All Chapters of 夜明けと共に忘れるはずの恋だった: Chapter 101 - Chapter 110

142 Chapters

101.舞の要望

美月side「世羅?どうかしたの?何かあった?」私の言葉に世羅は困ったように少し戸惑いながら口を開いた。世羅の瞳には、再会の喜びとは別の重い憂鬱が宿っていた。「実は、星野家が、いや正確には舞が復縁を求めてきて。前回、今後のリサイタルは柳グループとして一部費用を負担するという話で決着がつき、正式に婚約破棄をすると示談書も書いたのですが、それを無効にしたいと言ってきたんです。どうやら私が前回全額払ったことに味を占めて、一部負担だけでは物足りなくなってしまったようで……」「それで、復縁って……。人を何だと思っているの?」彼女の強欲さに腹が立ち声を荒げた。世羅の優しさや誠実さを、舞はただの金銭的なATMとしか見ていないのかと思うと許せなかった。(世羅が、この一件でどれほど傷ついたのか考えたことないの?自分のことにしか興味がないんだわ……)「はい。それで書類を理由に断ったのですが、本人が納得しないんです。会社の買収も強引にしてきたとメディアに流すと言ってきて。もちろんそんなことはしていませんし、何回も交渉や契約や話し合いの末に合意したことです。ただ……」世羅は顔を曇らせ、最上階の窓の外にある大阪の街並みに視線を向けた。その表情は、深い疲弊を表していた。
last updateLast Updated : 2025-12-09
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102.真の願い

美月side「メディアに流すのは迷惑行為に値するとは警告しているのですが、まだ一回目なのでこちらも強く言えない状態でして。相手がこのまま引き下がってくれればいいのですが。しばらくは様子見になりそうです。すみません、来てもらって早々にこんな話で……」「いえ、もし何か出来ることがあったら言ってください。私は応援していますし力になりたいです」私が、世羅の手をそっと包み込むと、世羅はさきほどよりも少し柔らかい笑顔で微笑み返してくれた。「ありがとうございます。なんだかまだ癖が抜けなくて、仕事がらみになるとつい今までの口調に戻ってしまう。言葉遣いを変えるの難しいですね」世羅は、そう言って努めて明るく振る舞おうと冗談めかして微笑んでいるが、無理をしているようで胸がなんだか切なくなった。「そうですね、柳さんって言いそうになりました」その気持ちはそっと封印して、世羅につられるような形で私も小さく微笑んだ。「そのため、しばらくはまだ国内になりそうです。これで、今やっている研究を最後までやり遂げられるかもしれない。そう思うことにします」半分本音でもう半分は自分に言い聞かせるように世羅は力なく呟いている。目の前の希望が閉ざされたときのやり場のない虚しさや、この気持
last updateLast Updated : 2025-12-09
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103.試される実力

美月side「演奏家として活躍……仰る通りかもしれません。でも、現時点では演奏家として生活していくには難しい状態のようです。私も音楽には全く知見もないですし、出来ることはない状況です。どんなことを考えているのですか?」世羅は途方に暮れていたようで、解決の糸口を探すために真剣な眼差しで私の言葉を聞き入っていた。「仰る通り、彼女は実家や世羅さんの支援がないと演奏が出来ない状態です。両親の会社も手伝っていたようですし、演奏家としての仕事も少なかったのかもしれません。だから、彼女に活躍の場を作るんです」「活躍の場?でも、それは先月のリサイタルで……」「彼女が開催するリサイタルでは、場所も同じで楽団の関係者や招待客など固定客しか来ません。それでは、新しい人の目に止まるのは難しい。だから、多くのピアニストの一人として埋もれていた彼女を日の目が当たるようにバックアップするんです。柳グループのパーティーや、スポンサーになってくれそうな資産家の集まりの場で彼女に演奏をしてもらうのはどうでしょうか?」私の提案の意図を測るように、世羅は顎に手を当てて考え込んだ。「そんなことをしたら、彼女はますます私や柳グループの力を利用したりしないでしょうか?」「ええ、だからチャンスは一度だけです」
last updateLast Updated : 2025-12-10
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104.大規模パーティー

