All Chapters of 夜明けと共に忘れるはずの恋だった: Chapter 61 - Chapter 70

142 Chapters

61.約束

美月side「……はい、何でしょう」「あなたが、私との出会いを原動力に自分の人生を好転させたこと、そして自由を手に入れたこと。それは、本当に素晴らしいことです」世羅は一度言葉を切り、深く息を吸い込んだ。「ですが、先ほどもお伝えしたように、あなたの努力の結果なんです。私は、ちょっとしたきっかけに過ぎません。あなたには、自分の力で立つ強さがある。」昼間とは違う優しい口調だが、暗に『あなたは一人でも大丈夫』と突き放すような言葉にも聞こえて、世羅の瞳をまっすぐ見ていた。一人でも生きていける。自分は必要ないとでも言われる前に、この目に世羅の姿を焼き付けておこうと思った。「次にお会いする時、もうあなたは私に感謝を伝える必要はありません。次は、会えなかった期間、会社のためにどんなことをして、どう改善したか聞かせてください。私はあなたの憧れではなく、同じ時間を共有した知人としてあなたのことを聞きたい。」「……ありがとうございます。とても嬉しいです」憧れから知人への昇格、思ってもいなかった言葉に私の瞳は潤んで雫となって目の際に大きな粒となろうとしている。そんな私に、世羅は穏やかな笑みを見せた。「楽しみにしています。それでは、酒井さ
last updateLast Updated : 2025-11-18
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62.温もり

美月side大阪の冷たい夜風が私たちに容赦なく吹き付ける。耳や手に当たる風がひんやりとして、手の内側から伝わる熱をより温かく感じさせていた。世羅の透き通る瞳に吸い込まれるように見つめていると、ふいに手に力が入り世羅の胸元へと引き寄せられた。世羅の匂いや胸元から聞こえてくる鼓動や放たれる熱が、私を痺れるように温かく包み込んでいく。「……柳さん?」「すみません。風が冷たかったのでつい……」世羅はすぐさま私の両肩に手を置いて身体を引き離した。二人の間に再び冷たい夜の風が流れこみ、身体を冷たくさせる。「こんなこと駄目ですね。あなたに幻滅されるようなことはしたくない。それに私にもまだ関係が切れていない相手がいる」(幻滅なんてしない、私もあなたの笑顔を見た時に腕を引き寄せられることを夢見ていたもの……)喉元まで出掛かった言葉は、次に言った『関係が切れていない相手』という言葉でストンと消え去っていった。それは自分自身にも私にも言い聞かせているようにも聞こえて、これ以上踏み込んではいけないと警告しているかのようだった。「いえ……」言葉を交わすことなく、駅までの道をゆっくりと歩いていく。沈黙に
last updateLast Updated : 2025-11-19
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63.回想

美月sideホテルについて部屋に入ってから、世羅と初めて会った夜のことを思い出していた。私が泊まるビジネスホテルとは違い、世羅が取ったホテルはシティホテルで、部屋ももっと広く、部屋にはベッドのほかに、二人が座れるソファとローテーブルがあった。私たちは、そこで朝までずっと話し続けていた。ロックで飲んでいたウイスキーは、話に夢中になっているうちに氷が解けて、黄金色からうっすらとした淡い金色に変わり、アイスペールの氷がすべて水になると、カーテンの隙間からうっすらと太陽の光が零れてきた。その光が合図のように、お互い急な睡魔に襲われて、ソファからベッドに移り、横になったのだった。ふわふわの布団に身を沈めると、電池が切れたように眠りに落ちた。しばらくして目が覚めると、隣には長いまつ毛を閉じてすやすや眠る世羅の姿があった。誰かと夜更かしして語り合うなんて、大学生の頃以来だった。しかも、陸との関係が始まって以降、抑圧されていた私の心にとって、人生観や価値観、将来の希望など、自分の素直な思いの丈を熱く話すのは、本当に初めてだった。世羅の言葉も、まるで自分の気持ちを代弁してくれているかのように共感でき、今でも鮮明に胸に残っている。 この夜は、私への最後のプレゼントでもあり、現実へ戻るための束の間の休息だったのだろう。世羅との出逢いは、朝日が昇るのと一緒に忘れなくてはいけない。ものだった。
last updateLast Updated : 2025-11-19
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64.停滞

