All Chapters of 夜明けと共に忘れるはずの恋だった: Chapter 21 - Chapter 30

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21.世羅と美月、動揺と怒りの陸

美月side談笑を続ける関係者の列が途切れ、ついに一番最後にいた私の番になった。世羅は、穏やかな笑顔を浮かべて私の前に立っている。「今日は本当にありがとうございました。専門的な話を分かりやすく解説されていて、とても楽しく、勉強になりました」「……そうですか、良かったです」世羅は、微笑みの中にも不信感が混じったような複雑な笑顔で私に対応してくれていた。(もう次に会えるのはいつか分からない。もう二度と会えないかもしれない……)そんな切ない想いが私を突き動かしていた。一度は諦めかけた再会を、世羅のおかげで実現できた、この夢のような再会をただの思い出で終わらせたくない。「あの……最後に、握手をしてもらえませんか?」他の人と同じように私が握手を求めると、世羅は一瞬だけ戸惑ったが、目を細めて静かに微笑み、手を差し出してくれた。私は、両手で包み込むように、大切なものを受け取るように世羅の手を握った。世羅の長くて細い綺麗な指と柔らかい肌の感触から、確かな熱が伝わってくる。私は、体温の熱だけでなく、世羅から温かい気持ちももらったような気分になり、嬉しさでそっと瞳を閉じた。この一瞬が、永遠に続けばいいと願
last updateLast Updated : 2025-10-25
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24.振り払った手と新たな決意

美月side「そういうことだから、変な勘違いされていい迷惑だよ」「……私の勘違いで失礼なことを言ってしまい、すみませんでした」陸は周りにも聞こえるような声で、勝ち誇ったように世羅に言い返している。世羅も陸に対して謝罪をしている声が聞こえてきた。私を助けようとしてくれたのに謝罪させてしまったことに、申し訳なさで胸が張り裂けそうだった。陸は私の元に走って駆け付けると、世羅に見せつけるかのように、私の肩に手を回し自分の胸の方へと乱暴に引き寄せた。チラリと世羅のいる後ろを振り返り、薄気味悪い笑みを浮かべている。「お前、俺の言うことを聞かないなんてどうなるか分かっているだろうな」優しさの欠片もない低く冷たい声が耳元を襲う。陸に買われたペットみたいに、陸の手が首元に絡みつき、腕が首輪を結ぶリードのように、私を離そうとしない。世羅に会うという夢のような時間から、一気に現実という地獄へと突き落とされていった。会場の外に出て、最後にもう一度だけ振り返ると、世羅の姿は既になく誰もいなくなっていた。あの温かい手、優しい視線、そして「対等であるべき」という言葉。私の希望の全てを、私は自らの手で振り払った。(きっと世羅とは会えることはもうないだろう。でも、それが父の
last updateLast Updated : 2025-10-26
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26.自己犠牲から自己解決策の模索

美月side「ねえ、うちの会社の売上明細をしっかり見せて欲しいの。財務状況を詳しく知りたい」陸から逃げ出して無事に家に帰宅した私は、すぐにリビングに直行し、ビールを飲んでテレビを見ている父に必死で懇願した。父は、驚いた顔でこちらを見返している。「突然どうしたんだ?何かあったのか?」父はテレビを消して、私の方を向いて真剣な顔で聞き返してきたので、大きく深呼吸をしてから、まっすぐに父を見て話を続けた。「今は何もない。でも、陸が前回圧力をかけて一時的に取引額を減らしたこともあるし、いつまでも遠藤製薬だけに頼っているのは危険だと思うの。このままでは、遠藤製薬、いや、陸が言う通りに動く駒でしかないわ」感じていた最大の懸念を指摘されて、父の顔がわずかに曇った。「……それは、確かに美月の言う通りだ。だが、新規取引先と言っても簡単に見つかるものではないし、それを請け負えるだけの人手も、体力もないのが現状だ」「それなら、事務作業を効率化して作業員や営業員の人数を増やすのは?今まで、お父さんの会社だし、私は一社員に過ぎなかったから口出ししなかったけれど、改善点はたくさんあると思うの。そこを直していけば、全体の作業効率が上がるはずよ」「それはそうだが&helli
last updateLast Updated : 2025-10-28
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27.弱点の克服と無駄ではなかった時間

