All Chapters of 夜明けと共に忘れるはずの恋だった: Chapter 121 - Chapter 130

142 Chapters

122.決断

美月side「佐藤さん、遠藤製薬とはまだ来客対応中?今から事務所に向かうから、社長にも伝えておいてもらえる?」「分かりました。ありがとうございます……。本当に、助かります」佐藤さんの切羽詰まった声が事態の深刻さを物語っていた。私はバッグの中で、パスポートの入ったケースを強く握りしめる。この小さな手帳には、世羅と共に歩むはずの未来が詰まっている。けれど、陸の暴走を無視してこのままアメリカに逃げることなんて私にはできなかった。陸の目的は私だ。父や祖父、先代が守ってきた会社と、そこで働く人々を私の過去の因縁で壊させるわけにはいかなかった。タクシーを拾い事務所へと急ぐ。信号待ちをしている時、どうしようもなく不安に襲われ、向き合う勇気が欲しくて世羅に電話を掛けた。長いコール音の後にようやく繋がり、世羅の落ち着いた声が聞こえてきた。「もしもし、お仕事中にごめんなさい。今、少しだけ大丈夫?」「ああ、今日は休暇をもらっていたんだ。どうしたの?」「ありがとう。……今、父の会社に陸が来てまた無茶な要求をしてきたらしいの。これまでの嫌がらせよりも規模が大きくて簡単に片付かないかもしれないの。だけど私、ちゃんとこの問題に向き合って解決してから行きたいの。だから、すぐには行けないかもしれないけれど……私のこと、待っていてくれないかな?」
last updateLast Updated : 2025-12-21
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123.脅迫と暴走

美月side見慣れたはずのオフィスビルが、今日はひどく冷たく威圧的に見える。エレベーターを降りて廊下を進むと、フロア全体に異常な緊張感が漂っている。同情、期待、そして微かな恐怖など社員たちの視線が一斉に私に集まってきた。奥の応接室からは、陸の高圧的で傲慢な声が漏れてきた。 「ああ、美月、待っていたよ」扉を開けると、陸がソファに深く腰掛けて足を組み、まるで自分の城であるかのように不遜な態度で私を迎えた。「……いい加減にして。こんな卑劣な真似をして一体何が望みなの」怒りで震える声を抑え冷徹な視線を陸に叩きつけた。陸は立ち上がり、獲物を慈しむような歪んだ笑みを浮かべて、ゆっくりと私に近づいてくる。「望み?もう誰かから聞いたんじゃないか?だからお前はここに来たんだろう?」「お前をここの社長にするんだ。遠藤製薬の傘下に入ればこの会社も安泰だ。お前は俺のそばで、子会社の社長として、そして妻として遠藤製薬とこの会社と従業員も守っていればいい。俺はお前に社長の地位もプレゼントしてやると言っているんだ。こんなこと出来る奴はいない。さっさと俺のところに戻ってくるんだ」その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かが弾けた。この男は、どこまで行っても自分の行いを愛
last updateLast Updated : 2025-12-21
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124.救世主

美月side「ふざけるな!俺が今までお前に注いできた金と時間を何だと思っている!一流の教育、高級な衣服、そしてこの会社の安泰……すべて俺が与えてやったものだろうが!」「それがあなたの傲慢なのよ。あなたは私に何かを『与えた』つもりでいるけれど、実際は、私の自由と尊厳を『奪っていた』だけ。あなたが私を社長に据えようとするのは、私のためじゃない。自分にとって最も都合の良い場所に、私を飾り立てて閉じ込めておきたいだけでしょ?」「……いいか、美月。そんな生意気な口を叩けるのも今のうちだ。俺が本気でこの会社を潰そうと思えば、一週間もかからない。お前の父親も、今外で震えている社員たちも、全員路頭に迷わせることになるんだぞ」陸は再びソファに座り直し、勝ち誇ったような冷ややかな笑みを浮かべた。「お前が俺の提案を飲めば、誰も傷つかない。お前はただ、俺の妻として、この会社の『顔』として微笑んでいればいい。それがそんなに嫌なことか? アメリカで言葉も通じない異国人に日本語を教えるなんて不安定な生活より、よっぽど賢い選択だろう?」陸の言葉には、私の努力を「無意味な遊び」と断じるような響きがあった。私が世羅と一緒にアメリカへ行き、新しい道を進もうとしていることをどこかで嗅ぎつけていたのだ。「……やっぱり、あなたは何も分かっていないのね。私はもう、誰かに用意された椅子に座るだけの人生は選ばない。たと
last updateLast Updated : 2025-12-22
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125.救世主②

