All Chapters of 夜明けと共に忘れるはずの恋だった: Chapter 11 - Chapter 20

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11.運命の再会と冷酷な態度

会場の外を出てエントランスからトイレに向かおうとすると、反対側の通路から世羅が歩いてきた。周囲には誰もいない。私は、この機会を逃すまいと世羅の元へとそっと駆け寄った。「あの……先程はありがとうございました。とても嬉しかったです。あと、初めましてと言ってごめんなさい」驚いて一瞬表情が固まった世羅だったが、じっと私の目を見つめると静かに息を吐いた。そして、しばらくの沈黙が続いた後、彼は視線を外して、まるで興味がないとでもいうような素振りを見せながら言った。「私には何の事だか。ただ、配偶者や恋人など身近な人を悪く言うのはどうかと思って言葉にしたまでです」陸に伝えた時の同じような冷たい態度に心臓が痛む。それでも、私は必死に言葉を繋いだ。「三か月前、私はあなたにお会いしました。繁華街を抜けた裏通りにある小さなバーで、この地域の名物を聞かれて一緒にお酒を飲みました。結婚観の話になって、あなたが『夫婦って対等で支え合うはずなのに』って言ったことが、ずっと私の胸に残っていて……」「人違いではないですか」「お名前も伺いました。それに胸のポケットには『Yanagi』と彫刻されたボールペンもあって、あなたに間違いないんです」必死に食らいつこうとする私に、世羅は苦い顔をしてから更に冷たい声で突き放した。
last updateLast Updated : 2025-10-17
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12.住む世界と募る衝動

世羅との再会を終えてから、私の頭の中は、彼のことばかりで占められるようになった。あの夜の世羅の言葉の裏にある真意を、彼のことをもっと知りたくて、ネットで彼の情報を検索した。しかし、知れば知るほど、自分とは住む世界が違うのだと思い知らされる。創業百五十年で国内ではトップクラスの知名度と企業規模を誇るヤナギ・グループ。強みは最先端の研究開発だった。世羅は、有名大学と共同の新薬開発にも関わるグループの中核を担う研究者らしい。彼の受賞歴や論文、対談記事の多さに私はただ圧倒されるしかなかった。(グローバル企業『ヤナギ・グループ』の創業者一族が、なんであんな路地裏のバーなんかに入ったんだろう。有名店や格式高い店はたくさんあるし、彼ほどの人なら食事をしたい人も接待を受けることも星の数ほどいるはずなのに……)きっと私には分からない、選ばれた者だけが持つ孤独な世界があるのだろう。『結局相手が見ているのは、僕自身ではなく周りを取り巻く環境や肩書きだったりする』あの夜、そう言って少し寂しそうに話をしていた世羅の顔をふと思い出す。あの時はぼんやりとしか見えていなかったが、世羅の境遇を知って、目の色を変えて寄ってくる人がいても不思議はない。そういう人を大勢見てきて、心から信頼できる関係を築けず疲れてしまったのだろうか。だからこそ、何の肩書きも持たない私との、一夜の『対等な関係』を求めたのかもしれない。そんなことを考えてネットサーフィンをしていると、世
last updateLast Updated : 2025-10-18
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13.自分の居場所

――講演会までの一か月間、世羅の講演会当日を楽しみに、私は目の前のことを淡々とこなしていった。「おい、毎月の数字はどうなっている。何をやっているんだ。お前はいつまで経っても何もできないやつだな」「その資料でしたら五日前に既にメールを送っています。ご確認ください」「なんだと?それならプレゼン資料は?」「そちらは三日前の午後三時に内容の確認依頼のメールをあなたに送っていますが、返信がないので保留になっています。確認していただけたでしょうか?」陸がいう中身のない戯言は聞き流し、本当に必要な仕事だけを期日の数日前に余裕を持ってこなし、出来る限り陸と話をしなくてもいい状況を意図的に作り出していった。そして、自分の身を守るため、代わりに行った仕事は陸一人だけではなく、部門の課員にも送り証拠として少しずつ残していった。(このまま結婚するにしても、もう陸の言いなりにならない。陸の都合のいい『モノ』として使われて捨てられる人生なんて絶対にイヤ)世羅の「夫婦は対等であるべき」という言葉と、陸に「身内を卑下するな」と忠告した時の視線が私の強い原動力になっていた。陸は、私の態度が変わったことに最初は怒鳴り散らしていたが、冷静に反論すると、言い返す言葉が見つからず話を切り上げてどこかに行ってしまうことが多くなった。
last updateLast Updated : 2025-10-18
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14.所有欲と嫉妬の炎