美月side「……そうだよな。美月が会社や社員のことを考えて決断をしてくれたことも、親として、本当に不甲斐ないし感謝してもしきれない。迷惑や苦労をかけていて申し訳ないと思っている。だから、美月に頼ってばかりではなくて、しっかりと会社を継続するための案を考えるべきだよな。美月の考えも聞かせてくれ」「ありがとう、お父さん……」父の理解と謝罪の言葉に、闘志で張り詰めていた心が少しだけ緩んだ。私の今の最大の弱点は、父の会社のことだ。陸から、父の会社や働いてくれる従業員のことを話に出して脅されたら、私は陸に従うしかない。父や従業員を裏切るようなことは出来なかった。でも、このまま陸の言いなりの人生も、もう耐えられそうになかった。それならば、弱点と思われている部分を徹底的に強化して、陸の脅しに屈しない体制を作ろうと考えた。すぐに花が開かず、実績に結び付かなくとも、ただ現状維持で日々を過ごすのは嫌だった。幸い、父の会社の事務員さんが定年で退職する時期だったため、父と私で陸の父親に話を通して承諾を得てから、婚約は継続するが陸の会社を退職し父の会社へと籍を戻した。毎日、父の会社に出勤し、会社の財務と現状の取引状況を徹底的に分析した。取引先の受注金額や利益率を確認し、取引先別の利益率の向上と、電子化による残業時間の削減で人件費
last updateLast Updated : 2025-10-29
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28.水面下の行動と自立の準備

美月side父の会社に戻ってから半年が経った。陸のいる遠藤製薬の受注はこれまで通りこなしつつ、水面下で他の取引先との価格交渉や、生産効率の見直しを行い、利益率を上げることに全力を注いだ。価格改定することで取引を打ち切られることが怖く、材料の値上げ以外の価格改定は二十年以上していなかった。しかし、光熱費や人件費のベースアップなど、事情を説明して交渉すると、多くの取引先がすんなりと承諾してくれた。利益率が大きい取引先の受注率を上げることで、全体の作業量は変わらないが、収支は目に見えて改善していった。陸の会社で『役立たず』と罵倒されながら身につけた知恵が、今、父の会社を救う武器になっているのだった。また、会社全体の平均年齢にもメスを入れた。若手が入らないことを理由に、定年後も無理を言って働いてもらっていた人たちの後任探しにも尽力し、SNSや自社HPのリニューアルに着手した。古い体質から脱却し、若い世代の取り込みを図るため、全ての事務作業をPCによるフォーマット化など業務の流れを大幅に変えて効率化していった。最初は、急な転換に「これまで通りがいい」といった戸惑いの声も上がったが、利益が出た分だけボーナスで還元していくと、社員たちの士気も上がり反発の声は少なくなっていった。「美月ちゃん、頑張っているねー!やっぱり遠藤製薬の役員との結婚が決まってるから、気合入っているのかな?」
last updateLast Updated : 2025-10-30
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29.消えたお気に入りと色褪せた毎日