美月side「ふん、柳グループがこんな弱小企業に何の用があるんだ? もう手遅れなんだよ。買収に必要な内部資料も役員の合意を取り付けるための裏工作もすべて完了している」陸は勝ち誇ったようにタブレットを世羅に向けた。しかし、世羅は眉一つ動かさず冷徹な笑みを浮かべた。「その『完了した』という資料、私の部下が作成したものですよ」「……何だと?」陸の表情が凍りついた。世羅が合図を送ると、陸のすぐ後ろに控えていた遠藤製薬で父の会社の担当をしていた田中という男が一歩前に出て、陸ではなく世羅に向かって深々と頭を下げた。「遠藤専務、お疲れ様です。……いえ、柳常務、ご報告の通り全ての証拠が揃いました」「田中……お前、裏切ったのか!?」「裏切ったのではありません。私は元々、柳グループから送り込まれた人間です。遠藤製薬が酒井さんの会社に対して不当な圧力や強引な取引をしていると聞いて調査をしに来たんです。最も、柳グループに所属していますが、私の親族は公正取引委員会の幹事を務めています。今回の強引な買収工作や過去の取引についても、証拠はすべて把握しています」陸が今回の工作の全権を任せていた部下は、実は世羅が仕掛け
last updateLast Updated : 2025-12-22
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126.世羅の裏の顔

美月side「遠藤製薬の件、驚いた。まさか柳グループの人を送り込んでいたなんて」陸がいなくなったあと、世羅と事務所を出て歩き出した。私の隣を歩く世羅は、いつもの穏やかな表情に戻っていたけれど、その背後にある柳グループ常務としての冷徹な戦略眼を知り、私は少しだけ背筋が伸びる思いがした。「名古屋は、うちのグループとしても三番目の拠点としてこれから発展していきたい地域でもあるからね。地域に根強い会社の調査や権力のある会社については独自に調査をしていたんだ」「そうだったの。そこで影響力が大きいのが遠藤製薬と舞の会社だった」初めて聞く話に驚いていると、世羅は難しい顔をしながら話を続けた。「舞の会社は買収をして、遠藤製薬とも円満な関係を築きたい――当初はそう思っていたんだ。だけど、遠藤製薬の下請け業者である美月から遠藤陸の話を聞いて、非常に危険な会社だと思ったんだ。実態を調査するために田中を送り込んだんだよ」「世羅って常務だったの? 研究員じゃなかったの?」柳グループの家系に育ったことは知っているが、世羅は研究一筋で経営には携わっていないと思っていた。だからこそ『常務』という肩書きに驚きを隠せない。「ああ、一応ね。研究は僕が一番やりたいことだけれど、研究で分かったことを製品として
last updateLast Updated : 2025-12-23
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127.新しい世界