美月side「もし、開催が決まったらその時は美月も来てくれる? 僕の大切な人として紹介したいんだ」「ありがとう。だけど変な誤解を招かないように紹介は彼女のことが終わってからにしましょう。招待客としてありがたく参加するわ」「分かった。場所は名古屋にしようか。東京と大阪からの中間地点だし、美月や彼女も名古屋に住んでいる。活動拠点に近い方が今後の仕事面でも良いだろう。もし良かったら、美月のお父さんたちも招待するよ。新しい会社と知り合うことでビジネス面にもプラスになるかもしれないし」「ありがとう……。父もきっと喜ぶわ。舞さんの問題、上手くまとまるといいわね」「ああ。研究のこともそうだけれど、婚約がまだ続いた状態だと僕と美月の関係も公に出来なくなる。だから、舞とは出来るだけ早く関係を解消したいんだ」世羅は、私の腰に手を回して優しく引き寄せた。その瞬間に彼の腕から香る柔軟剤のさわやかな香りが私の鼻を優しくくすぐった。研究の事だけでなく私の名前が出たことも、私の心を大きく跳ねさせる。「私、やっぱり今まで頑張ってきてよかった。今、こうして世羅といられてとっても幸せ」世羅の胸に顔をうずめて、この幸せを噛みしめていた。それから一か月が経ち、三か月後の五月のゴールデンウィーク明けに柳家主催
last updateLast Updated : 2025-12-11
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105.大勝負の一日

美月side五月のGWが終わり第三週の土曜日、この日柳家主催のパーティーが執り行われた。会場となったのは、名古屋駅を出てすぐの格式高いホテルだ。煌びやかなシャンデリアの下、招待客の賑わいが渦巻いている。世羅の配慮で、私の父や父の会社の幹部も招待してもらった。「美月のお父さんの事業に近い業者を同じテーブルにするように頼んでおいたから、上手くいけば仕事に結びつくかも」事前に、同じテーブルになる企業三社を教えてもらって父に話すと、私が柳グループとコネがあることに不思議がっていたが、新しいビジネスチャンスにとても喜んでいた。幹部たちも交えて先方のことを事前に調査して、縁があれば提案できるように準備すると張り切っている。私がいなくなったあとも、父の会社は順調に経営をしており利益が毎年増加していた。更なる発展のために、販路拡大や新規営業先の紹介は願ってもいないプレゼントで、自分のことでいっぱいだろうに、私や父のことを考えてくれる世羅の優しさと影響力の大きさに、改めて感謝をした。パーティーが始まり司会者の女性が舞のことを経歴も踏まえて紹介すると、大きな拍手に包まれながら、舞は気合十分な衣装とメイクで壇上に上がった。この日のために用意したグランドピアノで演奏をした。彼女の演奏は、繊細でありながらサビの部分になると迫力のある演奏になり、音の強弱や雰囲気の転換などが素晴らしかった。舞の演奏に聞き入り、ピアノの音だけが大きな会場に響いている。彼女がこの一回に全てを懸けている
last updateLast Updated : 2025-12-12
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107.因縁の相手②

美月side会場に出て、通用口のような人気のない場所に連れていかれると、私は陸に迫られ背中を壁につけて対峙していた。顔の横には陸の肘があり、壁ドンのような状況で退路を断たれている。「まさか、ここで会えるとはな。やっぱり会社には俺の力が必要だったようで、四月から名古屋に戻ってきたんだ」「そんな……」陸の言葉が私の心を深く沈ませた。陸の存在そのものが私の過去の悪夢を呼び覚ましてくる。「お前もまだ父親の会社にいるんだな。これからまたたっぷりと可愛がってやるから、楽しみにしておけよ」陸は、顔を近づけて耳元で囁いてきた。耳元から聞こえる彼の声や吐息は、ゾクゾクとした憎悪で一瞬にして身体中を駆け巡っていた。陸がいなくなったうちに、会社が自走できるようになればいいと思っていたが、陸の帰還は、私が思っていた以上に早かった。また、うちとの取引に陸が関わるとなったら何が起こるか分からない。父の会社に再び不当な圧力がかかるかもしれない。一瞬だけ不安を感じたが、それ以上に、陸の傲慢さと気味の悪い笑みに不快感を覚え、私は『陸が知っている過去の私』と決別するために、敵意を持った視線と、決然とした笑顔で陸に言い返した。「私は、父の会社を退職してもう社員ではありません。そ
last updateLast Updated : 2025-12-13
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108.心の負担

