All Chapters of 夜明けと共に忘れるはずの恋だった: Chapter 71 - Chapter 80

142 Chapters

71.本当の自由

美月side涼真には未来を見ると言ったが、実際は何をしたら本当に前に進めるか分からずにいた。(社員の反対を押し切って話しを進めるのは、陸のような独裁者で横暴なのかもしれない)そんな思いが邪魔をして、私の行動を躊躇させている。しかし、このまま立ち止まることは、私にとって『自由を捨てること』と同義だった。「もっと具体的に、ちゃんと形にして周りが納得してもらえる状態になるまでは、提案や周りを巻き込むことはやめて一人で進めていこう」終業後や休日、誰にも相談することなく、私は黙々と殻に閉じこもるように調べ事や見積りなどを取り次の一手を模索した。周りに理解されなくても、孤独でも、私は現状のままでいるのは嫌だった。誰かに社運や自分の人生を握られている状態にはなりたくなかった。表面上は恵まれていると思ったり、第三者からそのように見えるかもしれないが、実際に会社や自分の意思で動けないようなら、それは恵まれているのではなく、魅せ方だけをよくしているだけで実際には縛られているのと変わらない。いくら鳥籠の広さが大きく、餌が豪華になろうと、籠の中にいることに変わりがないのなら、私はその籠自体から飛び出したかった。今、その籠に安心感を覚え、安らげる人がいるのなら彼らはそのままでもいい。私は、籠の中で羽をばたつかせるだけでなく、いつか外に出て羽を伸ばしたかった。本当の自由を手に入れたかった
last updateLast Updated : 2025-11-24
Read more

73.旅立ち

美月side「分かった。ここまで会社が成長できたのも美月のおかげだ。美月の好きなようにしなさい」「ありがとうございます―――――」父は、私の決断を全面的に肯定してくれた。その深い理解と信頼に私は感極まり深々と頭を下げて感謝を伝えた。こうして私は、三か月の引継ぎを経て大学を卒業してからお世話になった父の会社を退職した。退職前に、最後の重要な仕事として、各企業の契約書の内容を弁護士にリーガルチェックしてもらい、内容に不利な点がないか、妥当性があるかなどを徹底的に見てもらった。そして、電子保存に切り替えるという名目で、変更点を記載した紙と一緒に全取引先と再締結を結んだ。これで、異常な下請けいじめや不履行な契約をされるリスクは減るはずだ。会社の法的防御は、私がいた時以上に強固になった。―――――三年前、陸との突然の婚約が決まり地獄の生活に耐える中で世羅との出逢いが私を大きく変えた。現状を受け入れずに戦うことで事態を好転させ、そして婚約破棄や涼真との関係も清算した。会社も安定した収支を上げられるようになり、外部からの攻撃を受けにくい体制にも改善をした。もうこの会社は、私の弱点ではなくなり、誇れる自慢の場所となった。
last updateLast Updated : 2025-11-25
Read more

74.振動

美月sideオフィスを出て、夕陽に照らされた光景を背に私は胸に手を当てて大きく深呼吸をした。そして、そのまま世羅に電話を掛けた。世羅と連絡を取るのは、あの大阪で会って以来、初めてだった。今日は、私にとって人生の大きな転機となる日だ。その報告をどうしても彼にしたかった。プルルルル、プルルルルル―――――何回か着信音が鳴ったが、通話には切り替わらない。(やっぱり忙しいし、番号を知っていても、話をできるとは限らないよね……)諦めて電話を切ったが、繋がった時に話すことを何度も考えていたので、その言葉を口にすることがないと分かるとなんだか急に胸が切なくなった。(次に会った時の約束も、もしかしたら社交辞令かもしれない)そんな不安さえ湧いてきて、世羅のことになると心が人一倍ふわふわとしてしまう。家に着いて自分の部屋に入り、鞄をテーブルに置くと、スマホの画面が明るくなっているのが目に入った。(もしかして電話?折り返しをくれたの!?)慌てて取り出してスマホを表示すると、世羅ではなくアプリからのメッセージで、流行る気持ちは一気に萎んでしまった。その落差に、世羅の存在の大きさを痛感する。そんな時だった、スマホがブルブルと手の中で振動している。長いバイブは着信の合図で、表示された文字は「柳 世羅」だった。(電話に気がついて掛けなおしてくれたの?本当に?)マナーモードの振動と一緒に私の胸も震えている。スライドをして、通話へと切り替えた。「もしもし―――――」「柳です。酒井さん、お電話くれましたか? さっきは出れなくてすみません」世羅の落ち着いた、低く穏やかな声が耳に響いた。(今、酒井さんって……私の番号、登録してくれていたんだ)ほんのちょっとしたことなのに、それだけで萎んでいた気持ちは、水と肥料を得たように上向いていた。世羅が私を認識してくれている。その事実に、私の頬は緩んでいた。
last updateLast Updated : 2025-11-25
Read more