美月side「ああ、この前のパーティーの時に遠藤は彼女に『一緒に協力して僕と美月を引き離そう』と持ちかけたみたいなんだ。その時に、彼は舞に美月の会社の買収案を伝えたそうだ」世羅は舞のことを考えたのか一瞬だけ無言になってから言葉を続けた。「でも、彼女はそれを断って僕に知らせてくれた。彼女も彼女なりに僕との過去にケリをつけたかったのかもしれない。遠藤さんのやり方は彼女から見ても常軌を逸していたんだろうね」「そうだったの」「彼女は『あの男は、とことん叩き潰さないと湧いてくる厄介なタイプ』だと言っていた。だから余計に心配になって。今日、美月の会社に行くと田中から連絡を受けて、嫌な予感がして休みを取ったんだ。何もなかったら遊びに来たことにすればいいと思っていた」陸が企てていた陰謀は、私が知らないところで、世羅のネットワークとかつて敵だと思っていた舞の手によって封じ込められていたのだ。「私、何も知らなくて……世羅に守られてばかりだね」「そんなことないよ。美月が今日、自分の足で事務所に来て自分の言葉で彼に引導を渡した。それが一番重要だったんだ。僕のしたことは、ただその舞台を整えただけに過ぎない」世羅は私を抱き寄せて優しく包み込んだ。
last updateLast Updated : 2025-12-23
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129.陸の告白②

美月side「それに、愛する女に最高の環境を与えるのは男の務めだ。そんな男に黙ってついてくるのが女ってものだろう? 俺は、お前に教養や経験を与えてやった。全てはお前の成長のためだ。今は分からなくても数年後、お前は俺に感謝する日が来ると思っていたのに裏切るようなことを……」「本当に愛しているなら、周りの人がいる前で私の事を罵倒するような言葉なんて出てこないはずよ」「それは、夫婦間のじゃれ合いみたいなものだろう」「……まさか本気で言っているの?」「バカだなと言っても、それでも俺はお前を見捨てずに仕事でも使い続けた。それが信頼や愛情の証だってなんでお前は気が付かないんだ?」その言葉を聞いて、心の底からこの人とは一生分かり合えないと確信した。陸は、最後まで自分の思い描いた夫婦像だけを見て、私の心を一切見てはいなかったのだ。「陸、あなたは最後まで私自身を見ようとしなかった。三億の結納金や高級なエステよりも、私はただお互いを信頼して想い合えるような関係が欲しかったの。彼は、私を自分の思い通りに操縦しようとはしない。私の隣を一緒に歩いてくれる。問題が起きたら一緒に考えようとしてくれるし、私の考えを聞いて尊重してくれる。私は、柳さんと一緒にいたいの。それに、あなたといても私は幸せにはなれない」「なんだって?俺はお前の事だ
last updateLast Updated : 2025-12-24
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130.新しい場所

美月sideパスポートを提示しゲートをくぐると、その瞬間、長い間私の心を縛り付けていた鎖が、音を立てて砕け散ったような気がした。搭乗口へと向かう動く歩道の上で、世羅が私の手をそっと握り直した。「……大丈夫?」「ええ。なんだか、すごく心が楽になった気分。私が自由でいられるのも世羅のおかげ。父の会社のことも陸のことも、全て私を縛り付けていたしがらみを取り払ってくれた。だから、ここにいれるの」「そうか。良かった。これからは誰に遠慮することもないよ。美月が美月らしくいてくれれば、それでいいんだ」飛行機の扉が閉まり、窓から見える景色がゆっくりと動き出す。長い滑走路を速度を上げて浮上すると、名古屋の街並みが小さくなり、やがて雲の下へと消えていった。機内食を終えて、暗くなったキャビンで私は隣で眠る世羅の寝顔を見つめた。世羅は、私が「日本語教師になりたい」と言った時、陸のように「そんな不安定な仕事」と馬鹿にして笑ったりはせずに、「僕に出来ることがあればサポートさせてほしい」と真っ直ぐな瞳で言ってくれた。バッグの中にある、日本語教員の認定証。これからは、誰かに与えられた贅沢ではなく自分の力で生きていく。――――数時間後、窓の外には朝焼けが広がり始めていた。私たちは、期待と希望に満ちた新しい世界の入り口・アメリカの地へと、静かに降り立った。
last updateLast Updated : 2025-12-25
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