陸side俺が外出先からデスクに戻ったのは午後三時を過ぎた頃だった。取引先との交渉が長引いたせいで、今日は一段と気分が悪い。美月を呼びつけ、残りの面倒な仕事を全て押し付けてやろうと思ったがデスクには美月の姿がない。「チッ」美月の不在に苛立ち、資料を探すため、美月のパソコンやデスクを乱暴に散らかしながら探していった。書類をめくり、備品を床に叩きつけながら探していたが苛立ちはどんどん強くなっていくばかりだった。「どこにいるんだ、あの役立たずの女め……。」そして、デスクの一番下の引き出しに美月の鞄が入っているのが目についた。その中に、クリアファイルと印刷した紙が入っているのが見えた。(なんだこれは?なんで鞄に書類が入っているんだ?)不思議に思い、クリアファイルに手を伸ばすと大学の講演会の案内とチケットが床に滑り落ちた。日付は今日の夜で、この近くの大学だった。(仕事終わりの夜に、わざわざ講演会に行くなんて、物好きなやつもいるんだな。)最初は興味がなく、そのまま鞄に戻そうとした、その時だった。ゲスト欄の『柳 世羅』の文字が視界に飛び込んできた。プロフィールも先日のパーティーで聞いた時と同じで、世羅という珍しい名前を間違えようがなかった。
last updateLast Updated : 2025-10-19
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16.神のお告げと近くて遠い距離

美月sideしばらくすると、受付のスタッフTシャツではなくスーツ姿の男性が、困惑した表情で私の前に現れた。軽くお辞儀をしてから、男性は申し訳なさそうに眉を下げて口を開く。「私、この講演会の責任者をしております。大変申し訳ございませんが、チケット自体に購入者の名前などの印字がなく、照合がとれないものでして……誠に恐縮ですが、チケットがないと、いかなる場合も入場できないことになっています」その言葉に激しい動揺が走る。チケットを最後に見たのは、今朝、鞄に入れた時だ。必死に購入完了のメールを提示するが、規定は覆らない。「そうですか……」「購入完了のメールも拝見し、私どもとしても大変心苦しいのですが、あいにく席も満席のいっぱいでして……」世羅に会うことすら叶わないという現実に肩を落とした。これは、彼に会わずに現実へと戻るようにというお告げなのかもしれないと自分に言い聞かせるが、落胆の色は隠せない。「忙しい時にお時間を取らせてしまい申し訳ございませんでした……。ありがとうございます」私の力ない声に、尚更申し訳なさそうにする責任者へもう一度頭を下げて、その場を立ち去ろうとした、その時だった。
last updateLast Updated : 2025-10-20
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19.VIP席と美月の横顔とほとばしる衝動

陸side二時間にわたる講演は、俺にとって退屈でしかなかった。壇上の柳世羅の顔を見るたび、俺を説教した彼の態度と奴に会いに行こうとした美月への怒りが込み上げてくる。しかし、その世羅がスピーチの後でお辞儀をすると、参加者は拍手喝采で退場を見送っていた。「本日はありがとうございました。出口は左右後方に二か所となります。お足元に気を付けて―――」スタッフが終わりを告げるアナウンスをすると、観客は一斉に立ち上がってぞろぞろと帰り始めた。俺も立ち上がり、周囲を見渡してずっと美月の姿を探していた。(どこだ、あいつはどこにいるんだ――――?)美月と同じくらいの背丈で髪の長い女は何人かいたが、顔が全然違う。美月には、初めて会ってすぐに恋に落ちた。あの美しく整った顔を見た時に、何が何でも手に入れたいと思ったのだった。(くそ、くそ、くそっ、美月は一体どこに行るんだ―――)視線を左右前方の至るところに慌ただしく巡らせていると、ホールの前方で、スーツ姿の男性が客席の人に向かって何か話しかけて、丁寧に誘導をしているのが見えた。他のスタッフが専用のTシャツを着用する中、その男性だけがスーツを着ておりゲストをもてなしているようだった。客席の後ろには『関係者専用席』と書いてあり、世羅に近い特別な人物のようだった。(関係者専用ね、VIP席みたいな感じか?偉そうに……
last updateLast Updated : 2025-10-23
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20.世羅と陸の決定的な違い

美月side関係者席は、ステージ中央の一列目から五列目に用意されていた。他の一般席は既に満席で、なんの問題もなくチケットで入っていたらもっと後方の席になったかと思うと、なんだか申し訳ない気持ちだ。そして、世羅の配慮で特別にこの場にいられるという事実に、私の心は大きく音を立てながら、じんわりと温かくなっていた。講演会が始まると、世羅はゆっくりと壇上に上がり、柔らかい笑顔で会場全体を見渡してから、お辞儀をしてスピーチを始めた。「本日はお集まりいただきましてありがとうございます。みなさんがお時間を割いて、ここに来てくださったことに感謝します。必死で駆けつけてくれた方もいて嬉しい限りです。あので、少しでも皆さまにとって有益・有意義な時となることを願って講演を開始したいと思います」『必死で駆けつけてくれた方』、そう言った時に世羅は一瞬私の方を見て、目があった気がした。(違う、きっと勘違いだ……自分の都合のいいように考えちゃ駄目……)本当は私のことを言ってくれて、来てくれて嬉しいと言われたことを想像していたが、これ以上、世羅への想いが大きくならないように必死に自分に言い聞かせていた。 前回は薬剤界の有識者が集まる場でのスピーチだったため、専門的な内容も多く難しかったが、今回は学び始めたばかりの学生や一般の人も対象としているため、専門的な用語は極力使わず、分かりやすく伝えようとしている
last updateLast Updated : 2025-10-24
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