他の会社ならコンマ数%のために顔を真っ赤にして争うところなのに。この二人の社長はどうなっているのか。一方は金をあげたがり、もう一方は断固として拒否する。まるで何かの芝居だ。結局、更新契約は元の条項通りに締結された。湊はゆったりとコーヒーを飲み干した。会議室の外を見ても、静奈が戻ってくる気配はない。彼は万年筆をしまい、スーツを整えて立ち上がり、昭彦に別れを告げて離れようとした。会議室を出てすぐ,廊下の角から出てきた静奈と鉢合わせた。研究室から戻ってきたところだ。彼女の表情は晴れやかで、問題が解決したことが見て取れた。希が後ろについてきて、称賛の声を上げている。「静奈さん、すごいです!あんな複雑な問題の原因をこんなに早く突き止めるなんて!」静奈は淡く微笑んだ。顔を上げると、向かいから歩いてくる湊と目が合った。「神崎さん」彼女は足を止め、礼儀正しく会釈した。湊も自然に足を止め、彼女の穏やかで美しい顔を見つめた。「朝霧さん、首都から戻ってから、今後の提携の詳細についてゆっくり話す機会がなかったな。今夜都合はどうかな?食事でもしながら、今後の開発スケジュールについて詰めないか?」彼の誘いは合理的で、完全に仕事上の必要性に基づいているように聞こえた。だが静奈は、まだ動物病院に残されている雪玉のことを思い出し、心が痛んだ。彼女は申し訳なさそうな顔で、やんわりと断った。「神崎さん、本当に申し訳ない。今夜は先約があって。また日を改めて、詳しくお話しさせて」湊の眼底に、ごくわずかな落胆がよぎった。だがすぐに、いつもの余裕を取り戻した。彼は小さく頷いた。「構わないよ。じゃあまた今度」エレベーターに乗り、下へ降りる。湊は路肩で待っていた黒いセダンに乗り込んだ。すぐには発車させなかった。窓を開け、タバコを一本取り出し、うつむいて火をつけた。薄い煙が車内に漂い、深い瞳の中の複雑な感情をぼかしていく。昭彦の静奈に対する想いは、見ていれば分かる。上司と部下を超えた配慮、何気ない庇護の姿勢。同じく人の上に立つ男として、痛いほど理解できる。そして潜在的なライバルは、昭彦一人ではないだろう。静奈はあまりに優秀だ。美しい容姿だけでなく、確かな研究能力も持っている。
Read more