美月side名古屋に戻ってから、私はすぐに大阪で練った会社の成長を促す戦略を推し進めることを提案したが、現実は厳しいものだった。中小企業で年齢層も高く、勤務年数も長い役員や社員が多いため、慣れ親しんだやり方がいい、リスクを負ってまでやる意味があるのかと否定的な意見が出てしまった。また、遠藤製薬との取引条件が見直されただけで十分と現状維持を希望する声も多かった。収益が改善されて最初は感謝されていたが、徐々に「少しやりすぎだ、そこまでしなくても」という声も上がるようになり、私は少しずつ孤立していくようになっていった。(はー、みんなの言うように待遇が改善されただけいいと考えるべきなのかな。遠藤だけに固執しない、売上構成比を下げたいというのは私の独りよがりなのかな……)従業員たちの意見も理解できる。彼らにとって、遠藤製薬があってこそのうちの会社で長年の安定をもたらした大黒柱であり、現状維持は最も安心できる選択なのだ。しかし、私が遠藤以外の会社の取引を増やしたいと思ったのは、遠藤製薬の三男で元婚約者の陸の横暴さを間近で見てきたからだった。相手のことを思いやることなど一切なく、自分の思うままにことを進める。そして、間違った時には失敗を人に押し付ける汚さが陸にはあった。そんな会社が、主要取引先で自分の会社の命運を握っていると思うと、万が一責任転嫁されたら、立場の弱いうちの会社は太刀打ちできない。陸も後継者になる可能性がゼロではないからこそ
last updateLast Updated : 2025-11-20
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67.真相の告白

美月side土曜日、涼真と食事に行くことになり私は駅に向かっていた。名古屋から郊外に離れていくこの路線は、涼真と会う時だけに使っていて乗るのは久々だった。電車に揺られながら窓の景色を見ていると、あの時の気持ちが蘇ってきた。学生時代は、毎日のように大学で会っているというのに休みの日に二人で出掛ける時はデートだといつもよりメイクを張り切っていた。普段はカジュアルな格好が多かったが、ワンピースが好きな涼真に合わせてデートの時はいつもワンピース。そして今日も、ワンピースを着ている。(今日、涼真に会ったらどんな雰囲気になるんだろう。涼真はやり直したいと言って、彼女とも別れたみたいだし、あとは私がどうしたいかだ……)自分の気持ちが分からず宙ぶらりんなまま、涼真の元へと向かっていった。駅に着くと、涼真は少し緊張した面持ちで立っている。「お待たせ」「美月、来てくれてありがとう。行こうか」「……うん」一緒に居た時間の方が長いのに、一年半という時間は私たちに物理的な距離をもたらしていて、会話もどこかよそよそしく、過去のような親密な空気はまだ戻ってこない。涼真が選んだ、落ち着いた雰囲気のカフェで飲み物を注文し、しばし沈黙が流れた後、涼
last updateLast Updated : 2025-11-21
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69.違和感

美月side「そんなやつ、弁護士でもなんでも使って叩きのめせばいい。あいつは美月の人生を、そして俺と美月の将来を踏みにじったやつなんだ」「……ありがとう。怒ってくれるのは嬉しいけれど、うちの会社が遠藤製薬に依存しているのは事実なの。だから、今訴えたら会社の経営に支障が出るわ。それに、あの人の悪事を伝えて取引条件の見直しをしてもらって、今は他社よりもいい条件で取引出来ているわ。それにあの人も地方に異動になって、もうしばらくは関わることはないはずだし……」「そんなんじゃ甘いよ。裁判にして賠償金や慰謝料を貰えばいい。そのお金を資金にすれば会社だって大丈夫だろう」その瞬間、私の中で何かが大きく音を立てて崩れていった。会社と社員のためを思って婚約をして、陸の横暴さに必死に一人耐えてきた。その中で、なんとかして会社を守りつつも婚約破棄をするために、会社の立て直し策を考え、実績を出したことで、少しずつだが自走できるように変わっていった。それは簡単に出来たことではなく、長い歳月をかけてやっと実現したことで、何も知らない涼真に「慰謝料を資金にしろ」と指摘されたことは、今まで走ってきたことを全否定されたような気分だった。涼真の言っていることは、正義感としては全うかもしれない。だけど、現実はそんなに綺麗でも甘くもない。慰謝料が
last updateLast Updated : 2025-11-23
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