても落ち着く場所だ。世羅の匂いや鼓動、温かさに癒されていたが、顔を上げるとどこか浮かない表情の世羅が小さく微笑んで私を見ていた。
last updateLast Updated : 2025-12-08
Read more
PREV
1
...
89101112
...
15
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status