All Chapters of 夜明けと共に忘れるはずの恋だった: Chapter 51 - Chapter 60

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52.待ち合わせ

美月side「まさか食事だなんて……ゆっくり話す機会が出来るなんて夢みたい。本当に私と?」ふわふわと浮足立った思いで電車に乗っていた。窓から見える景色はきらきらと煌めいていて、初めて世羅と出会った日の夜のことを彷彿とさせる。あの夜、彼と話をして、朝まで語り合って優しさに触れたことで、私の人生は変わった。(あの時は、全てが真っ暗で、街の煌めきさえもやかましくて自暴自棄になっていたな。ひっそりと一人になりたくて行った店で世羅と出逢って、一人になるどころか、もう一度会いたいと思うだなんて……)裏通りのひっそりと静かに佇む店が世羅と私が出会った場所だった。その日の記憶が鮮明に蘇るにつれて、ふとある疑問が頭をかすめた。(あれ?あの時、私は落ち込んだ姿を誰かに見られたくなくて明るい場所を避けて暗い道の入口も暗いあの店を選んだけれど、世羅はどうしてあの場所を選んだのだろう?あの時、私に名古屋の名物を聞いたから、世羅は名古屋のことを知らないはず。なんでわざわざあんなディープな店を選んだの?)今まで自分のことで精一杯だったが、世羅の視点で考えると不思議な点が多い。彼は、あの時、何故あの店を選んだのだろうか?それとも、何か理由があったのだろうか?疑問に思っていたが、あっという間に電車は世羅が言っていた駅について、乗り過ごさないように人混みに飲まれながら駅の改札を抜けた。辺りをきょろきょろと見渡したが世羅の姿はなかった
last updateLast Updated : 2025-11-14
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53.静寂

美月side改札を抜けた人々は、バスや自転車、徒歩でそれぞれの帰るべき場所に向かって歩いていく。電車が来るたびに大勢の人が改札を抜けて賑わうが、しばらくすると人はまばらになり、お祭りが終わった後のようなどことなく寂しい気持ちが伴う静けさがあった。そんな光景を六回見て、このまま待っていても会えないかもしれない。そんな不安が心を襲った時だった。「酒井さん、すみません。遅くなりました」聞き慣れた低く穏やかな声が後ろから聞こえた。私は、安堵で力が抜けそうになりながらすぐに振り向いた。「あ、いえ。大丈夫です。昼間は突然押しかけてすみませんでした。今も、お誘いありがとうございます」「いえ。とりあえず店に行きましょうか」私の言葉に対して、世羅は短く返事をして少し先を進んでいく。世羅の背中を追いかけながら、店までの道を終始無言で歩いて行った。会話もないこの空気がやけに重く感じて苦しい。世羅はどんな意図で私を誘ったのだろうか。昼間の冷たい拒絶が再び私の心に影を落としている。ついたのはコの字のカウンターが目を引く小さな小料理屋で、アットホームな雰囲気が漂いつつも、大きな声で喋る人はいないとても落ち着いた雰囲気のお店だった。
last updateLast Updated : 2025-11-14
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54.目的

美月side「酒井さん、先程の話ですが、僕は何もしていません。あなたの人生が好転したのは嬉しいことですが、そのことに僕は寄与していない。僕を過信しないで、自分の実力だと受け止めてください」食事の注文を済ませるなり、私の話を聞く前から突き放そうとする言葉に胸がチクリと痛んだ。(わざわざこのことを言うために食事に誘ってくれたの?でも、これだけなら電話で済む話のはずなのになんで?)「そのことを伝えに?そうだとしても、私に気づきやきっかけをくれたのは、間違いなく柳さん、あなたです。あのコンサートの日だけではありません。初めて会った夜も、医療団体のパーティーであなたがスピーチした時も、私はあなたに会うたびに助けられて、前を向く勇気を貰っているんです」私が懸命に感謝を伝えようとすると、世羅は静かに箸を置きまっすぐ私を見つめた。その視線は、昼間の仕事の視線よりもさらに厳しく核心を突こうとするものだった。「……失礼ですが、何が目的ですか?」「え?目的って?」予想外の言葉に私は戸惑いを隠せずに口ごもってしまった。「話は早い方がいい。あなたもその方が都合がいいのではないのですか?僕もじっくりと時間をかけて信用を勝ち取ろうという魂胆なら、回りくどいことはしないで
last updateLast Updated : 2025-11-15
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55.告白

美月side「今は、信じられないのですよね?それはいつか信じてもらえる日がくるのですか?」「言葉を誤りました。私があなたを信じることはないと思って下さい」はっきりと宣言するような世羅の言葉に心がひんやりと凍えている。しかし、陸との生活に比べたら、世羅の言葉はわざと冷たくしているようで芯に温かさがあるように感じられた。「夫婦って対等で支え合うべきもの。初めて会った時、あなたはそう言っていました」私がそう言うと、世羅は箸を持っていた手を止めて、私の方へ顔を向けた。横から視線を感じながら、世羅の誤解が解けるように本心に合う言葉を選びながら話を続ける。「私とあなたは、夫婦ではないですが、人と人も本来は対等だったはずなんです。それが周りの環境や身分で、自分の方が上だと思って勘違いしたり、逆に上の者に媚びることで、対等のバランスが崩れていく。私は、目上の方を敬うことはしますが、媚びたり、何かしらの対価を求めたりはしません」「あなたは自分が下の立場の人間だと?」「―――――ええ、あなたと出逢ったばかりの頃は。私は、父の取引先の息子に気に入られて結婚を強いられました。交際していた人がいたので断ると、その人は父の会社の取引量を大幅に減らして、倒産危機になるまでの圧力をかけてきました。私は、会社と社員を守るために婚約を受け入れるしかなかったんです。その男こそが、あなたと会った時に
last updateLast Updated : 2025-11-15
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56.告白②