陸side「あれ、発注書や請求書の書式が変わっている」「それ思った。やり取りも早くなったし助かるよね」デスクにいると女性社員たちが何やら喜んでいたので、話しかけると美月の会社のことだった。美月が人手不足を理由に俺の会社を退職してから二か月が経った時のことだ。美月の会社からの発注書や請求書などの書式が、全て電子化されたフォーマットで送られてくるようになった。緊急時以外は、電話ではなくメールでのやり取りとなったらしい。送られてくるメールには、CCに自分の上司や会社の代表アドレスを入れて、受発注履歴を抜け漏れなく残せるように変わったそうだ。(前の事務員に変わり美月が作業するようになったのか。せいぜい会社の駒となって働けばいいさ。どうせ俺の会社に頼らなければ潰れる会社なんだ)美月との婚約は継続したままだったが、父親の会社に戻ったことで毎日会えないことに物足りなさを感じていた。電話には出るが、以前のような急な呼び出しには対応できないことが多く、そのことも俺を苛立たせている。仕事も他の人間に任せるも、美月よりも出来ない人間ばかりで俺は怒鳴り散らすことが増えていった。「どいつもこいつも馬鹿ばっかりだな。くそっ」俺の日常は、美月という『人形』を失ったことで、つまらなく不満だらけになっていた。美月がいなくなって八か月が経った、ある日のことだった。役員たちが集まる会議で資料に色々な指摘を受けて、苛立ちながらデスクに戻りメールを開くと、担当者と俺宛てに美月の会社からメールが入っていた。――――――――――――――――――――――― 件名:【要確認】注文数量に関するお問い合わせ 注文いただいた品ですが、今までの注文数と異なっていますが、そのままお受けしてよろしいでしょうか?納期や数量について一度ご確認の上、明日までに返信いただけますと幸いです――――――――――――――――――――――――担当者は今日休みで、すぐに確認が出来ない。間違えなんて起きるはずがない。どうせ美月の会社の事務が形式的な確認をしているだけだろう。(俺の会社からの発注に、いちいちケチつけるような真似しやがって。昔ならこんなメールなど送ってこなかったくせに)明日までだし急ぐことはないと、俺はそのままメールを放っておくことにした。
last updateLast Updated : 2025-10-31
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30.横暴な態度と誤発注

陸sideその次の日も担当は体調不良で休暇を取ったため対応が出来ず、夕方になって美月から会社宛てに電話が掛かってきた。「昨日、メールを遅らせていただいたのですが、注文数が従来の数と異なっており、倍の量の注文を頂いています。こちらの数で大丈夫でしょうか」「お前はこっちが間違えたとでも言いたいのか?」美月からの丁寧ぶった物言いが俺の感情を逆撫でさせる。「いえ、そんなことは……。ですが、二倍の量ですと金額も量も膨大になりますので、最終確認のためお電話させていただきました。あと、納期についても従来と同じ期間だと納品が難しいこともあり、一度ご相談させていただきたくて……」「は?出来ないとでも言うのか?今後の取引がどうなってもいいなら好きにしろ。数量が二倍だか何だか知らないが、今まで通りの納期で間に合わせろ。いいな!」美月が何か答える前に俺は一方的に電話を切った。(いちいち俺の指示に逆らうような真似をしやがって……)そして、十分ほどして俺に電話で確認をしたため、正式に注文を受け取ったと書かれた旨のメールが担当者と俺宛てに送られてきた。担当者は、翌日も高熱が出たと言って休み、午後になりインフルエンザだったと報告の電話があり、そのまま一週間有給を取ったのだった。俺は、美月とのやり取りをすっかり忘れていて担当に報告することはしなかった。担当者が十日ぶりに出社し、溜まりにたまった書類とメールを片付けていると正午になる頃に悲鳴のような声が聞こえてきた。「きゃー!!なにこれ。どうしよう」顔面が真っ青になり動揺している彼女に、他の社員も気がついて声を掛けている。「注文書なんですが、30,000個注文するはずがキーを間違えて60,000個と打って間違えていたみたいで確認のメールが届いていたんです。期日もとっくに過ぎていて……どうしよう」「おい、どうするんだ!!30,000個が60,000個ってかなり違うじゃないか!!期日過ぎているなら先方はどうしたんだ?その後連絡はないのか?」課長も慌てながら、事務員を叱りつつ内容の確認を指示している。「すみません、確認しています。」手を震わせながらパソコン操作をしていたが、次のメールを開いた瞬間、彼女は驚いてマウスを動かしていた手を止めて固まっていた。
last updateLast Updated : 2025-11-01
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