美月side「美月……どこに行っていたんだ?大丈夫だった?」長い廊下を歩き、会場へ戻ろうとすると、息を乱した世羅に腕を掴まれた。彼の顔には、焦りと心配が滲んでいた。「世羅?なんでここに?」「美月が、遠藤さんと話をして会場の外に出ていったのを見かけたんだ。心配になって後を追ったんだけど、外に出た時には美月の姿が見当たらなくて探していたんだよ。近くにいてあげられなくてごめん。大丈夫だった?」「心配かけてごめんなさい。実は、陸が名古屋に戻ってきたそうなの。色々言われたけれど、もうあなたの言いなりになんてならないってハッキリ言ってきたわ。だから大丈夫」世羅の顔から不安の色はまだ消えないが、それでも笑顔で話す私を見て、少しばかりホッとしたように肩の力を脱力して小さく微笑み返してきた。「そうか。自分の思いをちゃんと口にしてきたんだね。もし、何か困ったことがあったら言って。その時は、僕が遠藤さんと話をつけてもいい」「ありがとう。出来るだけ自分の力で頑張ってみるけれど、困った時は相談させて」「ああ。美月の強さには感心するけれど、一人で抱え込み過ぎないで。僕が側にいるってこと忘れないで遠慮なく頼ってきていいから」
last updateLast Updated : 2025-12-13
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109.最悪の鉢合わせ

美月side舞は、私と世羅の親密な雰囲気を察したのか、ほんの一瞬、威嚇するような視線を私に投げかけてきた。しかし、すぐに世羅へと視線を戻すと妖艶な笑顔で世羅に握手を求めて手を差し出してきた。戸惑いながらも世羅が握手に応じると、舞はニヤリと口元を上げてそのまま世羅の胸の中へと飛び込んでいった。腕をしっかりと背中に絡ませて、顔だけを上げて世羅に甘えるように見つめている。「今日はありがとう。こんな場所で演奏できたのもすべて世羅のおかげよ。今までごめんなさい。やっぱりあなたがいてくれて良かった。そして、あなたも私の事を思っていてくれたのね」舞の言葉に、世羅は不快感を露わにして両腕で彼女の身体を引き離し、彼女との接触を拒んだ。「勘違いしないでくれ。君のためではない。それに、会社を盾に脅してきたり迷惑行為をしているのは君だろう。君にはもう気持ちなんてない。困り果てていた、という意味では忘れられなかったけれどね。今後の健闘を祈るよ」世羅の冷徹な言葉は、舞の自己愛を粉々に砕いた。「待って。私たち、本当に終わりなの?もう他の女性がいるの?……まさか、その隣にいる女がそうなの?」舞は殺気だった目で私の腕を掴むと、睨みつけるように世羅に問いただした。舞の行動に近
last updateLast Updated : 2025-12-14
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110.陸の反撃

美月side「さっきの話はどういうことだ?俺は、あんな回答じゃ納得しないからな」怒りに満ちた目で問い詰める陸に、私は軽蔑する瞳で低い声で冷静に否定をした。この場で彼に付き合っている暇はない。「柳さんが言った通りよ。私があなたと婚約破棄したのは、あなた自身の行動が理由よ。もしもっと詳しく教えて欲しいなら、柳さんや他の方の前でもお話をするけれど、そうなったら困るのは、あなたじゃないの?」毅然とした態度で『過去の不正』を示唆すると、陸は一瞬たじろぎ、顔に微かな動揺が走った。この場で醜聞を暴露されることは、陸のプライドとキャリアにとって致命傷になる。分が悪くなった陸は、言い返す代わりに鋭い視線で睨み返している。その様子を世羅は冷ややかな目で見ていた。「チッ……じゃあ、なんでお前がここにいるんだ。お前なんかがここに来れるわけないだろう」その言葉に、世羅が私を庇うように一歩前に出た。その行動だけで、私と世羅の関係性が『招待客』と『主催者』以上の親密なものであることを示している。「私が招待しました。名古屋の医療関連の企業は声を掛けていますが、彼女の会社は他の件でも関わりがありましてね。本日招待した名古屋の企業とは理由が少し違います」世羅は、言葉を選びなが
last updateLast Updated : 2025-12-14
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