76.クリスマス

美月side「十二月三週目の土曜日は空いていますか?」世羅からそんなメッセージが来たのは、退職の電話をした十日後の事だった。仕事を辞めて準備段階の今、予定はいつも空いている。すぐに返事をして、土曜日に駅で待ち合わせることになった。そして、約束の日――――――街全体がクリスマスムード一色で、ツリーやキラキラとしたオブジェ、イルミネーションの装飾など、賑やかな光が通りを照らしていて、街の華やぎが私の高揚感をさらに煽る。午前十一時半、新幹線の改札口で到着を待っていると、ロング丈のトレンチコートに上品なマフラーを巻いて、キャリーバッグをひく世羅の姿が見えた。世羅は、少し辺りを見渡してから私に気がつくと、小さく微笑んで頭を少し下げた。「柳さん、今日はありがとうございます」「いえ、こちらこそ。お付き合いいただきありがとうございます」『お付き合いいただき』という言葉に、交際という意味ではないと分かっているのに、胸が敏感に反応している自分がいる。そんな様子を世羅には気づかれずに済んだようで、彼は慣れた様子で歩いていく。「先にチェックインだけしてもよろしいでしょうか?」世羅が進んだ先は、初めて
last updateLast Updated : 2025-11-26
Read more

77.モンブラン

美月side「失礼しました。さあ、行きましょうか――――」世羅に言われてついて行くと、エレベーターは下ではなく上のボタンを押していた。到着したエレベーターに乗るようにエスコートされると、世羅はレストランのある階を押して「閉」のボタンを押した。「せっかく会えたのですから、雰囲気のいい店と思いまして」その言葉に下心や打算的なものはなく、ただ純粋にこの時間を楽しもうとしている気持ちが伝わってくる。世羅の視線は、周囲の喧騒ではなく、まっすぐに私に向けられているような気がして心が温かくなった。このホテルで食事をしたのは、陸との婚約を承諾して初めて会った時以来だ。あの時は婚約をしたばかりだというのに、会話という会話もなく、自分の食事が終わると席を立って帰ると言われたのだった。まだ食べかけのモンブランと温かいコーヒーを横に見てから、焦るように陸の背中を追い、料理を味わうことなんて出来なかった。そのまま予約していた部屋につれていかれ、自分がお金で買われた気分になる屈辱的な夜を味わった。そんな苦い思い出のある店に、今日は世羅と訪れている。(もう、ここは嫌な思い出の場所ではない。陸とのことは忘れて、今を、これからを楽しもう――――)ガラス張りのレストランは、冬の低くなった太陽と店内のシャ
last updateLast Updated : 2025-11-27
Read more

78.リサイタル

美月side料理を注文してから、世羅は大阪での研究の話、私は退職までに至った経緯など、お互いの近況を話し合っていた。私の独立の決意を世羅は真剣に聞いてくれ、私の決意を褒め称えてくれた。古くからの友人でもなく、不思議な接点で繋がっている私たちは、いつも会うと最初はよそよそしく見えない壁があるような距離を感じる。しかし、知りすぎていないからこそ話せることもあると、私は感じていた。この付かず離れずの心地よい関係が、私たちの心を結びつけている。レストランの奥にはグランドピアノが置かれており、ステージではピアノ奏者とヴァイオリン奏者がクリスマスソングを奏でていた。「素敵な音色ですね」「ええ、そうですね。素晴らしい」そう話をしていると、前菜を持ってきてくれたウエイターに私たちの会話が聞こえたようで、彼らの所属する楽団のリサイタルが明日行われることを教えてくれ、配膳が終わった後にチラシを持ってきてくれた。「ピアノ奏者 星野 舞によるクリスマスリサイタル」と書かれたチラシには、ネイビーのドレスにビジューがキラキラと輝く、満天の星空をイメージしたようなドレスを着た綺麗な女性がピアノを弾いている写真が大きく映っていた。私は、曲目のリストに目を通していたが、世羅はリサイタルの話になりチラシを受け取ってから、いつもの温和な笑顔が消えて顔が険しくなっていて、チラシもろくに見ようとしなか
last updateLast Updated : 2025-11-27
Read more

80.スイートルーム

美月side「彼女はリサイタルで知名度を上げるため、彼女の両親は会社を売ったあとの生活を安定させるため、そして私の親族は、特殊技術を手に入れるため、それぞれが、思惑や目的がある中で動いていた。知らないのは当事者である私だけでした。そして、彼女は僕の財力でリサイタルを成功させ、世間への露出を増やすことだけを考えていた」「そんな……」「あなたに会った日、出会った時から早く結婚を望んでいた彼女に、改めてプロポーズをする予定でした。しかし、彼女に会って話をしていたら、しばらくすると知人だというスーツを着た男性があらわれた。彼は単なる知人ではなく、今度のリサイタルの責任者で、話が進むにつれて、金額の話をしてきて最後にサインを求められました」世羅の口調は、あの日の裏切られた屈辱をありありと伝えていた。「私が知らないところで詳細な打ち合わせも済まされていることに、彼女への不信感が増して問いただすと、このリサイタルも契約に入っていると言ってきたんです。『契約』の意味が分からない私でしたが、その場で彼女や自分の両親に話を聞いて、すべての真実を知ったんです」名古屋一等地にあるシティホテルのスイートルーム――――――本当だったら、あの日あの場所で婚約者である星野舞と一夜を過ごす予定だったのだろう。プロポーズをする特別な日だったからこそ、あの豪奢な部屋を選んだはずが、リサイタルの話ですべてを失ってしまった。
last updateLast Updated : 2025-11-28
Read more
PREV
1
...
678910
...
15
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status