All Chapters of 夜明けと共に忘れるはずの恋だった: Chapter 81 - Chapter 90

142 Chapters

81.決戦前日

美月side「そう、だったんですね」「ええ。明日、すべて片付けてくる予定です。でも、それだけのために来るのは気が重かった。あなたが連絡をくれて良かったです。名古屋に来るのが少し楽しみになりました」「そんな……」「変な話をしてしまってすみません。せっかくの料理が冷めてしまいましたね。いただきましょうか――――――」世羅は、何事もなかったかのように気丈に振る舞い、ナイフで一口大に切って上品に口へと運んでいく。世羅の笑顔が無理をしているように見えて切なかったが、なんと言葉をかけていいか分からず、私も静かに料理を口に運んだ。世羅が抱えていた深い孤独と闇を理解すると同時に、そんな大切な決戦の前日に私と会うことを選んでくれたことに、言葉にできないほど感謝していた。私たちは、傷つけられた経験と孤独という、周りが知ることのない深い共通点で繋がっている。「あなたが退職したと連絡をくれた日、私はあなたの行動力に感激したんです」「感激、ですか?」メインディッシュの和牛のヒレを食べていると、世羅が透き通った声で私に話しかけてきた。私が世羅に感激することはあっても、世羅が私に対してそのような感情を持つなんて不思議で仕方なかった。
last updateLast Updated : 2025-11-29
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82.弱さと不安の吐露

美月side「そんな、私は決して強くありません。柳さんは関係ないと言いますが、私が前を向けたのは、やっぱりあなたとの出逢いのおかげなんです。あなたと出逢っていなければ、きっと今も遠藤の元で、悲しみにくれながらも歯を食いしばって耐えていたと思います。今日、こんな素敵な場所で美味しいお料理を食べることもなかった―――――――。だからやっぱり、私はあなたに出逢えたことを感謝してもしきれないんです」私の言葉に、世羅は肩の力が抜けたように、ふっと柔らかく微笑んだ。その笑顔は、これまでのどの表情よりも穏やかで心の奥底からの安堵が窺えた。「良かったです。僕でも誰かの力になれているんですね」「それに私と柳さんでは、立場が全く違います。柳さんほどの方なら背負うものも多いでしょうし、簡単に決断できないのも無理はないです。それに、私の退職も、柳さんが思うほどかっこいいものではなくて……」会ってすぐに退職のことを話した時は、志が高いが故の決断と聞こえるように、少し誇張した部分もあった。しかし、世羅の孤独な告白を聞いて、もう世羅に虚勢を張るのは辞めようと思った。社内からの反発の声や、まだ具体的な計画はないが、このまま遠藤製薬の影響が大きいままの状況で燻るのが嫌で迷惑をかけないために退職したと、ありのままに話をした。「そうだったんですね、難しいですね。私には、変革を求める酒井さんの気持ちも、安定を求める従業員の気持ちも分かる。誰だって変化を受け入れるの
last updateLast Updated : 2025-11-29
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83.藻掻く鳥と尊敬の念

美月side「……成功が確実だと思えないとスタートを切れないなら、起業家は生まれてきませんし、社会や文化は変わりません。だから酒井さんのような熱意を持った方も、今あるものを守る立場の人も両方必要なのだと思います」私を励ますように真剣な顔で語りかけている。世羅に言われると、前を向いていていいのだと背中を押してくれているようで、なんだか強くなれる気がした。「僕は、酒井さんのようになりたいと思いながらも、遠くで指を咥えて見ているだけなので、やっぱりかっこいいです」鳥籠の中で闇雲に羽をばたつかせて藻掻いている私をかっこいいと言う世羅。周りから見たら、大人しくしていれば餌も与えられるこの環境で必死に動き回るのは滑稽に見えるかもしれないのに、世羅の言葉は私の生き方を肯定してくれたようで嬉しかった。「柳さんは、家柄とか関係がなくなったらどうしたいのですか?心の中にどんな想いが宿っているのですか?」私が問うと、世羅の手がピタリと止まり、手を膝に置いて真剣な顔をした。その端正な顔立ちに見惚れながら、今度は私が、柳グループの御曹司ではない、柳世羅という一人の男性として対峙する。しばらくの沈黙の後、世羅はゆっくりと口を開いて、胸の内に秘めていた気持ちを言葉として外に出していった。「僕は、今の研究が出来る環境に感謝しています。研究こそがやりたかったことだと
last updateLast Updated : 2025-11-29
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84.寄り添い

美月sideメインディッシュを食べ終わると念願のモンブランが運ばれてきた。糸のように繊細で細く、飴細工のような芸術的な美しさも兼ね備えている。うっとりと見つめる私に、世羅は見守るように微笑んでいる。「綺麗……」「あなたは表情豊かだ。それでいて真面目な話も出来て、とても楽しい。今まで周りに言わなかったこともつい話してしまい、自分の本心を知る機会にもなります」「良かった。私は柳さんと一緒に過ごせてとても嬉しいので、柳さんにとって私が少しでもプラスの要素があるのなら光栄です」「もし、今日、あなたに会えてなかったら、ここで同じように食事をしたとしてもこんなに美味しいと思えていないでしょう。もしかしたら、あの演奏を聞いて店を出ていたかもしれない。すべてあなたのおかげです」自分が思っていたことと同じことを言う世羅に、心が温かくなる。同じ食事でも、誰と食べたか、どんな雰囲気だったかで感じ方は全く異なる。陸とここに来た時は、せっかくの高級食材もなんだか味気なく、食べた気がしなかった。今日、世羅と来て初めてこの店の『味』を知ることが出来て、嫌な思い出は世羅との楽しい想い出に上書きされていた。繊細なモンブランを一口食べ、その優しい甘さを噛みしめた。「柳さん、も
last updateLast Updated : 2025-11-30
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86.夜の狭間