美月side「あの講演会の日、あなたがあの人に提言して助けてくれたのに私が拒絶したのも、耳元で父と会社のことを言われて脅されたからです」あの日の真実を打ち明けると、世羅は言葉を失い深く静かに息を呑んだ。「陸に直接、指摘して私を助けようとしてくれたのは、あなただけでした。それまで私は、この結婚を受け入れて耐えるしかないと自分に言い聞かせていたけど、あなたの『夫婦は対等であるべき』という言葉に、そして私を守ろうとしてくれた行動に勇気をもらい、このままでは駄目だと心の底から思ったんです」世羅に出逢ってからのことを思い出すと、つい頬が緩む。私は指で髪を耳にかけてから世羅の目を見て懐かしむように微笑みながら今までのことを回想していた。「それから一年かけて父の会社を立て直し、婚約を破棄しました。今、私は自由です。あなたに会いに来たのは、その報告と感謝を伝えるため、ただそれだけです」涙が零れそうになるのを堪えながら必死に震える声で話す私に、世羅は、テーブルの下で強く拳を握りしめていた。その瞳は、もう私を疑うものではなくなっていた。「そうだったんですか――――。先程は失礼なことを言ってすみませんでした。私は、あなたがあの時、彼の手を握ったのは私の勘違いで、あなたにとって迷惑だったからだと思っていました」「そんな……本当は、嬉しかったんです。陸との婚
last updateLast Updated : 2025-11-16
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57.告白③

美月side「僕はあの時の彼の態度が酷くて、あなたを助けようとしましたが、まさかそんな深く響いてあなたの人生を変えるきっかけになったなんて思いもしませんでした」「私も……。でも、あなたと会うたびに、私は不思議と前を向いて立ち向かう勇気を貰えるんです。あなたが、私の原動力になっているんです」(彼に嘘はつきたくない。本心を真っ直ぐに伝えたい。)そんな思いで世羅の透き通った瞳に訴えかけると、世羅は、テーブルの下で握っていた拳を端に当てて口元を隠すような仕草をした。張り詰めた警戒心は消え、彼の瞳は、少しばかり動揺したようにぱちぱちと瞬きをしている。「原動力、ですか。そんなに真っ直ぐな瞳で言われると、なんだか照れますね」「あっ……」世羅の言葉に、自分がとんでもなく大胆に感情を伝えてアプローチしている気分になったが、そんなことはもうどうでも良かった。ただ、自分の行動や気持ちに打算がないということが世羅に届くことを願った。「そうですね。柳さんに言われて、私も照れてしまいました。でも、間違いのない私の本当の気持ちです」世羅はしばらく黙っていたが、やがて静かに顔を上げ、グラスに手を伸ばした。
last updateLast Updated : 2025-11-16
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58.真相

美月side「あなたは凄い。自分の置かれた境遇に立ち向かって、しっかりと結果を残している。芯のあるとても強い女性だ」「いえ、私一人ではとても出来ませんでした。それに、あなたに会っていなければ諦めていたと思います。だから、私は初めて会った夜からあなたとの出会いに感謝しているんです。あんなひっそりとした店で、人生を変えるような出会いがあるなんて思いませんでした。柳さんはどうしてあのお店に?」私が尋ねると、世羅は表情を少しだけ固くして、目の前の日本酒が入ったお猪口に視線を映して、ぼんやりと眺めていた。彼の心の奥深くにあるデリケートな部分に触れてしまったかもしれない、とすぐに気づいて私は慌てて謝罪した。「あ、ごめんなさい。プライベートに入り込むようなことを聞いてしまって……今のことは忘れてください」そういうと、世羅は困ったような笑みを浮かべてからポツリポツリと静かに話し始めた。「一人になりたかったんです。いや、正確にはホテルの部屋で一人閉じこもるのは、余計に塞ぎ込んでしまいそうだったので外に出たのですが、街の賑わいが、あの時の私には少し騒がしくて。誰かの存在を感じながらも、静かな場所に身を置きたかったんです」「……分かる気がします。私は、あの時、遠藤の暴言や行動に疲れ果てて会社を飛び出してきました。街の楽しそうな雰囲気に自分の気持ちが追いつかず、小さな外灯を申し訳なさそうにポツリと照らす店構えが、自分の心
last updateLast Updated : 2025-11-17
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59.あなたのような人

美月side「柳さんが塞ぎこみそうになったのは、どんなことがあったのですか?」世羅に尋ねると、ためらいがちだったが目を逸らさずに私を見て答えた。「あなたに会った時、私が結婚について話したことを覚えていますか?私には結婚する予定の女性がいたのですが、その人は、僕の家柄や境遇が目当てでした。」「そんな……」「あの日、名古屋にいたのはその人と会うためだった。だけど会った時に、彼女は僕に内緒で資金援助をアテにしてすでに裏で話を進めていたことを知り、関係を断ったんです。そんな話をするために来たわけではなかったので参っていて……」世羅の口調には、深い傷と、人間関係に対する絶望が滲んでいた。私が陸の支配によって傷つけられたように、世羅は愛情の裏切りによって心を閉ざしていたのだ。「だから、昼間、あなたが私のことを『原動力』だと言ってくれた時、それを素直に信じることができませんでした。『何か目的があるのだろう』と疑ってしまった。」「柳さん……」私たちの出会いは、全く違う状況に見えて、本質的には『傷つき、逃げ場を求めていた孤独な魂』同士の邂逅だった。私は、世羅の深い傷を知り、初めて彼を『憧れで理想の人』と
last updateLast Updated : 2025-11-17
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