美月side世羅の元婚約者の星野舞のことを調べると、リサイタルのページが一番トップに表示され、市民文化会館のホールで午後一時半から四時半までの三時間の公演と記されていた。(柳さんのことだから、彼女のメンタルが演奏に影響しないようにこのリサイタルが終わってから話をするんだろうな。そうすると夕方以降になるよな……)世羅から連絡が来ると決まったわけではないのに、いつ来ても気がつけるようにと肌身離さずスマホを持ち歩いてそわそわしていた。自分の起業準備に集中しようと思うのに、世羅のことが頭から離れずに全然進まない。午後五時を過ぎてリサイタルが終了している時間になったが、世羅からの連絡はなく、一時間、二時間と過ぎても私のスマホは静かなままだった。(連絡がないということは、無事、話し合いが終わったのかな。穏やかに済んだならいいけれど……)そんな風に思い、私は少しの安堵と落胆を覚えながら、お風呂に入り、ぼんやりと昨日の世羅との会話を思い出していると、午後八時半にスマホが突然着信を告げた。「えっ……もしかして世羅?え、今?」ザバンッ――――――湯船から勢いよく立ち上がると、お湯は波を立てるように前後に揺
last updateLast Updated : 2025-11-30
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88.伝えたい想い

美月side「柳さん……。お気持ちはお察しします。でも、あなたはもう自由です。だから、そんな人たちの事に気を取られる必要はありません。望まない結婚を免れたことで、柳さんのこれからの長い人生が救われたんです」私は、彼の手にそっと自分の手を置きたい衝動を抑え、言葉に全ての思いを込めた。「……ありがとうございます。話が終わって良かったと思っているのに、どうも心がスッキリしなかったのですが、あなたの言葉で気持ちが軽くなりました。落ち込んでいるわけではないのですが、なんだかあなたに話を聞いてもらいたくて」「良かったです。柳さんがどうしているかずっと気になっていたんです。だから、今日会えてよかった」今日一日、世羅のことが気になって仕方がなかった。いや、今日だけじゃない。世羅と出逢ってから、つらい時や悲しいとき、現実逃避をしたいとき、思い浮かべるのは世羅の顔やかけてくれた言葉だった。「実は、昨日、あなたと食事をして別れたあとにずっと考えていたことがあります。大阪に戻る前に、そのことをどうしてもあなたに話したかった」「私にですか?」「今日連絡したのは、この話を伝えることが目的でした」(私と会ったあとに、ずっと考えていたこと?もし
last updateLast Updated : 2025-12-01
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89.決心

美月side「酒井さんと話をして決心がつきました。私はこの先、研究に専念したい。しかし、国内で叶えるには資金面や施設などの問題で限界があります。だから、アメリカに行って、アメリカの研究医療チームの中で、今まで行ってきた私のすべてをぶつけることにしました」「そう、ですか」世羅がアメリカに行くこともショックだったが、もしかしたら愛の告白かと一瞬頭をよぎり、舞い上がってしまった自分が恥ずかしく、すぐに冷静さを取り戻した。(そりゃ、そうだよね。世羅と私は、そもそも住む世界も違う。元々交わらない運命だったはずが、ちょっとした掛け違いによって出逢っただけだもの。世羅のこれからの世界に私がいると思うこと自体、おこがましいんだ……)そっと自分自身をなだめる私だったが、世羅は私の反応を観察するかのようにじっと見ていた。意を決して伝えてくれた言葉が「そうですか」の五文字だけではあまりにも素っ気ない。「やっぱり柳さんは、考える世界のスケールが違いますね。海外を視野に入れているなんて、私には真似できない。だけど、私は柳さんのことを応援していますし、柳さんなら出来ると信じています」「ありがとうございます――――。そう決断できたのもあなたのおかげです。まだ大阪のことも途中ですし、叶うか分かりませんが、目途がついたら上の者と話をしてアメリカへの異動を希望します。もし駄目だったら、柳グループ以外の場所に身を置く覚悟でいます」
last updateLast Updated : 2025-12-02
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90.誘い

美月side店を出ると、身体に突き刺さるような冬の寒さが私を襲う。コートを羽織っていても首や耳のほんの少しの隙間から冷気が入り込んでいた。しかし、その寒さ以上に、隣を歩く世羅の存在が私の心を占めていた。「さっきの話ですが、もし希望が叶ったら早ければ来年の九月からアメリカになるでしょう。準備期間も含めると七月には渡米になると思います」「あと七か月ですか……」寂しさを押し殺して答える私に、世羅は立ち止まってから深く息を吸った。「はい。あの、それで……もし、酒井さんが今、新しい環境を求めているけれど、道に迷っているようならば、私と一緒にアメリカに行きませんか?」「え……」世羅の口から出た予想外の言葉に、頭の中が真っ白になって言葉が出なかった。「無茶な提案だと言うのは分かっています。でも、僕はあなたといると強くなれる。あなたは、私に前を向く勇気をくれます。だから、側にいてくれたらこんなに心強いことはない」世羅と私は住む世界が違う。だから彼の思い浮かべる未来に私がいることなんてありえない、そう言い聞かせていた。それだけに、世羅の言葉は私の感情を大きく揺さぶって刺激する。世羅の言葉が、私の心を打ち
last updateLast Updated : 2025-12-02
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